第47話 災厄-SORBERAB-
その機体は青天の空の中で純白に
「あれが……」
「災厄……ソルベラブと呼ばれる機体」
コルネリウスが発した機体のその名は英雄たちに衝撃を与えていた。スペルビアに伝わる『災厄』の伝承。そしてセリアの先祖が伝えた名前。それが彼らの目の前に現実として存在していた。
「ふん」
「――コスモス!」
ソルベラブが手にしていたライフルをヴィトスへ向けたのと英雄が叫んだのは同時だった。すぐさまコスモスは盾を操り、ソルベラブが照射した光線を受け止めた。
「どうして……」
英雄が怒りで震える手を台座へと置く。反応が遅れていればヴィトスは貫かれ、中にいるエルヴィンは間違いなく殺されていた。
「どうして味方を殺そうとしたんだ!」
「待ってくださいマスター!」
ネクサスが飛びあがる。一直線にソルベラブへと向かい、手にしたハルバードを振り上げた。
「――
ソルベラブのライフルが魔力を受けて瞬時に光の粒子に換わる。そして光は再度集まり、迫るハルバードの前に巨大な盾となって出現し、その一撃を防いだ。
「……なっ!?」
「控えよ。下郎」
動きを止めたネクサスの胴へソルベラブの蹴りが叩き込まれる。地面に向けて急降下するが、すぐにコスモスが空中で体勢を立て直し、墜落は免れた。
「相手はネクサスと同等の能力を持っている機兵ですよ。迂闊に近づくのは危険です」
「ごめん、つい頭に血が昇って」
「何故……と申したな。ネクサスの乗り手よ」
深呼吸をして英雄は冷静さを取り戻す。コルネリウスの乗るソルベラブはいまだ頭上で見下ろしている。
「機体を十全に扱えず、あまつさえ敵に敗北を認め投降する弱卒は余の国に必要ない」
「……くっ」
「ちっ、好きに言ってくれるぜ」
「彼らは力の限り戦いました。その健闘を、王として認めることすらしないのですか」
「
セリアが問いかける。しかしコルネリウスは事も無げにその言葉をはねつけた。
「敗者に価値などない。その点、貴様らはまだ見所がある。三機の守護の巨人を駆り、余が二人に
「
「然り。そこな二機……いや、全てのフォボスの機兵は余がこのソルベラブを使って造ったものよ」
「なっ……!?」
コルネリウスの返答にセリアが絶句する。だが今まさに『創成』の力を使った事実を前にしては、セリアも納得するしかなかった。
「貴様らが守護の巨人に選ばれたように、余もこの災厄に乗り手として選ばれた者なのだ」
その返答にノワールが怪訝な目を向ける。
「……ありえない。ソルベラブは無人機って聞いてるわよ。なんで人が乗ってるのよ」
「それは――」
地上にソルベラブが降り立つ。身構える三機の前でコルネリウスは口を開いた。
「人ガ乗ッテイルノデハナイ。私ガ乗セテイルノダ」
コルネリウスの発した声は彼の物ではなかった。驚く英雄たちの前でその声は続ける。
「私ハ、カツテノ敗北ヲ繰リ返サナイ為ニ人ヲ乗セル決断ヲ下シタノダ」
「この声……コスモス、これって?」
「恐らく、ソルベラブ本体の思考をフォボスの王を通じて発しているものと考えられます」
「五千年前。私ハ人類ノ力ニ屈シタ。故ニ更ナル力ヲ手ニ入レル方法トシテ、私モ人類ノ力ヲ得ルコトヲ決メタ」
「その答えがこれってこと……いい趣味してるじゃない」
ノワールが嫌悪を示した。主を操ってネクサスの力を振るった経験のある彼女にとってはその独善的な想いはよく理解できた。
「余ハ、人ト機兵ガ一ツトナッタ、完全ナル存在トナッタノダ」
「……こうして外から見るとよく分かる。いえ、私よりもたちが悪いわ。人と機械で融合するなんて正気じゃない」
「ちょ、ちょっとクロちゃん……人と機械の融合って……」
「こいつら、完全に一つになってる。思考もどっちのものなのか……いえ、溶け合って新たなものになってると考えるべきね」
「うわあ……」
伊織の顔が青ざめた。人の声と機械音が混じり合った異様な音声。人と機械が一つになるという設定はロボットアニメで時折見るが、現実に目の当たりにすると生理的な嫌悪感の方が勝る。
「そ、そんなことが可能なのですか……」
