第4話夜明けまで、僕と
九十九は不可視の衝撃波を、襲撃者目がけて放つ。
大吾の身体が衣服が弾け、肉と循環液が飛散する。生地の破片がアスファルトに闇に舞った。
肋骨が砕け、心臓が露になるが、死なない。真新しい細胞が傷を塞ぐ。不定形の肉体を持つ彼らは、エネルギーがある限り、死ぬ事がない。
「あぁ、ああ…素敵!」
大吾は絶頂するような声を漏らしながら、ブレードを振るう。
点滅するように九十九の姿が消え、大吾の背後に現れる。振り返ると同時に、大吾が立っていた位置に触手の槍衾が、墓標のように突き立つ。
彼らはブレードで斬り合い、肉の槍を打ち合う。
九十九と大吾の戦闘スタイルは極めて似ていたが、習熟度の差により、大吾がやや有利だ。
「光よ、星間を超えて降り注ぐ光よ!貴方は剣であり、矢である!」
大吾が詠った瞬間、九十九の身体が粟立ち、炭化する。
萎縮の呪文である。膝から崩れ落ちた九十九の姿を見て、大吾も動きを止めた。
(うーん、どうしよう…)
手札はまだある、彼はどうだろう。
名前も知らない男に、大吾は親近感を覚えていた。
人間でありながら、蕃神の力を制御し、兵器化させた身体を振るう男。
もし手札を切って、あっさり死ぬような事になったら、自分はきっと後悔するだろう。しかし、手加減しなければいけない相手に、必死になれるだろうか?
(えーい、使っちゃえ!)
大吾が意を決した瞬間、九十九が身体を再生させながら立ち上がる。彼はこの無言の通じ合いに、運命を感じた。
大吾の身体が霧に変化する。
突如、敵の姿が消えた事で、九十九は困惑の只中に落とされる。
さっきから意味が分からない。男の顔に見覚えは無く、従って襲われる理由も無い。九十九個人には。
「あぁ、痛い!すごく痛い!」
大吾は九十九の右側面に固体化した。
絡みつくような態勢で現れた彼を、皮膚から隆起した突起が迎え撃つ。
全身に小さな穴を開けながら、大吾は喜びに悶えた。
サイレンが再び鳴り響く。
今回は先刻のそれより長く、頭が割れるような痛みに九十九はよろめく。
大吾は九十九は突き倒し、馬乗りになって首を絞める。
裂けるような笑みを浮かべ、締め上げる男に向かって、九十九は触手を振るう。
大吾の頭部が打ち抜かれる。右こめかみが抉られ、頭蓋の中身が掻き出された。
しかし、大吾は動きを止めない。やがて1分が経過。
頸部が圧迫され、血流と呼吸が阻害されるのは非常な苦痛だ。九十九の抵抗も、弱弱しいものになっていく。
「うーん…」
大吾の顔から、喜悦が引いていく。
抵抗が鈍い。黒きハリ湖の怪物――ハスターの眷属か、交信者かは不明だが、平均的な魔術師より強い肉体の持ち主。
もっと足掻けるだろう。貴方はもっと戦える。
期待を込めて見つめるが、九十九の体から徐々に力が抜けていくのがわかる。
「残念ですねぇ――」
嘆息した瞬間、大吾の胸から上が砕け散る。
咳き込みながら起き上がった九十九は、咳き込みながら立ち上がった。
トドメを刺そうと腕を持ち上げた彼に、膠質の何かを変形させた回転鋸が襲い掛かった。
「おほほ♪いいですねぇ、その調子!さぁ、もっと高まりましょう!」
顔の無い大吾の身体から、上機嫌で語り出す。
落とし子が回収する魂、畏怖が眠れるクトゥルーに流れ込む。
それは同時に、クトゥルーの一部を呼び込む事が出来る大吾が強化されることを意味する。
2人の殺し合いは、夜明けまで続いた。
空が白む頃、九十九の活動は停止。瞬間、人間の姿が崩れて、九十九はミミズのような軟体生物の死体と、ヘドロのような粘りのある液体に変化した。
「やぁ、お疲れ様」
「いえいえ――!?どうしたんですか!!クトゥルー様」
声のした方に顔を向けた大吾は、悲鳴を上げた。
女の相好が崩れている。今や顔の造作は見て取れない、長身の黒い影に変化してしまっている。
「あぁ、心配しないで。ついに復活できたんだ。以前より強力にね」
「おぉ!!では!?」
「ウフフ…、やっと本来の身体で会える。そっちに行くから、名古屋港で待ち合わせでどう?」
クトゥルーの姿が消える。
大吾は全ての時が止まり、死が死に絶えた世界で、親友を迎えに行った。
ルルイエ復活計画 @omochi555
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます