美しい文体が魅力の現代伝奇小説です。
生身の身体を持たない少女・紗羅。偽物の身体を通して見る世界は曖昧模糊としていて、気がつくと彼女はこの世の裏側に足を踏み入れている。
そこは夢と現の狭間。境界のぼやけた世界。まるで白昼夢のような幻想に心を奪われそうになりながらも、襲い来る妖を紗羅の霊刀が斬り伏せる。
怪異である妖は、化け物的な気持ち悪さよりも幻想性・耽美性に重心を置かれており、禍々しくも美しい。そんな妖との戦闘シーンでは上質なホラーアクションが展開され、独特の心地良い得体の知れなさに酔いしれます。
これは境界をめぐる物語。主人公の紗羅自身、様々な境界を内包しています。魂と器、人と妖、生と死、日常と非日常……紗羅の霊眼には、それらはすべて溶けあって映っている。
妖との戦いの果てに紗羅は己の正体に辿り着けるのか……
今後の展開が楽しみな作品です。