2章 ショックウェーブ2

《トレイク1よりドラゴンへ。レーダーに反応。方位280、高度31000ft、距離120nm、機首方位35》

 護衛対象の輸送機、C-3L AlbatrossⅡから連絡通信が入る。レーダーリンクされたMFDに不明機の編隊が映っている。機数は不明瞭だが3機以上は確認できる。

「ドラゴンリーダーよりトレイク1。IFFをチェック、敵性ならば撃墜する」

《トレイク1、了解》

 すぐさまIFFのチェックが入る。データリンクからIFFデータを確認。ディスプレイには…"不明"、応答なし。

《トレイク1よりドラゴン。付近にフライトプランを提出した民間機はない。バンデットと推定》

「ドラゴンリーダー、ラジャー。2から6、戦闘上昇。我に続け」

 高推力改造されたF/A-21F Block20は高度有利をとるための急上昇。一気に高度35000ftまで上げる。M/Aマスターアーム-ONオン。データリンク攻撃を開始。距離100nm、FCレーダー作動。FCS、対象機をロックオン。ミサイルにデータが入力される。

「ドラゴンリーダー、Engage。シーカーオープン。FOX1」AAM-01を発射。

《4、FOX1》続けて四番機が発射。着弾までは二分強。

 射程200km越えの古い技術、セミアクティブレーダーホーミングミサイルのAAM-01は、現代でも通用する攻撃方法。大型機の強力なレーダー波さえあれば高精度で誘導可能である。

 残り20nm、10nm。ロケットモーターがカットオフ、慣性飛行。着弾。レーダーディスプレイを見ると1機のみが回避に成功。輸送機にロックオン。

《こちらトレイク1、ロックオンされた!ECM》

「7から9、迎撃準備」

《ラジャー。8、9。M1-RDYレディ。FOX1》

 輸送機は、回避行動をとりながらECM。護衛機は、ミサイルを発射。三発。こちらも対象機に向け、残りのミサイルを発射。着弾まで一分半…命中。レーダーディスプレイからロスト。

《こちらトレイク1、対象機、ミサイルともにレーダーからロスト。攻撃照準波も感知されない。両方とも撃墜した模様、感謝する》

「ドラゴンリーダー、ラジャー。LPランディングポイントまで残り70nm。各機、警戒を怠るな」

《ラージャ》ラフな返答。敵機を撃墜したならこんなもんだろう。


 ポイントまで残り50nmのところで無線が入る。

《こちらトレイク1、レーダーにマージ。方位260、高速接近。同高度。報告にあった制圧兵器だ。ブレイク!》

「各機回避!2、3。MAXマックス-A/Bアフターバーナー。急速上昇。Angels 4-5。」

《2、どうするんです?》疑問の声。

「撃墜する。各機残弾確認。M1-RDYレディ。なければM2で攻撃準備」

《2、M1-RDYレディ。ラジャー》

《3...M2-RDYレディ。ラジャー》

 隊長機、2は、データリンクを使って長距離攻撃。FOX1。3は、よく端を垂直に折りたたみ、加速と追加上昇。短距離の赤外線ミサイル準備。

 先のAAM-01は、外れる。高速すぎてとらえられなかったらしい。3、レーダーアクティブ。FCS、ロックオン。

《FOX2》AAM-21発射。ロケットモーター、カットオフ。残り2㎞...

《トレイク1から各機へ。目標、レーダーからロスト。撃墜を確認した。冷や汗...どころじゃないなこれは》

「3、よくやったな。これは昇進ものだ」

《僕が隊長か》

「取らせない」

《案外うまくいくんじゃ...》と2。

「やめてくれ」少しは笑いながら返す。

《トレイク1より各機。LPランディングポイントまで残り35nm》

「ラジャー。各機編隊を戻せ」

《ラージャ》

 

 C-3L...トレイク1が運ぶ物資は、自分たちの部隊に知らされてはいない。おおかた、戦時機密のものだろう。噂では、大型の制圧兵器だとか。

 何のための戦いだろうか、ふと思う。確かに原因は、オーストラリアにある。しかし航空戦力による防空戦で侵攻は、防げる。その後譲歩した降伏、終戦協定さえ締結させればいい話だ。それを行わず、上層部...特に陸軍では、戦車揚陸艦等の準備を進めている。それにだ、オーストラリア側もこちらの装備に追いついていこうとしている。今はまだこちら有利だが、あと一歩という危うい瞬間があった。突如として奇襲されたこと。有利状況で待ち伏せされたこと。そして制圧兵器。まるで情報が流されているような...

