上流階級の婚活②
普段は家に閉じ込められている令嬢もミサへは行くので、教会は花嫁候補を吟味するには最適の場でした。
聖職者の説教を聞き流しつつ、ターゲットを捜すアレッサンドラ。その目は、ある一人の娘をとらえます。
再びフィリッポへの手紙から。
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[8月17日]
日曜日の朝、
最初は誰だか分からず、私は隣に座りました。魅力的で、体つきは美しく、背丈はカテリーナと同じか少し高いくらいです。顔は面長で、繊細すぎず、粗野でもなく、歩き方や表情は寝ぼけているようには見えませんでした。あとをつけたらタナーリ家の娘だと分かったのです。アディマーリ家の娘にはまだお目にかかったことがありません。私には、このことは重要に思えます。
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偶然見かけた美しい娘は、他ならぬもう一人の候補でした。アディマーリ家の娘を見に行ったのに彼女は姿を現さず、代わりにタナーリ家の娘を見たことはアレッサンドラにとって「神のお告げ」でした。
「神が彼女を連れてきて、見えるように座らせて下さったのです」と。
この出来事で、タナーリ家の娘の株は爆上がりします。
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[8月31日]
タナーリ家の娘に関して、複数の人からとても良い話を聞きました。皆、彼女を手に入れる男は幸せ者だと口をそろえます。魅力的で体つきが美しいことで意見が一致しています。顔は面長ですが、じっと見たわけではありません。検分しているのを気づかれたのです。娘は風のように顔をそむけてしまいました。
教養があり、歌もダンスもできます。父親は若くて気品があり、フィレンツェでは評判のよい人です。娘の良縁を望んでいるようです。
昨日、マルコと話し合い、こちらが後へ引けなくならない程度に父親に期待をもたせておいて、嫁資の額を聞き出そうと決めました。
マルコはもうフランチェスコ[・タナーリ]と話したはずなので、詳しいことは彼から報告が行くと思います。神のご加護がありますように。
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花嫁候補は嫁資、家柄、親の評判、美、教養などのスペックを秤にかけて選ばれたのでした。アレッサンドラは娘の美しさを文章で伝えようとしています。「面長」が強調されていますね。面長は高く評価されたんでしょうか。
マルコは総合的にみてアディマーリ家の娘もタナーリ家の娘も大差ないので好きなほうを選べ、とフィリッポに判断をゆだねていました。
しかしフィリッポはなかなか決断できません。そりゃ、手紙だけでお嫁さんを選べと言われてもできませんよね。探せばもっといい選択肢があると思っていたのかも。
2週間後、状況は暗転します。
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[9月13日]
フランチェスコ・タナーリと会ったことをマルコが知らせにきました。彼はよそよそしい態度だったそうです。それを聞いて、心変わりしたと分かりました。彼は義兄弟で公職に就いているアントニオ・リドルフィとの交渉を望んでいるようです。またフランチェスコが言うには、娘を遠方[ナポリ]へやるのは問題があり、宿屋へ嫁にやったと人に言われるかもしれないとのこと。
こんな言い方をするからには考えを変えてしまったのでしょう。こうなったのもお前とマルコがぐずぐずしていたからです。14日前は期待させることができたのに、こちらの決断の遅れが彼を
私はとてもがっかりしています。この縁談が、他のどれよりもいいと感じていたのです。
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宿屋とはずいぶんなディスられよう。フランチェスコさん、最初は遠方でも全然オッケーって言ってたのに……
結局、フィリッポ・ストロッツィはアディマーリ家の娘フィアンメッタと結婚しました。彼女と二番目の妻とのあいだに合計13人の子供をもうけ、大銀行家として歴史に名を残します。
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