景色泡沫/夢幻・4

 冬の浜辺、だった。べったりと厚塗りにされた鉛色の雲からは重たく湿った牡丹雪が滴り落ちる。海と空の境界は曖昧だ。空と呼ぶには余りに重過ぎる。セピアの色合いからは彩りが失われている。

 砂浜すらも荒波と雪で黒々と滲んでいる。

 ――泣き声のよう。

 少女が隣に立って居た。

 全部、これで終わり。

 か細く、震えた声。雪に混ざって、そのまま融けてしまいそうな声。蒼白い唇で微笑んだ。

 ここが世界の果てなんだよ。ここがわたしたちの終着点。果ての無いこの世にだって、たわたしたちの果てはこの海にあるんだ。波に凍えながら叫んでやるの。ここがわたしたちの世界の果て。ここに、あなたは果てを、――、果ては、あるの――、

 瞼を閉じると痺れた手の甲に、そっと氷の感触が触れた。零度よりも柔らかな、

 ――最果て、わたしたちはここに居る。わたしたちが、ここに居る。

 ほのかなみぞれ雪。

 素足になって、手を取られて、針の海へと一歩、一歩。足先から脹脛、脛、腰、細かく引き裂かれるかのよう。海は刃だ。命を千々に切り裂く刃だ。

 刃はひろい。暗くてひろい刃。喉の奥まで刻まれて、胸の内側をも抉られる。

 とてもとても快い。悦びに充ちている。生が失われる痛みに直面しながら、死に打ち震え死を迎え入れている。

 思い切り、吸い込んだ。

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