8話〜幼馴染の強さ

雪は避難をしている人々に脱出するためにグラウンドに集合しろと伝えるために、校舎の廊下を走っていた。


光輝がすでに伝えているのだろうか?


廊下は雪の走っている足音が響くだけで、他の音が聴こえてこない。


もうみんなグラウンドに向かったのだろうか?と雪は考えていると「グギャァァ!」魔物の声が聴こえてきた。


「‥‥‥もう侵入されたの?もう人もいないようだし私もグラウンドに行こう」


雪はそう呟き、もう人がいないと判断し、グラウンドに戻ろうとする。


そんな時、雪のいる廊下の少し奥の教室からすすり泣く声が聴こえてくる。


雪はすぐさまその教室に向かう。


教室の扉を開けると中には三人の女の子が固まって声をできるだけ出さないように泣いていた。


雪を見つけると一人の女の子が二人を守るように前に出る。


「グスッ‥‥‥誰?」


女の子は涙を拭きながら雪に問う。


「‥‥‥私はあなたと一緒の避難民。みんな脱出するためにグラウンドに向かったのに、どうしてあなたたちはここにいるの?」


「私が大事な人形を忘れて、二人が一緒に取りに戻ろうって言ってくれて、取りに戻ったら怖い声が聞こえてきて隠れてたの」


人形を抱えている女の子が返事をする。


「‥‥‥お母さんとお父さんは一緒に戻ってくれなかったの?」


「お母さんとお父さんはいない。私たちは施設育ち」


もう一人の女の子が答える。


「‥‥‥そう。じゃあ人形も見つけたみたいだし、みんなでグラウンドに行こう」


雪はそう言うと女の子たちの手を取り、教室の外に向かおうとした時。


雪達のいる教室に三つの緑の物体が廊下から飛び込んでくる。


緑色で、背が小さく小人のようで、鼻と耳が尖っていて、かなりの醜悪な面構え、ボロボロの服を着て、こちらに棍棒や短剣を向けていた。


「「グギャァァ!」」それらの物体が吠える!


「「キャ!」」女の子達は悲鳴をあげる。


「‥‥‥ゴブリン!あなたたち、ここは危険。私の後ろにきて」


雪はそれらの物体がゴブリンだとすぐに理解する。


ゴブリンは単体ではかなり弱いが複数いると連携をとり、隙を狙って攻撃してくる。


ましてや武器も持っているので複数いる時はあまり相手にしないほうがいいと光輝から教わっていた。


雪はこのままでは女の子たちが危険だと判断。


雪の後ろに下げさせようとする。


しかし女の子達が後ろに下げさせる前にゴブリン達は一斉に襲いかかってくる。


雪は女の子達の前に出て、とても女子高生とは思えない速さで一体の腹部に蹴りを入れる。


「グ、グギャ!?」二体のゴブリンが驚き、攻撃を中断する。吹き飛ばされたゴブリンは息はしているようだが、倒れこんでいた。


「おねぇちゃん、すごい!」


女の子が力強く人形を抱きしめながらキラキラした瞳で雪を見る。


「‥‥‥好きな人と一緒にいたいから、一緒に空手をしてたら、いつのまにかこうなってしまった。そのせいで大地は私をか弱い女の子として扱ってくれない!」


雪は愚痴を吐きながら、もう一体のゴブリンを蹴り飛ばす。


雪は大地と一緒に小・中学生の時、一緒の空手の道場に入っていた。センスもあり師範に教えてもらいながら練習していたら、県内トップレベルとなっていた。


そんな雪はある雑誌を読んでいると男はか弱い女の子に弱いと書いてあった。


雪は自分がか弱いか大地に聞いてみたところ、


「ん?雪がか弱い?ハハハ!雪も面白いことを言うんだな。県内トップレベルの雪がか弱いなんて思うわけねぇよ。あれ?雪?なんでそんな怖い顔でこっちに来るんだ?やめ、やめてーー!」


と断言され雪はすぐに空手をやめてか弱い女の子を演じようとしていた。


「グギャ!?グキャァァァーーー!」


もう一体のゴブリンが崩れ、残り一体のゴブリンは大きな遠吠えをあげる。


すると近くにいたのであろう、ゴブリンと犬の顔をしたゴブリンより一回り大きさのある魔物が続々と現れる。


「‥‥‥くっ、仲間を呼ばれた。しかも、ゴブリンだけじゃない?犬の頭、コボルト?」雪は光輝から聞いた魔物の特徴を思い出し、どんな魔物なのかを思い出す。


コボルト

体は人、顔は犬で二足歩行をする魔物だ。


群れで移動して、単体では滅多にいない。


群れで攻撃をするのが慣れているため、ゴブリンより連携も取れていてなおかつゴブリンより強い。


「「グルルルル!」」


コボルトは雪に剣を構え、威嚇をし、ゴブリンはコボルトの後ろで攻撃をいつでも仕掛けようとしいる。


四方八方囲まれている状態だ。


「‥‥‥このままだと危ない。教室の隅の方に行くよ。ついてきて」


雪は先陣を切り、教室の隅に向かい始める。


行く先にコボルト、ゴブリンがいるが雪は何もいないように突進し、コボルトの顎に突きをいれダウンさせ、ゴブリンの頭には上段蹴りを決め吹き飛ばしたり、正に孤軍奮闘の状態だった。


雪は魔物達を倒しながら、教室の隅にたどり着く。


その後ろに女の子たちが一列に並んでついてくる。


「キャ!」


最後尾の女の子が倒れている椅子に足を引っ掛ける。


倒れる女の子、その後ろについてきていたコボルトが棍棒を女の子に振り落とされる。


雪はコボルトとの距離を一瞬で詰め、棍棒を受け流しながらそのままコボルトの顔面に拳をめり込ませる。


「ギャン!」


コボルトは痛みで後方に飛び、雪たちと距離が開く。


「‥‥‥大丈夫?立てる?」


雪は女の子に手を差し伸ばす。


「うん!おねぇちゃん、ありがとう!」


女の子は雪の差し伸ばされた手を掴もうとする。


ゴン!教室に鈍い音が鳴り響いた。


雪は差し伸ばしていた手を地面に落とし、片膝を落とす。


額からは血が流れていた。


「グギャギャギャ!」


ゴブリンの笑い声のような声が教室に鳴り渡る。


ゴブリンの手の棍棒には血がこびりついていた。


ゴブリンはずっと隠れて隙を伺い、隙のできた雪の頭に力一杯棍棒を振り落としていたのだ。


「お、おねぇちゃん、大丈夫?」


こけていた女の子は涙目で雪に尋ねる。


「‥‥‥私は大丈夫、さぁ、早く隅に行きなさい」


雪はゆっくりと体を起こし、少しフラつきながら女の子の手を掴んで隅っこに寄せる。


「グギャ!」


ゴブリンたちは雪たちに構わず襲いかかる。


雪は咄嗟に椅子や机を盾に使い、ゴブリンたちの攻撃を防ぐ。このままだと物量で押し込まれてしまう。


その時、教室の扉が勢いよく開く。


「雪、無事か!?」


そこには雪の愛しの幼馴染の姿があった。

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