番外1章 新型機 X-13

 ジョンは食べかけのハムバンを皿に置き、上官のほうを見る。

「新型機のテストですか?」

「ああ、そうだ。X-13の飛行プロト。それのテスト飛行を頼む」と上官。珍しいことだった。そういうことは、戦技飛行軍団の仕事だ。そう言うと上官は「人手が足りないらしい」と答える。なるほど。

「テスト日時は明後日、0950時。場所はこの基地で行う。ブリーフィングは0900時からだ。部屋は後程伝える。遅れるなよ」

「了解です」

 上官に敬礼。食べかけていたハムバンに手を伸ばす。しかし...ジョンは思う。ハムバンとスープだけじゃ足りなかったなと。


 日付は変わりテスト飛行当日。言われたとおり、ブリーフィングに向かう。前日、上官からE-mailで部屋番が送られた。ここだ。ノックをし、名乗る。

「ジョン・ブラウン大尉です」

「入れ」

「入ります。失礼します」

 扉を開けると整備長、開発班らしき人たちがいる。

「本日、新型のX-13のテストパイロットを務めさせていただきます。ジョン・ブラウン大尉です。よろしくお願いします」

 挨拶を済ませ、席に座る。

「全員集まったな、ではブリーフィングを開始する。今回、テスト飛行を行う機体は、AD軍団が開発した新型高機動試験機X-13だ。この機体の説明は…開発班」その声と共に開発班の責任者らしき人物が前に立つ。

「開発班責任者のヘンリー・デイヴィス中佐です。まずこちらのスクリーンをご覧ください」

 スクリーンに新型機の三面図が映し出される。〈異様〉その機体を一言で表すならば、ぴったりな言葉だ。前進したカナード翼、後退・前進の二対の先端主翼、水平尾翼に双垂直尾翼、機首下とエンジン部分に付けられた大型ベントラルフィン、それにベクタードノズルとかなり抵抗の多い設計だった。

「この機体は、空気抵抗、形状により超音速飛行は不可能です。しかし機動力は十分にあり、最大16G旋回が可能です。まあそのような旋回は有人状態では不可能ですが」

 16G旋回、そういえばこの機体は…その考えは当たっていた。

「コクピットは、従来機に比べ狭くなって言います。これは必要最低限の操作機器しか搭載していないためです。もう一つの理由としてこの機体は、無人戦闘機システムの母体であるためです」

 ああそうだ。そういう計画があったな。ジョン大尉は周囲で噂されていた計画を思い出す。

 【無人機計画】従来のRQ-1 Predatorや MQ-9 Reaperのような遠隔操作式無人機ではなく、完全自律制御式の無人機、レイノム軍はこれを強く所望していた。大型、中型、小型と搭載母機ごとにシステムが開発されているらしい。このXF-13は小型用の母機だ。

 ...いくつかの説明とフライトプランを確認し、いよいよ飛行に移る。

「そろそろ時間だ。フライトの準備を」上官が責任者に呼びかける。

「わかりました。では作業のほう、お願いします」

 全員が立ち上がり、格納庫に向かう。格納庫の中には、X-13が鎮座していた。思ったより小さい...主力戦闘機より小型と聞いてはいたが、かなり小さかった。

 格納庫の隣にある更衣室でパイロットスーツを着る。その上から耐Gスーツを身に着ける。ヘルメットを持ち、再び格納庫に向かう。機体の周囲点検を開発班と共に行い、機体からセーフティーピンが抜かれる。コクピットに乗り込み、外部電源スイッチON。通電を確認。JFSをオン。数秒ほどたった後、JFS OKライトが点灯する。エンジンスイッチON。エンジンスロットルフィンガーリフトを上げ、エンジンとJFSを接続。回転数を確認、18%。エンジンスロットルをIDLEアイドル位置まで移動させる。エンジンスロットルは、左右分割されていないがそこはコンピュータが勝手にやってくれる。右エンジンよし。左エンジンも同じように行う。

左の回転数が18%に到達。自動的に左エンジンも作動する。両エンジン異常なし。外部燃料タンクが搭載され、ピンが抜かれる。使用燃料を動力車から外部タンクに切り替える。動力車からホースとマイクピンが外れる。機体LCDに使用燃料タンクが表示される。外部タンク確認。プリフライトチェックを終了し、管制へクリアランスを要求。

「Delivery, this is Tango. Request clearance」

『訳:管制承認室、こちらタンゴ。クリアランスを要求する』

《Tango, this is Delivery. Cleared to test flight. Maintain Angel 1-9, squawk 3-3-2-1》

