第45話 死闘-Struggle-
死闘。この戦いを評するのはそんな言葉だった。
押し寄せる無数のロクス。撃ち込まれるサルチの紅い光線。地を揺らす激しい機兵たちの乱戦の中で三機のネクサスは奮戦していた。
「三時の方向、サルチが光線の発射を準備!」
「コスモス、盾を!」
「了解!」
放たれた紅い光は蒼い盾が受け止める。そしてネクサスの影からヴィクトリアが飛び出るとその俊足をもって一気にサルチまでの距離を詰める。
「クロちゃん、
「
両腕から伸びる刃が赤熱する。炎の如き紅い魔力を
「イオリさん、危ない!」
ヴィクトリアの着地と同時に襲い掛かったロクスをレーヴが光線で射貫く。システム中枢を破壊され、ロクスは完全に動きを停止した。
「ロクス、サルチ、ともに一機ずつ完全に沈黙。残りロクス二十三、サルチ十五です!」
「まだ、そんなにいるのか……!」
戦闘状況を伝えるリヤンの声が英雄と伊織の下へも伝わると、通信を通じて英雄の披露した声がセリアに届いた。開戦から戦い続けていた英雄の体力も精神もかなりの消耗が見てとれる。それはモニタ越しのネクサスの動きから見ても伝わるほどに動きが荒くなり始めていたことからも確かだった。
「マスターセリア、ルカニアとヴィトスがネクサスに接近しています!」
そして、そんな少しの変化にユーリとエルヴィンが気付いた。ルカニアは高速飛行によって空中からネクサスに迫り、つかみ掛かった。
「ぐうっ……!」
英雄が想いを注ぎ込み、コスモスも必死にネクサスの姿勢を制御する。だがルカニアの中でユーリは口元を緩める。
「今だ、エルヴィン!」
「おおおお!」
「うわあああっ!?」
ルカニアが空へと離脱し、その後ろから周りの機兵を薙ぎ倒さん勢いでヴィトスが特攻する。大質量をそのまま叩きつける威力に、ガードしたネクサスの両腕が粉砕される。その威力はその後ろの鎧にも亀裂を生じさせた。
「ネクサス、両腕損壊! 胴体外装損傷率三十七パーセント。これ以上攻撃を受けるのは危険です!」
「早く、『
「そうはいかねえよ!」
離脱したルカニアが再度降下する。腕を失って防ぐことのできない胴体へ強烈な蹴りを叩き込んだ。
「装甲耐久限界。胸部装甲大破。ネクサス姿勢制御不能!」
「まずい!」
「やっちまえ、お前ら!」
転倒したネクサスにロクスらが一斉に群がる。すぐに英雄は機体を立ち上がらせようとするが転倒の衝撃で台座の側から投げ出されてしまい、魔石に手が届かない。
「リヤン、ヒデオさんを!」
「了解、マスターセリア!」
レーヴ背部にある光冠から光線が飛ぶ。光の矢が二機のロクスを撃ち抜くがその機体に阻まれた先にいた三機のロクスには届かない。
「クロちゃん!」
「言われるまでもないわ!」
ノワールが紅晶石から魔力を炸裂させる。ブースターが火を噴き、ネクサスの下へとヴィクトリアが飛び込む。
「ヒデくんに……何すんのよーっ!」
伊織の想いが強くヴィクトリアに流れ込む。溢れ出る思いが更なる装備を解放し、腕の刃に加え、脚部が紅に煌く。
「
「てやああああ!」
すれ違いざまに二機を切り裂く。そしてネクサスに飛び掛かっていた一機に向けてヴィクトリアが回し蹴りを放ち、逆袈裟に切り裂かれたロクスは大地に墜落した。
「ヒデくん、大丈夫!」
「ヒデオさん、大丈夫ですか!」
「ああ……ありがとう。伊織、セリア」
駆けつけたレーヴとヴィクトリアの二機が『
「
「危なかった……伊織が来なかったらきっとやられてた」
再びネクサスが立ち上がり、ヴィクトリア、レーヴと共にルカニアとヴィトスの二機と向かい合う。ユーリとエルヴィンの操縦技術はもちろんのこと、かつて『災厄』を抑え込んだという二機の機兵の性能は確かに高い。ただでさえ多数の機兵との乱戦も強いられているのに、その間隙を縫って仕掛けられる二機の攻撃はあまりにも危険だった。
「――コスモス、ノワール両名に緊急提言。作戦を提案します」
そんな状況から至る最悪の状況を算出したリヤンは、少しでも勝率の高い方法を提言することにした。だがその内容を見てコスモスとノワールは思わず声を上げた。
