11話〜発現
雪たちに迫っていた火の玉を大地が己の体を盾にして防ぐ。
腕を犠牲にして防ごうとしていたが、全ては庇いきれずに腕以外にも、体の所々が燃えていた。
「素晴らしい心意気だ!それまでして女子たちを守ろうとするとは。魔力はあまりこめずに放ったから、普通の火よりは熱くはないだろうが、どうだ?体中が焼ける痛みは?」
呟くアーノルドの言葉通り、大地の身体を蝕む炎は普通の炎の温度より低かった。
しかし大地を蝕む炎は普通の炎よりは低いだけで、焼けることには違いがなかった。
大地は身体を焼き尽くす苦痛が襲ってきているというのに悲鳴もあげずにただただ無言で、佇んでいた。
「フハハ、あまりな苦痛で立ちながら気絶でもしているのか?」
アーノルドは笑う。
「‥‥‥大地」
雪は弱々しい声を出し、大地の後ろ姿を眺めることしかできなかった。
大地を蝕んでいた炎は急に燃えるために必要なものがなくなったかのように姿を消した。
炎が消えた大地の身体には所々が肌が真っ赤になり水疱みずぶくれができていた。
両腕はさらに酷く真っ赤を通り越し紫色、白色になっていた。
「ん?なんで消えたのかは分からないが、これはかなり酷いな。早く魔法で治療せねば跡が残ってしまうぞ。さっさと降伏すれば治療してやろうではないか」
アーノルドは大地たちに治療を条件に降伏を促す。
「‥‥‥分かった。私が降伏する。だから大地を助けて。みんなごめんね」
雪は呟き、後ろにいる女の子たちの頭を撫でると、アーノルドに歩み寄ろうとする。
「うむ、いいだろう。お主が無傷で手に入るのなら、そこの小僧の手当てをしっかり行うと誓おう。しかし、抵抗はするなよ。したら小僧の手当ては行わないぞ?」
「分かってる。抵抗なんてしない。」
雪は抵抗しないと宣言し、アーノルドに歩み寄って行く。
大地を横目に通り過ぎようとした時、
「雪、俺は大丈夫だ。お前が行く必要はない」
そう呟くと、大地はゆっくりと動き出す。
雪は大地の声が聞こえ、瞳には涙が溜まっていた。
「‥‥‥大地、大丈夫なの?酷い火傷だよ?」
呟く雪の声は涙声で、大地の火傷を見ながらとても心配そうに見つめている。
雪に火傷の心配をされている大地は自身の身体の火傷の様子を確認する。
「うわ、これは酷いな。でも大丈夫だ。雪、俺の後ろであの子たちを守ってやってくれ」
大地は自身の火傷の酷さに、驚きながらも雪に無事を伝え、アーノルドに向き直る。
雪は大地の身体を心配しつつも、大地の命令に従い女の子たちの元へ向かう。
「何故貴様はそんなに平然としていられるのだ?分からん。下級魔法ではあるがもろに喰らったのだ。常人なら泣き叫び、のたうちまわるのが普通なのだ!貴様、一体何をした?」
アーノルドにとって大地が火の玉を直撃はずなのに、何事もないように立っている大地の姿が今までで経験のない出来事で聞かずにはいられなかった。
「いや、最初に当たった時かなり熱くて、痛くてヤバいと思ったんだけど、燃える火の中からなにか不思議な力を感じたんだよ。その力が何か気になって、痛みを我慢して集中して、その力を俺のものにしたんだよ。そして火の中のその力を身体に取り込んだら、火が消えて、熱さとか、痛みとか和らいでいった。そして力はいろんなものに活用できると分かった。こんな風に」
そう大地は呟くと、右手を左腕にかざす。
すると右手から光り輝くオーラのようなものが現れ、大地の左手を覆う。
数秒経つと左腕を覆っていたオーラが消えていく。
先程は火傷で赤を通り越して紫色に変色していた左腕は紫色は元に戻り、火の玉が直撃する前の綺麗な肌色の左腕に戻っていた。
大地は治した左腕の調子を確認する。
「うん、こんなもんかな」
アーノルドは左腕を治している大地に何もせず、ただ視線は離さず、何かを考察していた。