『訳:タンゴ、こちら管制承認室。貴機のテストフライトを承認します。高度はエンジェル19、レーダーコード3321』

 承認を確認。地上管制に切り替える。

「Ground, this is Tango. Request taxi」

『訳:地上管制室、こちらタンゴ。地上走行経路を要求する』

《Tango, this is Ground. Runway37Lレフト, Taxi via Wウィスキー, Kキロ

『訳:タンゴ、こちら地上管制室。誘導路WウィスキーKキロを経由し、滑走路37左まで走行せよ』

 トゥブレーキを解除し、機体を前進させる。誘導路を進み、無線を変更する。

「Tower, this is Tango. On your frequency」

『訳:飛行場管制塔、こちらタンゴ。そちらの周波数に変更』

《Tango, this is Tower. Runway37Lレフト, line up and wait》

『訳:タンゴ、こちら飛行場管制塔。滑走路37左に入り、待機せよ』

滑走路に侵入し、待機する。

《Tower to Tango. Wind 2-1-0 degrees at 7 knots, Runway37Lレフト. Tango, cleared for take off》

『訳:飛行場管制塔よりタンゴへ。滑走路37左、方位210から風速7ノット。タンゴ、離陸に支障なし。離陸を許可する』

 管制官から許可を受け、トゥブレーキから足を離す。機体が緩やかに前進を始める。スロットル位置をIDLEアイドルからMILミリタリーへ。機体が加速を始める。地上速度が130km/hを越えたところでMILミリタリーからMAX位置、A/Bアフターバーナーへ。速度が220km/hを越える。揚げ舵、ピッチアップ。ノーズギアが地面から離れる。続いてメインギアが地面から離れる。機首角度を迎え角40°まで上げ、そのまま上昇。ギアを格納。

「Departure, this is Tango. Now leaving Angle 1.2, climbing to Angle 1-9」

『訳:レーダー管制、こちらタンゴ。現在高度1200ftから19000ftまで上昇中』

《Tango, this is Departure. Radar contact. After reaching Angle 1-9, turn to Vector 2-7-0》

『訳:タンゴ、こちらレーダー管制。レーダーで貴機を確認。高度19000ftまで上昇した後、方位270へ転進せよ』

「Tango, roger」

『訳:タンゴ、了解』

 40°のまま上昇、機体が軽いのか加速と速度がいい。ぐんぐんと昇る。あっという間に高度19000ftに到達する。右旋回。方位を270へ変える。無線がレーダー管制官から地上の開発班に切り替わる。

《Tango, do you read? This is Sierra. First of all, please give eight-character flight about 200m in radius》

『訳:タンゴ、聞こえますか?こちらシエラ。まず最初に半径200m程の八の字飛行をお願いします』

「Roger」

『訳:了解』

 サイドスティックを横に倒し、手前に引き、旋回。かなりキツめの八の字だ。半旋回が終わったらロール。そしてループ回り終わったらまたロール、そしてループ。八の字を終えた。

「Sierra, this is Tango. Finished the eight character flight」

『訳:シエラ、こちらタンゴ。八の字ループを終えた』

《Sierra copy. Next, please pull the stick sideways. It can be either left or right》

『訳:シエラ確認。次に、スティックを横に引っ張ってください。左右どちらでも構いません』

「Tango, Roger」

『訳:タンゴ、了解』

 サイドスティックを引っ張る?疑問を感じながらも、ジョンは言われた通りに引っ張った。サイドスティックを右へ引っ張ると、機体が右は水平移動した。左へ引っ張ると、左な水平移動した。

「This is Tango. I finished ... Is this ok?」

『訳:こちらタンゴ。終えたが...これでいいのか?』

《OK. Next...》

『訳:オッケーです。次は...』


 二時間ほどで飛行試験が終わり、着陸態勢に入った。管制と交信、コース確認。誘導波に従い、機を操る。機首方位、滑走路に固定。フラップを着陸位置に作動させ、エアブレーキ-MAXマックス。ランディングギア展開。ギアダウン-ロック。緩やかに降下し滑走路にタッチダウン。摩擦により機速が下がる。エンジン出力をIDLEアイドルへ。わきの誘導路に入り、格納庫へ向かう。格納庫前で自動ドリーが向かってくる。ギアと接続。機体が格納庫内へ誘導される。機体から降りると開発班の一人が、エネルギーゼリーパックを持って近づいてきた。

「お疲れ様です」

 パックが手渡しされる。マスカット風味、好みのものだった。

「ありがとう」

 パックを受け取り、ふたを開ける。一気に飲み干し、今回の機体の癖、強み、対策したほうが良い点を軽く伝える。詳細は、後日提出のレポートに。


 ジョン・ブラウン大尉は、自室で休憩をしていた。テストフライトのレポートは、提出済みで再教育講義も先ほど終えたばかりだった。休憩といってもラフではない。再教育部隊とは言えどパイロット、何かあれば駆り出される。とは言え前回のテストフライトは異例中の異例だが。

 お気に入りの本を読んでいるとE-mailが届く。確認してみると内容は

《貴官を隊長とした新戦隊の編成が確定した。詳細は追って連絡する。再教育の任を解く。マチス・ディアル大佐》

 やっと戦隊に復帰できる。かなりうれしいことだ。これで座学地獄から解放される。ジョンは、準備休憩を忘れてベットに転がる。



用語集

機体

・X-13:エックス サーティーン…自律制御無人戦闘システム搭載機として開発された実証実験機。この話に出てくるのは、無人システムを組み込む前の飛行試験機。かなりの異形なので言葉で表すのが難しい。

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