「……何ですかこれは」
「こちらの二機とルカニア、ヴィトスとの戦闘。そして……残る一機が全てのロクス、サルチに対処するですって?」
「現在の戦い方ではこちらのエネルギー、あるいはマスターの体力、精神力のいずれかが限界に達します。そうなれば数的不利は更に悪化し、動きを止めた一機を守りながらでは確実にこちらは敗北します」
元より英雄たちは誰一人死ぬことが許されない。この戦いにおいて機体の戦闘不能は敗北と同義だ。そして自分たちの敗北はスペルビアの命運が尽きると言うことだ。
「リスクは高まりますが、戦闘を早期に終わらせるにはこれしかありません」
「成功確率……四十パーセント以下。なかなかに博打ね」
「……ですが、確かに現状で最も可能性のある方法です」
コスモスたちが一同に操者たちへ了解を求める。そして三人にも断る理由はない。
「やるしかないな」
「でも、誰が三十機以上の機兵を相手にするのよ?」
「……私がやります」
セリアが手を挙げた。そして、コスモスたちもそれがいいと頷く。
「コスモスはマスターセリアの提案に賛成します」
「同じくノワールも賛同するわ。相手には遠距離砲撃が可能な機兵がいるもの。ルカニアとヴィトスとの戦いに手を出されないように立ち回るならレーヴは適任と言えるわ」
三機のレーダーが、フォボスの機兵たちが一斉に動き出したのをとらえる。これ以上の議論は不可能と判断した三人はリヤンのプランの通り動くことを決断する。
「無茶したらダメだからな、セリア!」
「できるだけ、こっちも早く片付けるから!」
「任せて下さい。決してお二人の邪魔はさせませんから!」
ネクサス、ヴィクトリアがルカニアとヴィトスに向けて発進し、レーヴはその場で残りの機兵に向けて砲門を向ける。
「やる気か、坊主たち!」
「セリア王女を一人にしたことを後悔させてやろう!」
ネクサスが剣を振り下ろす。しかしルカニアは高速で空中へと逃げ、ネクサスの後ろへと回り込む。
「後ろががら空きだぜ!」
「させないわよ!」
ルカニアとネクサスの間にヴィクトリアが割って入り、手刀を受け止める。ネクサスの速度ではルカニアはとらえられない。だが速度と格闘による戦い方ならばヴィクトリアも同じ。
「邪魔はさせんぞ、
「コスモス!」
「『
ネクサスの手にある剣が形を変えていく。ルカニアには速度で当たらない。ヴィトスは堅くヴィクトリアの刃で切断は不可能。ならばとらえられるヴィトスへの対処をネクサスがすればいい。
「構成物質の組成・元素配列を変換。ミスリルを生成。形状を変換」
一度は手にした武器。切断ではなく破壊をメインとした巨大な武器が再びネクサスの手に握られる。
「――
「でやああああ!」
ヴィクトリアに伸びるヴィトスの手を打ち払う。
「伊織は俺が守る。指一本触れさせないぞ!」
「さっすがヒデくん、カッコいい!」
「うおっ!?」
ヴィクトリアの出力が増す。拮抗していた力のバランスが崩れ、ルカニアを押し返す。
「だったら私はヒデくんに勝利をプレゼントしてあげるわ!」
「伊織……」
「……あんたたち、どさくさに紛れてイチャつかないでちょうだい!」
「なーに言ってんのクロちゃん。イチャついてなんかないわよ!」
ルカニアの腕が跳ね上がる。咄嗟にユーリはブースターを噴射させ、ヴィクトリアからの距離を離す。
「だって私たち、まだ付き合ってもいないのよ。イチャつくのはそれからよ!」
伊織の想いがヴィクトリアの力を更に増大させる。逃げるルカニアを追ってブースターが火を噴き出し、紅の弾丸となって突き進む。
「負けていられませんよ、マスター!」
「ああ! 俺もまだ――」
ネクサスも
疲労困憊の体を気持ちで突き動かす。まだ心は折れていない。背中を預けて戦ってくれる人が、最愛の人が共に戦ってくれているその事実が彼の背中を押してくれる。
「伊織に告白の返事をしてないんだからな!」
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