9話〜救出

大地が飛び込んだ教室に広がっていたのは多数の魔物。


額から血を流しながら、机や椅子を使いながら、なんとか魔物の攻撃を防いでいる幼馴染、雪の姿がそこにはあった。


雪の後ろには隅に集まって、雪を眺める三人の女の子がいる。


「雪、無事か!?」


大地は近くにいたゴブリンを力一杯殴りつける。


殴られたゴブリンは味方の魔物たちのほうに吹き飛ばされる。


「「グギャ!?」」


魔物たちは急な乱入者に驚きながらも、大地の近くにいたゴブリン達が一斉に大地に襲いかかる。


「……大地!」


「ふっ!」


大地は体制を低くして一体のゴブリンの懐に素早く入り込み、大地の正拳突きがゴブリンの腹部に拳をめり込む。


崩れるゴブリンを傍らに大地は周囲のゴブリン達に対して前蹴り、横蹴り、後ろ蹴りと蹴りをかましていく。


大地の周囲のゴブリン達はは生きているか、死んでいるかも分からない状態で倒れ込んでいた。


「ふぅ」


やっぱまだ左腕はかなり痛むな。


でも耐えられる痛みだ。


大地は左腕の怪我の痛みを雪に感じさせないように何事もなさそうに、雪の元へ向かう。


「「グルゥゥゥゥ!」」


そんな大地の目の前にコボルト達が立ちはだかる。


「何だ?この犬頭は?橘が言ってたコボルトって奴か?まぁ、どんな奴でも関係ないがな!」


大地はコボルト達に突進していく。


「グルゥ!」


コボルトが突進をしてくる大地に棍棒を振り落とす。


大地は棍棒の動きを見切り、横にステップをし攻撃を避ける。


コボルトは攻撃を簡単に避けられたことにショックを受けたのか目を見開き、動きを止める。


大地はそんなコボルトとの間合いを詰め、正拳突きをコボルトの喉を突く。


「グ!?グ、グゥ」


コボルトは喉を突かれたせいか、変な声をあげながら、倒れそうになりながらも何とか踏ん張る。


「「グルゥ!」」


そんなコボルトを守るかのようにコボルト達が攻撃を仕掛けてくる。


「へぇ、あの緑のやつより強くて、尚且つ連携もそこそこ取れるってわけか。」


大地は少し感心しながら、攻撃に備える。


コボルト達は大地を囲い、同時に襲いかかる。


「でも‥‥‥」


大地はコボルト達の攻撃を避けてはカウンターの正拳突き、避けては回し蹴り、攻撃をさせる前に首元に手刀を繰り出す。


「攻撃もミノタウロスほど速くもないし、大したことないな」


最後に立っているコボルトに正拳突きを繰り出しながら、大地は呟く。


先程は多数の魔物達が蔓延っていた教室であったが、今ではその魔物達は地に伏せ、そこから動き出す様子はなかった。


「ふぅ、一週間も身体を動かしてなかったから、かなり鈍ってるな。雪、無事か?」


大地は自身の身体の調子を確かめながら、雪に尋ねる。


「‥‥‥うん。助けてくれてありがと」


雪は右手で布を持ち、額から流れている血を抑えていた。


「ホントに大丈夫か?結構血出てるみたいだけど」


「‥‥‥血はもう大丈夫。でも傷は跡が残っちゃうかも。私もうお嫁に行けない。」


雪は哀しげな顔をする。


「そんなに大した傷じゃないから大丈夫じゃないか?雪は美人だし、貰ってくれる人ぐらいいるさ!」


大地は雪に近づき、傷を確認しながら雪を励まそうとする。


「‥‥‥じゃあ、大地が貰ってくれる?」


雪は何かを閃いたかのように悪戯めいた顔で大地に問う。


「な、なんで俺なんだ!?雪なら俺なんかよりもっといい奴が見つかるさ!ま、まぁ見つからなかったら、そんときは考えてやるよ」


大地は雪の問いに驚き、顔が少し赤くなりながら自分の意見を伝える。


「‥‥‥ホント?じゃあ約束」


雪はいつもの軽い冗談のつもりで問うたのだが、大地からまさかの返答がきた為、雪のように白い頰は真っ赤に染まる。


そして雪は手を差し出して指切りを大地に求める。


「お、おう」


大地も指切りに応え、お互いに小指を結ぶ。


「‥‥‥これで将来も安心」


「いや、待て!これは雪を想ってくれる奴が居なかったらの話であって、絶対になるわけじゃないからな!」


「‥‥‥照れ屋さん、さっきも私が怪我してたのを見て怒ってたくせに」


「いや、あれはだな‥‥‥」


教室は机や椅子が散乱し、魔物達が転がっている状況だが、大地と雪は二人でイチャイチャなムードを作り出していた。


「あの‥‥‥、私たちのこと忘れてませんか?」


女の子の一人がおずおずと手を挙げる。


「‥‥‥忘れてないよ。‥‥‥多分」


「うん?あぁ、君たちは怪我はないか?」二人は女の子たちの存在を思い出したかのようにイチャイチャムードは消えていく。


「グスッ、私たち一緒に苦難を乗り越えたのに、イチャイチャされるほど忘れられてた」


「気にしちゃダメだよ!あれはリア充ってやつなの!私たちだって、いつかはリア充になれるはずだから!」


「うん!お姉ちゃんとお兄ちゃんのお陰で無事だったよ!ありがとう!」


三人の女の子たちの反応は様々でイチャイチャするほど忘れられて泣いている女の子、その女の子を慰めてるのか、自分に言い聞かせてるのかわからない女の子、大地の問いに素直に返事する女の子という具合であった。


「よかった、みんな無事だったか。よし!こいつらがまた起きてしまわないうちに、さっさと教室から出て

、グラウンドに向かうぞ」


大地は二人の女の子の様子が少しおかしかったため、話を切り替えようとする。


「‥‥‥賛成。またこんな奴らが来られたら厄介、早く出よう」


大地たちは教室を出て、グラウンドのある方向の廊下を歩く。廊下はとても静かで五人の足音だけが鳴り響く。


少し走ったぐらいで大地は急に足を止める。


「‥‥‥どうしたの?」


雪は大地に違和感を覚え問いただす。


「静かすぎる。外では自衛隊が戦っている筈だし、まだ避難民の人たちの声や足音が聞こえてもいい筈だ」


「‥‥‥確かに。でもこのままだとまた魔物たちに囲まれてしまう。どうするの?」


「うーん、なんでこんなに静かなんだ?考えろ」


大地は頭を働かせようと腕組みをし、目を瞑る。


「簡単なことだよ。奴らは既に捕らえられたからだよ」


「何?」


聞き覚えのある太い声が聞こえた。


大地たちは声のある方向に振り向く。そこにはこちらを見てにやけているアーノルドの姿があった。

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