10話〜魔法

聞き覚えのある太い声が聞こえた。大地たちは声のある方向に振り向く。


そこにはこちらを見てにやけているアーノルドの姿があった。


「なっ!?何でお前がここにいるんだ!?」


「ハッ!先程も言うたでろう。奴らは既に捕らえた。残りはバラバラになっている奴らだけだ。幸運なことに儂が残党狩りの最中にお前たちを見つけてしまったのだよ。さぁ、大人しく降伏すれば怪我はしないぞ?」


アーノルドは高らかに笑う。


「自衛隊は!?」


あの人たちがそんな簡単に捕まるはずがない!


だが何故こいつが今ここにいる?


「あやつらのことか?貴様らの頼みの戦闘軍団は儂のドラゴン、ブランの鱗も破れず、あっさり鎮圧できたよ。捕らえている最中に中から人が続々と溢れ出てきたのでな。捕まえるのが大変であったよ!捕まえた中に女がおらんから焦ってしまったぞ。魔物どもの性玩具にでもなってたら、たまったもんではないからな。魔物どもを退かせ、ブランを置いて、女を捜して正解であったわ!おい、女、お主は後で儂が可愛がってやる。それで女を助けたのはそこの貴様であろう?大義である。貴様は案外顔も綺麗だし、褒美として普通の奴隷ではなく、儂の知り合いの男色家の貴族にでも紹介してやろう。」


アーノルドは自衛隊の戦いの全容を語り、雪を指差して下世話な顔をしながら、雪を助けた大地の奴隷となった行き先を決めつける。


「ふざけるな!」


大地はアーノルドに怒鳴る。


「ん?なぜ怒る?男色家の貴族のもとへ行くのか嫌なのか?なら、儂のもとで下男として働くか?あぁ!なぜ貴様が起こっているか分かったぞ!そこの小さい女子たちの行き先の話だな。まぁ、儂が飼ってやっても問題ないが、小さい異界の女子は高く売れるであろうからな。此奴らは売るであろうな。何、此奴らは性奴隷として一生を生きていくだけであって死ぬことはないだろうから安心しろ」


アーノルドは大地が怒鳴っている理由が分からず、話は脱線していく。


大地は拳を硬く握り締め、斜め上の話をしているアーノルドに近づき、力ずく頰を殴りつける。


アーノルドは油断しきっていたため、拳をもろに受け、廊下を転がっていく。


「ぐぉ!?貴様、魔法使いの儂に向かってなんてことを!?」


「うるせぇ!なんで俺がお前に雪や子供達を渡す話になっているんだよ!馬鹿なのか?」


大地は構えを取る。


「貴様、あまり調子に乗るでないわ!儂を馬鹿などと!儂を誰だと心得る!貴族であり、高貴な魔法使いであるぞ!そんな儂に向かって暴力を振るうとは、貴様ただの奴隷になれると思うなよ?労働奴隷として一生国の為に働かせてやる!」


アーノルドは怒りで顔が真っ赤なり、大地に怒鳴りつける。


「誰が奴隷なんかになるかよ!」


大地は構えを取りながらアーノルドに突撃する。


「魔法も使えぬただの小童が!貴様には魔法の素晴らしさを身をもって味あわせてやる!」


アーノルドは杖を取り出し、アーノルドは杖を構え、何かを口ずさもうとする。


「その魔法ってのは唱える時間が必要だろ!?だったらその時間を作らせなかったらいいだけの話だろ!」


大地はアーノルドに接近し、拳を突き出す。


だが、その拳はアーノルドには届くことはなかった。

何だ!?