《トレイク1より各機。ポイント到達。トレイク1よりヌメアタワー。MCミッションコード-1989CS、ランディングクリアランスを要求。》

《タワーよりトレイク1。IFFチェック、MCミッションコード確認。クリアランスを承認。オートランディングガイド開始》

 トレイク1の機体がランディングラインに乗る。誘導電波による自動着陸モード。そのまま姿勢を維持したままの降下。ギアダウン-ロック。そして着陸。きれいだった。ALSは、ここまで進化した。

 ヌメア基地は、ニューカレドニアにある国際空港を一部軍用化したものだ。通常1本の滑走路にもう1本追加、軍用施設とレーダーの増設を行っている。書類的、実務的にも管理者は、ニューカレドニア国防隊だがレイノム空軍の出張所みたいなものだ。ほかにも基地は存在し、本島北のウェリントン基地、パーマストン基地、ギズボーン基地、ハミルトン基地、ダーガビル基地。本島南のブレナム基地、カルバーデン基地、クライストチャーチ基地、アシュバートン基地、ティマル基地、ウィンザー基地、ダニーディン基地、インバカーギル基地。その中でもギズボーン、ブレナムは陸海空軍統合基地であり、基地面積は広い。地下空間もあり、いざという時は、避難場所になることもできる。あとはパプアニューギニアのポートモレスビー基地、フィジーのナディ基地がある。

 輸送機の着陸を確認した後、機体進路を帰路に戻す。護衛行動は終了、Return to base...RTB。9機の編隊は、西日を浴びながら国へ帰っていく。


 ドラゴン隊が帰投する。未帰還機なし、全機帰投確認。基地飛行管理としては、とてもうれしいことだ。最近は、新型兵器による被害が各飛行隊に広がっており、いつ自分の管理部隊がやられるのか心配していた。それは、自分のキャリアの将来につながるということもあるが、そんなことよりも仲間が、友人たち、部下たちが傷ついていくのは、怖かった。でもそれも今週で終わりだろう。ドラゴン隊が襲撃された時、迎撃した時のデータにより、新型の高速ミサイルが完成するらしい。小型の対艦ミサイルクラスの大きさで、各飛行隊に二発装備するらしい。今は、受け入れの準備が進んでいる。これで被害はなくなる。心配することはないだろう。

 出撃管理表通りに夜間戦闘空中哨戒機が離陸する。時刻は、2200。管理室に来ることがあり得ない人物がいた。ナバロ・カラウム、国防大臣だった。

「これは...大臣殿、どのようなご用件で?」

「直々に出撃命令を出しに来た。開始時刻は、明後日の0900」

 そういいながら大臣は、そこらに会った椅子に座る。

「でしたら基地司令に直接言ってくだされば私のところに来ますが...」

「重要なことでな。各作戦長の人間に直接言っている」

「はあ...では、作戦の内容は?」あまりいい内容ではなさそうだ。

「作戦内容は、オーストラリア本土への侵攻、その航空支援だ」

「本土侵攻ですか?」やはり...時期尚早だと思うが。

「直接的な戦闘は、別動隊が行う。貴部隊らは、空中哨戒、漏れた敵部隊の迎撃だ。なに、制圧兵器の心配はいらん。航空機装備型より先に艦載型の高速ミサイルがある」

「了解しました。作戦行動へのフライトプラン、システム入力を開始します」

「うむ、頼んだぞ」

 敬礼をし、大臣を見送ると深いため息をつく。簡単に言ったが今日を含め一日強でプランの作成、説明、準備は容易なことではない。しかし上からの直々な命令である。やるしかない。今日は、徹夜作業になるな。


「では、今回の戦闘はこのように...はい、はいそうです。こちらが有利側に、そうです。行動をお願いします。では」

「大臣、英国海軍の駆逐艦、3隻がオーストラリアより北、400㎞のアラフラ海にて確認されました。いかがなさいますか?」

「彼らは、我々の関係を知らない。すぐに沈めろ。オーストラリア側には、手を出させるな」

「了解しました」

 これで明後日の侵攻作戦は、うまくいく。      


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ラナウェイ コイル @colm

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