おまけ8 三年前に自殺した、私の従兄弟への手紙【改】
三年前、私の従兄弟である智也(もちろん仮名である)は自ら命を絶った。
年末の凍るように寒い時のことだった。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054886090291/episodes/1177354055448616009
ここでも書いたが自殺する人は、海の中で遭難しているようなものだと私は思っている。
救いなんてこないと絶望し、自分にはどこにも行き場所がないと決めつけてしまう。それなら、すべて諦めて、凍るように冷たい海の底へ自分自身の意思(というより、すべて諦めて、思考を放棄して、というほうが正しい)沈んでいってしまう。
でも、ちょっと発想をかえてみよう。
これが温かい沖縄か南国の海だったらどうだろう。
あなたは波のさなかを漂いながら、自分がやっと乗れるくらいの板切れに乗っていて、空のペットボトルを一本だけ持っているとする。
海は生ぬるく、あなたは死にたいと思って海に入ったのだが、なんとなく空を見上げて、はっと 気づく。
天の川が、星の海が 星雲が きらきらと輝いて、あなたの目に飛び込んでくる。
それはあまりにも美しくて、あなたは知らず、目を奪われている。
――この世には、こんなきれいなものがあったのだなあ、と思う。
人間関係に悩んでいた。沢山の仕事に悩んでいた。終わらない家事に悩んでいた。子育てに悩んでいた。お金に悩んでいた。
でも、今、この瞬間は ただ 温かい海の中で、星を眺めていられる。
知らず、貴方の両目から涙が流れている。幸せって何だろう、と思いを馳せる。
……私だったら(あくまで私だったら)板切れの上に乗る。
スマホは海水に水没してしまって使えないが、それでいいと思う。
汚い話で恐縮だが、尿と海水と血の濃度はなぜか同じらしい。(約3%ぐらいの塩水)だから、尿意を感じたらペットボトルに尿を汲んで飲む。
(昔飲尿療法 というものも ありましたね)
それが嫌なら嫌というほどある海水を口にして、あれ? 意外といけるなあ、などと思うと思う。
(人間の体は脱水症状にあると海水を美味しく感じる らしい )
そうやって板切れに乗っていると夜が明けて、素晴らしい朝焼けが見える。
その朝焼けをあなたは独り占めする。
イルカの群れがやってきて、キュウキュウ鳴きながら、貴方と一緒に泳いでくれるかもしれない
(イルカの中にはなぜか、遭難した人間を鼻で押して陸につれていってくれる仔もいるらしい)ネオンテトラみたなピカピカ光る魚も。
貴方はだんだん、癒されていく。
少なくともここに来て良かった、と思い始める。
そうやって過ごしているうちに、貴方の不在を知った誰かが、知らせたか、救いの船かヘリコプターがやってくる。
何日も遭難したので貴方の体から余計な脂肪はそぎ落とされている。
身体が軽い。風が心地よい。イルカの群れはや魚の群れはじゃあね、というように去っていった。
……どうだろう?
今日はちょっとテイストを変えた文章にしてみた。ジョン・レ〇ンの『イマジン』のように。
絵空事だと君は言うかもしれない。でも、それを言うのは私だけじゃないはずさ
You may say I'm a dreamer But I'm not the only one.
あなたの中の『死にたい』というヒリヒリした気持ちが、少しでも和らぐといいと思う。
そして従兄弟の智也の冥福を私は思い出すたび、願っている。
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