第51話 英雄-VERETHRAGNA-
閃光が全てを白く塗り潰していた。蒼と紅、二つの光の激突の行方に固唾を呑んでいた者たちはネクサスたちが光に飲み込まれていく様を目の当たりにしていた。
「フハハハ……!」
ソルベラブは勝利を確信し、笑いを轟かせていた。
「くそっ……あいつら!」
「……ここまでか」
ユーリも、エルヴィンも機兵を操縦する手を止めた。ネクサスたちの劣勢は誰もが見て明らかだった。それでもと誰もが希望を抱いていた。だが、その姿が消えていくにつれ、その心に絶望が広がっていった。
残されたのはあまりにも圧倒的な、絶望的な存在。そびえ立つ機兵を超越した怪物。万物を分解し、呑み込む強欲の権化。それを打ち破る術は彼らにもうなかった。
「始マル……新タナ世ガ。我コソガ、世界ソノモノニナルノダ!」
――終わる。誰もがそう思い武器を手放そうとしたその時だった。
「……ム?」
ソルベラブのセンサーが何かをとらえた。その指す方向、その指す位置にソルベラブと一体になったコルネリウスが目を向ける。
「魔力反応……馬鹿ナ!」
生き残れるはずがない。ただの機兵が、ましてや人間が。膨大な二つの魔力の衝突に耐え切れずに跡形もなく消し飛んだはず――だが、その想定はソルベラブの計算も、予測も、導き出した確率も、何もかもを超越した存在であった。
「オオッ!?」
白んだ光が収まろうと――いや、集束していく。ある一点に向かって。
均衡が崩れる。蒼と紅の二つの魔力が渦を巻き、その中央に立つ存在へと吸い込まれていく。
「ナンダアレハ!」
それは、たった一機の機兵だった。蒼く煌めく機体。脚を紅の具足が覆い。黄金に輝く甲冑をまとう。太陽の光に照らされ、威光さえ放つ神々しきその姿はもはや「兵」と呼ぶに値しない風格だった。
「まさか……守護の巨人か?」
「あの色……機兵が三位一体の存在になったというのか!?」
「ダガ所詮、元ハエネルギー切レノ機兵三機……分解シテ我ガ身ニ取リ込ンデヤル!」
ソルベラブが体から無数の腕を放つ。前、左右、頭上、あらゆる方向から機兵を分解すべく迫っていく。
「――ソルベラブより腕部接近」
「――総数百三十二。全てを捕捉完了」
「――了解。これより、ネクサスを脅かす脅威の全てを排除致します」
ネクサスの腕が迫り来る無数の腕を迎えるような仕草でゆっくりと動いた。悠然と構えるその姿はまるで客人をもてなすかのように優雅に、穏やかに――。
「
一瞬の閃光がその全てを消滅させた。
「馬鹿ナ。コノ威力……マサカ!?」
ソルベラブはネクサスに魔力が満ちているのを悟った。エネルギーの枯渇していた三機がそれを得た要員。それは一つしか考えられなかった。
「吸収シタト言ウノカ。アノ魔力ヲ……!?」
先刻に見た魔力の収束。それは魔力がぶつかり合い、消滅したのではない。ぶつかり合った全ての魔力をネクサスがその身に取り込んだことを、ソルベラブはようやく理解した。
「……それだけじゃないさ」
英雄が口を開いた。重ねた三人の手、それを支える三人のパートナー。全てが集ったネクサスは歩を進め始める。
「ここにいる、みんなの想いが……平和を求め、災厄を打ち払って欲しいという想いが……全ての人たちの願いが今、ネクサスへ一つになって集まっているんだ!」
加速するネクサス。まっすぐに目の前の機械の大樹を目指し、蒼き機兵は最後の戦いに臨む。
「さあ行くぞ、ソルベラブ!」
「
「
蒼く煌めく光をまとい、ネクサスが飛翔する。ソルベラブから放たれる光線も蒼い光に遮られ、ネクサスに届く前に霧消する。
「ヌウッ!」
光線が通じないと分かったソルベラブが再び腕を生やす。今度は簡単に分解しきれないほどの大質量の腕で圧し潰そうとネクサスへ迫る。
「出番よ、マスター!」
「ヒデくん、ここは任せて!」
伊織の想いがネクサスに力を与える。ノワールの操作で紅の魔力が右脚に集中し、赤熱して一本の刃となる。
「舞いなさい、ネクサス!」
「いっけーっ!」
腕をかわし、横からネクサスが蹴りを放つ。紅の閃光が走るとともに腕が両断される。
「マスターセリア!」
「はい!」
セリアの想いがネクサスを輝かせる。
「
「
機体から発する光が矢のように貫き、その光に触れたソルベラブが爆発に包まれていく。
「ウガアアア!?」
その巨体に火がつき、燃え落ちていく。修復を試みるがそれよりも早くネクサスがその周りを高速で飛びながらソルベラブの機体を削っていく。
「修フ…ク、ガ……間ニ合…ワナイ」
「――解析完了! ソルベラブ本体の位置が判明!」
モニタに映る巨大なソルベラブの一点に照準が定められる。英雄はそこを目掛けてネクサスを突撃させる。
「行くぞ、みんな!」
「うん!」
「今こそ、この戦いに終止符を!」
「『
「周囲から構成物質を抽出。組成・元素配列を変換!」
「
英雄が、伊織が、セリアが力を注ぎ、コスモスが、ノワールが、リヤンが形を紡ぐ。
皆の想いが込められた、全ての魔力が集ったその手に、結晶たる刃が握られる。
「うおおおおおお!」
「いっけええええ!」
「はああああああ!」
「オオオオオオッ!」
取り込んだ物質全てを防御に回して本体を覆うが蒼き閃光はそれを突き破る――そして、ソルベラブを貫き、横一線に刻まれた蒼い光は巨大な機械の樹木を伝い、その全体に亀裂が刻まれていく。
「ウギャアアアア!」
解き放たれた膨大な力が一気に炸裂する。蒼き光が機械の樹木全てを覆う柱となって天を突き、その中へと紅い光が消えていく。
「スベ……テ…ヲ、コ……ノ手……ニ。世界ヲ……ヒトツ…ニ」
「……お前にはできないよ」
塵となって消滅していくソルベラブの断末魔に英雄は答える。その言葉が、想いがせめて少しでも伝わってくれればと。
「ずっと一人じゃないか……それじゃ、誰も守れない」
再び青い空が戻った時、五千年の時を経て人々を脅かした災厄の怪物は。跡形もなくその姿を消していた。
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