第46話 恋心-Partner-
ネクサスもまた力を増す。
「行けます、マスター!」
「うおおおお!」
ヴィトスの剛腕を回避しながらネクサスは
「おのれ……ええい、誰か我らに加勢しろ!」
手を焼いたエルヴィンが呼びかける。だがその通信に応じる者が誰もいない。レーダーから次々と自軍の機兵が消えて行くのが見えて歯噛みする。
「黄色のネクサス――セリア王女か……!」
接近するロクスをいなし、遠距離からサルチの光線を回避し、レーヴもまた一瞬の判断の遅れが命取りになりかねない戦いを続けていた。
「ただの子供が……なぜここまで戦える!」
異世界の少年少女、守られているだけであった王女。それが今や最前線で圧倒的な戦力の前に立ち向かい、善戦している。エルヴィンにも、ましてや長年スペルビアにいたユーリにすら彼らの強さの理由がわからなかった。
「ユーリ!」
「わかってる!」
ヴィクトリアに追われるルカニアが方向を転換してヴィトスへと向かう。先の様に二対一ならば。どちらか一方の力さえ削げれば勝つ可能性は高まる。
「させないわよ!」
「『
伊織の思考を読み取り、ノワールが組成を組み立てる。ヴィクトリアから放たれた魔力波は周囲の元素を足下に集約し願いの物を形作る。
それはかつて刻まれた戦いの記憶。心を奪われ、英雄の前に立ちはだかった女神の立つ台座。
「――
「魔力全開。全速力!」
ヴィクトリアから流れ込む魔力が
「なんだと!?」
「ヒデくんの邪魔を……するなああああ!」
ヴィクトリアの右腕が振り抜かれた。赤熱した刃がルカニアを薙ぎ、機体背部のブースターが火を噴いた。
「ちいっ、ブースターが!」
ユーリが舌打ちする。咄嗟の姿勢制御で機体の切断は回避したものの、推進と空中での制御ができない。高速のままルカニアが大地に叩きつけられる。
「やああああ!」
「くそがあっ!」
なおもヴィクトリアが迫る。立ち上がったルカニアだが、もはやヴィクトリア目掛けて吶喊を仕掛けるしか戦う手段が残っていなかった。そして英雄と戦うエルヴィンも耳障りな音を立てながら歪んだヴィトスで渾身の一撃を繰り出そうとしていた。
「何なんだてめえらは! ただの子供のくせに!」
「血筋も家柄もない、ただの平民がなぜそこまで戦えるのだ!」
ユーリとエルヴィンの叫びにコスモスとノワールが笑った。英雄と伊織と心を通わせる彼女らにはわかる。子供だから、平民だから。そんな立場や使命感で彼らの想いは
「そんなの――」
「決まってるでしょ――」
むしろ子供だから、平民だからという当たり前の理由が彼らを突き動かしていることを彼らは知らない。十五歳の少年と少女が戦う最もシンプルな理由。一番燃え上がるその想い。
「好きな人に――」
「好きな人に――」
ルカニアの手刀をヴィクトリアが紙一重でかわす。ヴィトスの両腕が叩きつけられるのをかわしたネクサスも翼を広げ、空へと飛ぶ。
「カッコいいところを見せたいだけだよ!」
「カッコいいところを見せたいだけよ!」
想いと声は重なり、一つとなる。ヴィクトリアの脚がルカニアを両断し、ネクサスの投擲した
「バカ――」
「な――」
切断面から『
「勝敗は決しました。どうか戦いを止め、投降してください。王家の名に誓って、スペルビアはフォボス兵を丁重に扱います」
セリアがレーヴを通じ、戦場へとメッセージを流す。その言葉に従い、ユーリとエルヴィンの敗北を目の当たりにした他の機兵たちも機体を停止させ、降伏を始めていた。そして機兵の停止を見たフォボスの兵士たちにもその様子は伝わり、徐々に戦いの音も収まり始めていた。
「これで、終わったのか……?」
「……ああ、俺たちの負けだ」
いまだ信じられないと言った面持ちの英雄の下へ、ルカニアから通信が届く。ユーリの表情は苦笑しつつもかつてスペルビアにいた時を思わせる雰囲気だった。
「という訳で、早いところ回収してくれや。動力システムが止まっちまって自力じゃ出ることができねえんだよ」
「……ユーリさん、変わらないね」
「裏切りはしたけどよ、殺し合いなんざ戦場でたくさんだ。勝敗が決したのに抵抗する気はねえよ」
「わかりました。伊織、お願いできるか?」
「むー、何で私が」
ぼやきながらも伊織はヴィクトリアでルカニアを担ぎ上げた。英雄もヴィトスに通信を送り、回収にエルヴィンもまた同意してくれた。とは言えヴィトスは大柄な機体のため、ハッチを開いてエルヴィンを直接回収することになる。
「今、ハッチを開きます」
ネクサスが機体に手を置き、『
「上空より高エネルギー反応が接近!」
コスモスが叫んだのと同時に
「ヒデくん!」
「マスター、人の心配している場合じゃなさそうよ!」
ヴィクトリアにも警報が鳴る。すぐに担ぎ上げたルカニアと共に
「マスターセリア。こちらにも高エネルギーが接近しています!」
「早く回避を!」
セリアもレーヴを走らせる。その後を追うように降り注いだ光線はレーヴを狙うだけに留まらず、近くで停止していた機兵たちをも撃ち抜く。
「コスモス、何だよこれ!?」
「レーダー外からの超高高度射撃です」
「くそっ、まだいるのか!」
盾を展開し、天からの砲撃を防ぐ英雄。だがユーリとエルヴィンが彼の言葉を否定する。
「……馬鹿な。あり得ねえ」
「フォボスの機兵でこんなことをできる奴など我々は知らんぞ」
「なんだって!?」
敵も味方もなく、無差別に機兵を破壊し続ける光線の雨はしばらくの間続いた。ネクサスの側にいた二機は無事であったが光線が降り注いだ戦場は破壊され、多くの機兵の残骸と爆発に巻き込まれた兵士の遺体が転がる地獄と化していた。
「……下を見ちゃだめよ、マスター」
「……見たくもないわよ」
込み上げる吐き気を堪えながら伊織はヴィクトリアを動かし、ネクサスの下へとたどり着く。レーヴも合流していたが、通信の向こうのセリアの表情は暗かった。
「レーダーに反応。上空より何かが接近してきます」
コスモスの声に皆が空を見上げた。青空の向こうからゆっくりと人影がこちらへと向かってきていた。
「パターン解析、機兵と断定。今の襲撃者の可能性が高いわ」
「データ照合……該当機体なし」
ノワールとリヤンが共に情報を解析し、共有していく。だがそれはユーリやエルヴィンが「知らない」と言った存在。得体のしれない不気味な気持ちが三人の間に流れていた。
「対象を確認。映像、出ます!」
モニタに表示されたのは白色の機体だった。だがネクサスの素体と同じ色でありながらそれが放つ威圧感はあまりにも異質。見る者全てに威厳よりも危機と恐怖を抱かせる雰囲気を醸していた。
「あれは……」
「――崇めよ。そしてひれ伏すがよい」
そして、降臨する機体から放たれた声に皆が悪寒を走らせた。スペルビアの象徴としてセリアがいるのならフォボスには彼がいた。絶対的、圧倒的、威圧的……かの国の在り方を人の身で体現する存在。
「世界を滅ぼし、創る力は我が手にあり。頼みの守りを貫き、汝らの勝利をくじき、絶望の未来を貴様らに与えよう……この、『
フォボスの王コルネリウスは、操る禁断の機兵の名を高らかに告げるのだった。
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