「マスターセリアの疑問に回答します。ソルベラブの機能があれば不可能ではありません。ですが……ノワールの述べた通り、それを実行するのは普通とは言えないでしょう」
「冗談じゃねえぞ……俺たちはそんな奴に従っていたってことかよ」
「フォボスとスペルビアを統一し、魔石と機兵によって世界の覇権を握るという野望はいったい……」
「魔石はこの世界の主要な動力源です。それを握られるということは政治的にも経済的にも世界を手に入れることになります」
「……そして歯向かう相手には機兵による武力行使。確かに世界の覇権は握れているわね」
「
コスモスとノワールが結論を導き出す。その答えにリヤンも補足する。
「エルヴィン、ユーリ。貴様ラハ我ガ手足トナッテヨク働イテクレタ。ダガ最早用済ミダ。消エルガヨイ」
「ソルベラブ、『
「来るぞみんな!」
ソルベラブの盾が再び『創成』の力で変換され、形を変えた。英雄も、伊織も、セリアも即座に臨戦態勢へと移る。
「ネクサスとヴィクトリアが前に出る。セリアはレーヴで援護してくれ!」
「オッケー!」
「わかりました。レーヴは後方より支援砲撃、並びにヴィトス、ルカニア二機の防衛を行います!」
ゆっくりと歩み寄るソルベラブに対してネクサスとヴィクトリアが立ち向かう。レーヴは砲撃による援護でソルベラブの動きを制限しようと試みる。
「砲撃ノ弾道ヲ予測――計算完了」
「なっ!?」
「ちょっ!?」
だがその砲撃の中、最小限の動きで着弾を回避し、盾や槍を使って打ち払ってソルベラブは突き進む。
「嘘でしょ。全然当たってない!?」
「伊織、攻撃だ!」
「わかった!」
「機兵二機ノ攻撃予測――計算完了」
ネクサスが繰り出すハルバードの一撃をソルベラブは槍でいなす。そして躍りかかるヴィクトリアのブレードは盾で受け止めた。
「――な」
「愚カ者メ」
「ソルベラブ攻撃、来ます!」
コスモスが強引にネクサスの姿勢を変え、ソルベラブの槍を回避する。しかし緊急であったために姿勢制御の余裕がなく、機体が倒れ込むような形になった。
「つかめ、ネクサス!」
だが英雄はその空振りを好機と取る。ネクサスの腕を上げ、槍を力の限り握りしめる。
「伊織!」
「任せて!」
「
伊織がその意図を察知し、ヴィクトリアを走らせる。その腕で刃が紅に煌き、渾身の力で振り下ろされる――だが次の瞬間、槍は真っ二つになるどころか、ヴィクトリアの刃の方が砕け散っていた。
「なんで……!」
「伊織、危ない!」
紅い光がモニターから注ぐ。ソルベラブが左手の盾を変化させ、剣がその手に握られていた。
「コスモス!」
「蒼煌の盾、展開します!」
左からヴィクトリアの胴に迫る刃を遠隔操作の盾が受け止める。伊織はすぐに姿勢を立て直し、ネクサスと共に距離を取った。
「いったいどうしたのよ、クロちゃん!」
「まさか……!」
ノワールがモニタに何かしらのグラフを表示させる。赤と青二つの棒がそこにはあったが赤のゲージが極端に短くなっていた。
「
「そんな。こんな大事な時に!」
「長期戦の影響が出たわね……特に、さっきの二機との戦いでエネルギーを極端に消耗したからだわ」
起動からヴィクトリアは戦いづくめだ。さらに装甲と両手両足の
「
「何とかできないの!」
「他の機兵からエネルギーを分けてもらえば……しまった、やられた!」
気づくのが遅れたことにノワールが苦い顔をする。周囲いた機兵はヴィトスとルカニアの二機だけを残しいずれもソルベラブとコルネリウスによって破壊され尽くしていた。
「粛清だけが目的じゃなかったってこと……」
「どうするのよ……このままじゃ」
「ノワール、ヴィクトリアをひとまず後方へ下げてください。レーヴが前へ出ます」
「イオリさん。ユーリたちをお願いします!」
「気をつけなさい。レーヴもそろそろ紅晶石のエネルギー残り少ないはずよ!」
ヴィクトリアが満足に戦えないとはいえ、砲撃戦装備のレーヴを前衛に回すところからもセリアたちがエネルギーを温存しようとしていることがうかがえる。今はとにかく残る二人を守るために伊織は唇を噛み締め、ヴィクトリアを動かすのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます