第6話

とうとう魔王の娘の守護者の放映日がやってきた。

アリアとティア、そして俺はTVの前で待機している。


「幸司はこれで私たちが戻れると思う?」


そうアリアが訪ねてきたが、確証なんてある訳がない。

ただ、これでだめならどうしたらいいかなんてわからないというのが、

本当のところだ。


「ああ、多分これで大丈夫」


俺はこう答える事しか出来なかった。

俺とアリアがそんな会話をしているとき、ベットの上で足を抱えて顔をうずめていた。

たぶん、戻れなかった時のことを考えると、怖くてたまらないのだろう。

午前2時が近づいてきた。


「アリア、ティア、準備はいいな。もうすぐう始まるぞ」

「だいじょうぶ」

「うん、わかった」


なんだか、ティアの声が小さい気がする。

そんなに怯えているのか?

魔王の娘が始まり掛け声とともに、アリアとティアが力を込めた。

すると、以前の感覚襲われた。

時間が止まった時の感覚だ。


「時間止まったのか?」

「わかんない」


感覚だけでは止まったとは断言できなかった。

俺は辺りを見回して、断言できるものを見つけた。

始まったばかりのTVの画面が止まっていたのだ。

アリアもそれに気づき、画面を指でつついてみた。

すると、画面に波紋が広がった。


「お、おい。どうだ。戻れそうか?」

「多分大丈夫」


それを聞いて俺はホッとした。


「よかったなティア。これで戻れるぞ」


ベットの方に顔を見やると、ティアがわざとらしくこけていた。


「あっ、ごめん」


ティアはわざとこけたついでに、アリアのお尻を蹴り飛ばした。

すると、アリアは画面の中に吸い込まれていった。

ちょっとしたイタズラだと、俺はそれを見て笑っていた。

するとティアは、急いで立ち上がり走って俺の横を通り過ぎた。


「ど、どうしたティア?」


俺が振り向くと、そこにはドアノブに手をかけたティアがいた。

ニヤッとティアは笑うと、何もなかったようにドアをあけ放った。


「お、おまえ、なんてことを」

「へへ、これで戻れるのは分かったから、ステーキ食べさせてね」


こ、こいつ。

ステーキのために、アリアでそれを証明させたのか。

俺が思ってたほど、馬鹿ではなかったということか。

そこまでステーキが食べたかったとはな。

戻れることは分かったし、ステーキくらい食べさせてやるか。

しかし、分からないことが一つある。

なぜ、急いでドアを開けたのか。

アリアが戻ってきたら、ステーキが独り占めできないからか?

翌日


「ティア、ステーキ買いに行くけど一緒にくるか?」

「だ、だめ。それはだめ」

「何がダメなんだ。ステーキ食べたいんだろ」

「食べたいけど、そうじゃないの!」


何言ってんだこいつ。

意味が分からん。


「そうじゃないって、どういうことだ?」

「えっと、レストランとかで食べたい」

「れ、れすとらん!家で普通にステーキ食べたほうが、何枚もたべられるぞ」

「いいの。レストランがいいの!」

「アホ言うな。どれだけ金がかかると思ってんだ!」

「食べさせてくれるって言った」

「い、言ったけど」

「それじゃ食べさせて!」


このあと、暫くこんなやり取りが続いた。

ティアの奴は、どんな条件を出そうとも、それには乗ってこなかった。

俺はおれた。

ステーキを食べに、早速明日行く事になった。

店はティアに選ばせてくれというので任せた。

もうどうにでもなれという気分だ。

足りるかどうかは分からないが、少しは俺の貯金を下ろしておこう。

さよならおれのお年玉。

家に帰るとティアはおめかしをしていた。

凛のお古が丁度合うので、着せてもらったらしい。

そのせいだろう。

ティアの奴はウキウキしていた。


「そんじゃいくか」


俺が学ランのまま行こうとすると、凛が俺を止めた。


「せっかくなんだから、そのかっこうじゃだめだよ」

「はあ?」


ティアも凛もわけがわからんな。

逆らうのもめんどくさいし、好きにさせるか。

凛が俺に選んだのは、死んだおやじのおしゃれなスーツだった。


「いくぞティア」

「う、うん」

「ゆっくりデート楽しんできてね」

「そんなんじゃねえよ。いてっ!」

「あ、ごめん。わざとじゃないから」


ティアが急に不機嫌になった気がする。

ティアが選んだのは、比較的リーズナブルだが、雰囲気のあるいい店だった。


「結構いい店だな。雰囲気はあるしリーズナブルってのがいい。ティアはセンスがいいな」

「ああ、これならリンも連れてこれたな」

「そ、そうね」

「アリアがいればアリアもな」


その瞬間、幸司のすねに痛みが走った。


「な、なにすんだ」

「ふんっ」


いろいろあったが、ティアはうれしそうだった。

戻る前にステーキが食べたかったなんて、やっぱり子供だな。

そして、次の放映日がやってきた。


「ねえ、あたし戻らなきゃダメかな」

「アリアだって待ってるだろうし」

「う、うん」


放映が始まり時間を止めると、TVの前にティアは歩いて行った。


「わたしやっぱり」


ティアが振り返り何かを言おうとしたとき、TVから腕が出てきてティアを引きずりこもうとする。


「えっ、なにこれ。た、たすけて」

「何が助けてよ。あんたはこっちくんの」


腕の主はアリアだった。

ティアが足を踏ん張り逆らおうとすると、腕が何本もTVの画面から生えてきた。

ハッキリ言って気色悪い。

流石にティアも逆らいきれず、TVのなかに吸い込まれていった。


「幸司」

「な、なんだ」

「ティアが迷惑かけてごめんなさいね」

「えっ、あ、ううん」

「じゃあね」

「うん」


俺は圧倒され、まともに答えることが出来なかった。

手を胸のあたりで振っていると、TVの中から声がした。


「は、はなせ。あたしはあっちの住人になる!」

「何バカ言ってんの!」

「馬鹿かお前は!」

「暴れんなチビ!」


TVの中では、逆らうティアと、それを止めるアリア。それと、勇者と魔王がティアを取り押さえているようだった。

こんなドタバタにいつまでも付き合うのはもう嫌だと、俺は部屋のドアを開けた。

そして、魔王の娘の続きを楽しんだ。

もちろん部屋のドアは開けたまま。

それからの俺は、アニメを見るときはドアを開けてみるようにしている。

あんなことはもうこりごりだからな。

でも、思いだすと俺は、案外楽しんでいたのかもしれない。

今は懐かしく思うときもあるしな。

俺は今、PCで動画を楽しんでいる。

おっそうだ、魔王の娘の守護者でも見てみるか。

まて。

もしかしたら、あいつらが出てくるかも・・・

まあ、それはないか。

動画を見始めて5分、何も異常はない。

ただの考えすぎだったようだ。


「何度見ても面白いなこれ」


エンディング曲を聞きながらそう呟くと、何かが聞こえた気がした。


「そう、そんなに面白かったんだ。それはよかった」


画面の中には、ティアがこちらを睨んでいた。

エンディングはたしか、こんなんじゃなかったはずだ。

画面の中のティアはどんどん近づいてきて、そしてとうとう腕が画面から生えてきたのだった。


「こんにちは幸司。ひさしぶり」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

TVの中の俺のよめ 秋峰 @systs239

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