婚約式、結婚式、初夜①

 めんどうな交渉がやっとまとまったら、結婚に先立って「婚約式」がありました。


 婚約式、耳慣れない言葉ですが、要は両家の男性の顔合わせです。このとき双方の権利と義務を詳細に記した契約書が作成され、新婦の父親、または後見人と新郎が内容を確認し、「まあ今後ともよろしく」なんて挨拶が交わされて婚約が成立します。


 結婚式の進行役は、もともと聖職者ではなく村の長老などでした。その後、教会での結婚式が中世を通じて少しずつ定着していきますが、正式な結婚は司祭が執り行うものでなければならないと定められるのは意外にもかなり遅く、16世紀もなかば以降だそうです。


 立ち会い人のもと、


「〇〇をあなたの夫/妻としますか?」


 というおなじみの問いがなされ、はいと答えて指輪を交換し、めでたく二人は夫婦になります。


 フィレンツェのアカデミア美術館に、当時の結婚披露宴の様子をうかがえるルネサンス期の作品があります。


《アディマーリ家のカッソーネ》と呼ばれる板絵で、日本にきたこともあるんですよ。制作時期は15世紀なかば、ちょうどカテリーナが嫁いだ時代です。


 舞台は大聖堂広場。横長の画面いっぱいに天幕が張られ、音楽隊が百合の紋章をつけたトランペットを吹き鳴らし、ド派手に着飾った新郎新婦とお付きの男女が天幕の下を練り歩く。1420年に実際に行われた結婚を題材にして描かれたと考えられています。年代記は、400人がこのパーティーに招待され、25品ずつ3コースの料理が振る舞われたと伝えているそうで。


 ルネサンスの宴会、あいかわらず豪勢ですな。アレッサンドラがお金の事情で娘の披露宴を断念したのもうなずけます。


 新婦のドレスは黒地に金糸の刺繍をほどこした長いガウンと大きな帽子。新郎も黒と金、深紅のエレガントな衣装に身を包んでいます。面白いことに、ふたりの服には同じ布が使われているようです。おそろいの柄で結婚式、よいですね。


 花嫁衣装で好まれる色は赤系の暖色でした。マルコも、手紙で分かるとおり赤い服をカテリーナに贈っています。白いウエディングドレスの伝統はありませんでしたが、ヴェネツィア共和国では例外的に、統領ドージェの花嫁が金糸を織り込んだ白の衣装を着たとか。


 社会の下層でも、結婚は上流階級のものをよりシンプルにした形でおおむねこのように行われました。エリートたちと異なり、富と力の維持ではなくお互いの愛を動機に行われるのが普通です。つまり恋愛結婚は庶民のものだった……と言いたいところですが、それだと上流階級の結婚には愛がなかったと誤解を招きそうなのでやめましょう。決してそんなことないので。


 下層の男は家の存続や国家の安定、なんてものを考えなくていいので別に急ぐ必要がありません。子供ができても正式な結婚をせず、同棲状態を続ける男女もいっぱいいました。

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