「面白い、まさか儂の魔法から魔力の流れを掴み取り、燃えていた火の魔力を消失させ、不完全ではあるが回復魔法を発動させるか。これは驚いた。異世界人は皆、攻撃を受けることで魔法の発動を可能にできるのか、それとも彼奴が特別なのか」
アーノルドは顎に手を添え、独り言のように呟いていた。
「なるほど、これがお前が使っていた魔法ってやつなのか。面白い力だな」
アーノルドが考えごとをしているうちに、大地は自身の身体の治癒に取り掛かっていた。
大地の全身を光るオーラのようなものが覆う。
オーラは大地の全身の火傷の傷に染み込んで、消えていった。
大地の火傷の傷は綺麗に消え、無傷の状態に戻っていた。
ミノタウルスとの戦いの左腕の痛みも消えた。
不思議な力だ。
「ハァハァ、これでなんとか大丈夫そうだな。焼けた服は直らないのか。しかし、この力思ったよりも使うとしんどいな。身体中から力が抜け出た感覚だ。」
大地は息が荒く呟き、片膝をつく。
「ふん!当たり前だ、魔法とは己と共に成長するもの。使えば使うほど魔法、魔力は強くなる。それなのについさっき魔法を使えるようになり、しかも詠唱も唱えず全身の治癒を行なったのだ。魔力不足になるに決まっている。魔力を全て使っていたら貴様は気絶していただろうに。勿体ない、気絶してたら何の抵抗もなく捕まえることができたのだが」
アーノルドは大地の今の様子を推察する。
「ハァハァ、気絶なんかするか。俺が気絶したら誰が雪たちを守るんだよ。ふぅ、よし!傷も治ったし、魔法もどんな感じか雰囲気は掴めたんだ。あとはお前をぶっ倒すだけだ!」
「魔法が少し使えたぐらいで調子に乗るな小僧。貴様の魔法は未熟、魔力ももうない。そんな状態でどうやって儂の結界を突破し、儂を倒すというのだ」
アーノルドは呟き、笑い始める。
「何、諦めなければ何とかなるもんさ」
大地は息を荒くしながらもゆっくりと立ち上がり、アーノルドに向き直り足を動かし、アーノルドに接近、アーノルドに殴りかかる。
「無駄だ、貴様では儂には勝てん」
アーノルドは結界を張り、大地の拳は結界に阻まれ、弾き返され、拳から血が流れる。
それでも大地は結界を破壊しようと諦めずに殴り、蹴りを入れる。
拳は血が流れ、骨は軋む、足にはヒビが入る。
しかし結界には傷も入ることはなかった。
「もういいだろう?何をやっても結果は変わらん。貴様は儂には勝てない。儂とてそこまで貴様を虐めるつもりはない」
アーノルドに降伏を促されるが、大地は止まらない。
どんなに己の拳が傷つき、血が流れても、後ろの幼馴染、子供たちを守りたい一心で殴り続けた。
「‥‥‥大地、もういいよ。もう傷付かないで」
雪は自分たちのせいで、大地が傷ついていく姿を見るのが辛く、目から涙をこぼしながら呟く。
大地は泣いている雪の声を無視し、殴り続ける。
「はぁ、分かった。貴様の心構えはもう変わらないようだな。他にも逃げている奴等を捕まえないといけないのだ。大きな傷を付けると後々面倒だが、時間がない。そろそろ終わらせよう」
ため息を吐きながら、アーノルドは大地に杖を向け、魔法の詠唱を唱え始める。
パキ。
ガラスにヒビが入ったような音が廊下に鳴り響く。
「む?」
アーノルドは詠唱を中断し、自身を守る結界を確認する。
すると結界には小さくではあるが、結界にヒビが生じていた。
パキ、パキ、パキ。
一つのヒビはどんどん大きくなり、アーノルドの結界に大きな亀裂が入っていく。
「貴様、いったい何をした!?」
アーノルドは自身の結界に傷が付いていくことが信じられず、大地に問う。
「‥‥‥」
大地は聞こえなかったかのようにアーノルドの問いを無視して、結界を殴りつける。
その拳には青白い光のようなものが纏っていた。
パキン!
そしてアーノルドを守っていた結界は大きな音を立て、崩れていった。
異世界からの略奪者 奴隷から英雄に成り上がれ!? 芽キャベツ @MEKYABETSU
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