アーノルドの周りには目には見えない壁が存在していた。


大地の拳は見えない壁に激突し、拳からは血が流れる。


「馬鹿者め!儂たち魔法使いが、いつ呪文を唱えないと魔法が発動できないと思った?儂が呪文を唱えてる間、無防備になっている対策を練っていないとでも思ったか?無知な貴様たちに教えてやる。魔法は技量のあるものしか使えぬが、魔法道具は魔力さえ使えれば誰でも即時発動が可能なのだよ!儂が使ったのはこの結界を張れる魔法道具。かなりの私財を叩いたが今では儂の愛用品である」


アーノルドは右手の人差し指の金色の指輪を撫でる。


「なるほど。魔法道具ってのはかなり便利なものってのはわかった。でもその魔法道具は常時発動はできないものだよな?今のは結界で攻撃は防げたが、さっきの不意打ちには防げなかった。常時発動させてない理由は魔力の消費が激しいのか、魔法道具を使い続けるとぶっ壊れるみたいな感じだな」


大地はアーノルドの言動に魔法道具の性能を考察する。


「ふむ、貴様は頭が良く回るようだな。やはり、労働奴隷ではもったいないが、貴様は儂を殴った時点で労働奴隷として決定してしまった。残念だ。効率のいい働き方でも考えて、死なないようにせいぜい頑張るのだな」


「だから誰が奴隷になるかよ。本当に馬鹿だな。」


大地はアーノルドの言動に呆れる。


「おっと、もうそれは聞かんよ。儂の頭の血を昇らせ、冷静な判断をさせずに儂と戦う算段だったのだろう?貴様の作戦は丸わかりなのだよ!」


アーノルドは大地の言動が策略だと思い込み、真っ赤になっていた顔は勝手に冷静さを取り戻していく。


「勝手に思い込んで冷静になりやがって。こっちは思ったことを言ってるだけなのによ」


「まぁ、いい。先程はつい気が動転して、上級の魔法を使おうと詠唱をしてしまったが、貴様らは魔法も魔力も使えないのだろう?なら下級の魔法で十分。下級の魔法ならすぐに発動できるからな貴様にはもうチャンスはないぞ?」

アーノルドは大地に杖をかざす。


「やってみろよ!」


大地はアーノルドの攻撃に備える。


「出でよ焔。我が敵を燃やし尽くせ」


アーノルドの身体から不透明な流れが杖に流れていく。すると杖の先端が輝き、焔が噴き出る。


焔はバレーボールぐらいの火の玉を形成し、大地に向かって放たれる。火の玉は時速六〇キロぐらいの速度で大地に襲いかかる。


「そこまで速くないな!」


大地は後ろに跳び、火の玉を避ける。避け


られた火の玉は床に着弾し、その範囲は燃え始める。


「初見で避けるとはなかなかやるな。だが誰が一発で終わらとは思うなよ?」


アーノルドは頰を上げニコリと不気味な笑みを作る。


杖からは火の玉が次々と形成され、大地に放たれる。


「ふっ!」


大地は次々と迫ってくる火の玉を後ろにいる雪たちの方面に飛んでいかないように考え、雪たちから少しずつ離れながら、壁を伝って飛んだり、狭い廊下ながらもなんとか避けていく。


「なかなかやるではないか!褒めてやろう。だが貴様がそんなに女子たちから離れて大丈夫なのか?」


アーノルドは大地に向けていた杖を雪たちに向ける。


「待て!お前の相手は俺だろう!雪たちは今関係ない!しかも奴隷するつもりなのだったら怪我をさせるのは良くないんじゃないのか!?」


大地はアーノルドの次の行動をやめさせようとアーノルドを諭す。


「なに、気にするな。儂の部下には回復魔法を使える奴もいるからな。少しの火傷ぐらいならすぐに治せるさ」


「……大地。女の子たちは私が守るから安心して」


「おねぇちゃん」


「‥‥‥安心して。あなたたちには怪我をさせないから」


雪は女の子たちを後ろに下げ、守るように体を大きく広げる。


「ほぉ、やはりなかなか見応えがある女子だ。じゃあしっかり守ってみせるんだぞ」


アーノルドは不気味な笑みのまま杖から火の玉を放出させる。火の玉は三つ放たれ、雪たちに向かう。


女の子たちは雪の後ろで震え、雪は迫り来る火の玉からなんとか女の子たちを守るために避けようとはしない。


直撃する寸前に雪は目を瞑り、覚悟を決める。


炸裂音が鳴り響く。


しかし火の玉は雪に直撃することはなかった。


「‥‥‥え?」


雪はいつまでたっても火の玉が飛んでこないので薄く目を開く。


そこには腕を盾にして服が少し燃えながらも雪たちを守るように立っている大地の姿がそこにはあった。

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