結婚したがらない男①

 喜劇『イル・マレスカルコ』もアレティーノの作品です。


 マントヴァの宮廷に仕える「マレスカルコ」は、公爵が独身の彼のために結婚相手を用意したという話を聞く。花嫁は会ったことはないけど美女で、嫁資は破格の4,000スクード。当時の男にとっては夢のような話……であるはずなのに、マレスカルコは気が重かった。というのも、彼は女性に興味がもてなかったから。


 ソドミー(男性同性愛)には前も触れましたが、ここでもう少し踏み込むと、中世から近世イタリアの文化では男性を同性愛者と異性愛者に明確に分けていませんでした。(レズビアンの場合は事情が違ってくるので、ここでは男性同士の関係だけに言及しています。)


 嗜好が女性か男性どちらかに傾いてたり、あるいは両方いける男性がいることは認識されていたけど、現代で言うような異性愛や同性愛、両性愛といった区別の語がありません。男色は当人のセクシュアリティとは無関係で、人生における一時的な嗜好とされていました。若者時代はそれにふけっても、結婚して妻というパートナーを得たら「卒業」するのが望ましい、一般的にはそんな考え方だったようです。


 この価値観がはっきり出ている台詞があります。マレスカルコの乳母が、結婚するよう彼を説得する場面。



乳母――分かるでしょう、私の言うことをお聞き。妻をめとりなさい、坊や、身を固めなさい。にふけるのはやめて、家庭を築きなさい。



「若者の享楽」がここでは少年愛をさしています。乳母は縁談に大喜び。いい年なんだからこの機に「大人の男」になれと言いたいんですね。


 実は、この結婚は公爵が考えた大がかりなドッキリで、花嫁は女装した少年です。そうとは知らず、結婚したくないマレスカルコが断ろうにも断れず苦しんでいるうちに無情にも式がはじまり、ラストで花嫁の正体が明かされて大団円というコメディです。


 今回は長いので4回に分けています。「結婚」は男の幸せだと説く乳母と、かえってうんざりしちゃうマレスカルコ。2人の会話が次回に続きます。



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