第43話 閃光-Lightning-
森が燃えていた。鬱蒼と茂った木々は爆撃によって燃え落ち、美しかった森の姿はもうどこにもなかった。その中でヴィクトリアはヴィトスに潰されまいといまだ耐えていた。
「諦めろ。そろそろセリア王女が討ち取られた頃だ」
「最後……まで。諦めたり……しないんだから!」
全力で出力を上げ、ヴィクトリアは食い下がる。だができて力が拮抗するところまで。ヴィトスの腕を振り解き、セリアの下へ救援に向かうことまではできなかった。
「マスター、地下から機兵の反応が!」
「そんな!?」
ヴィクトリアのレーダーはゆっくりと近づくその反応をしっかりと捉えていた。先程侵入した機兵が戻ってくると言うこと。それはつまり命令を遂行し、帰還したということだ。
やがて機兵の腕が現れた。大地に指をかけ、パワーを上げて機体を持ち上げていく。
「待って。この反応って……まさか!?」
「クロちゃん、あれ!」
そして現れたその姿に誰もが驚きの声を上げていた。ロクスと真逆の白い機体色。見慣れたフォルムとその頭部を持つその機兵は力強いその姿を地上に現した。
「三号機、起動したの!?」
「うそ、いったい誰が動かしてるのよ!?」
そこへ、三号機から通信回線が開かれる。モニターに表示されたその人物に伊織もノワールも目を見開いた。
「イオリさん、ノワールさん。御無事ですか!」
「セリアさん!?」
「セリア!?」
「説明は後です。今すぐに助けます。このレーヴで!」
「た、助けるって――」
ヴィクトリアの状況、大空に展開する敵の航空機を見てセリアはすぐさまリヤンに指示を出す。そして爆音轟く戦場に響き渡るよう、大音量の音声で呼びかけ始めた。
「ここにいるフォボス兵に通達します。これ以上、我が国土を荒らすことは許しません。正義も大義もない横暴なる侵略を今すぐ停止してください。応じないのであれば、スペルビア王女、セリア=フランソワーズ=ユマンの名において実力行使を行います!」
「フハハハハ! わざわざ自ら狙われに出て来るとは。総員、あの白い機兵を狙え!」
まさに集中砲火。セリアの最終通告を無視し、フォボスの爆撃機は爆弾をレーヴ目掛けて次々と投下し、戦闘機もまたミサイルを発射していく。
「いかに守護の巨人と言えど、空からの無数の攻撃は対処できまい!」
「警告はしました……リヤン!」
「了解。
レーヴが魔力を放つ。ヴィクトリアが倒した機兵の残骸が、破壊された施設の瓦礫が分解され、元素となって集っていく。
《構成物質の組成・元素配列を変換。アダマンタイトを生成》
《形状を変換――クリア》
《必要耐久値――クリア》
《魔力リンク――クリア》
その背に愛する国土を、この肩に民の命運を背負い、太陽の様に皆を照らし、未来へ導く「理想」の名を冠した機体は外装を得て、その名に違わぬ姿へと変わっていく。
「
一号機の蒼でも、二号機の紅でもない。黄色いその姿はあたかも地上に出現した太陽のごとく光り輝く。
「これ以上、私の国で好き勝手はさせません!」
「マスターセリアの要請に従い、敵性機体より飛来する物体全ての排除を行います」
リヤンが告げたその瞬間、モニター上に確認できる全ての爆弾、ミサイル類が次々とマーキングされていく。それと共にレーヴの腕部と背部の外装が開き、その中に格納されていた砲身が姿を現す。
「総数四百三十五。全てを補足。ユニゾンドライブ起動。
二つの石を使い分ける
「
「
セリアの号令を受け、レーヴ内に蓄積された魔力が一斉に放たれる。光は矢となり、矢は次々と枝分かれし、補足した全ての物体目掛けて飛んでいく。
「――な!?」
光の矢に貫かれた爆弾が次々と爆発し、天空に無数の閃光の花が咲く。ただの一つも撃ち漏らさず、セリアの愛する国土は一切傷ついていない。そのあまりの威力と光景に、エルヴィンは閉口し、伊織とノワールも唖然とするしかなかった。
ずっと守られてきたスペルビアの象徴たる少女。自らの無力さを嘆き続けていた彼女は戦うための力を遂に得た。敵対するものには畏怖を。共にあるものには恩恵を。太陽のごとくその光をもって示す。今の一撃は見た者全てにその威光を知らしめるものだった。
「くっ……守護の巨人が二機とも動くとは完全に誤算だ」
これ以上の継戦は危険と判断したエルヴィンは、苦虫を噛み潰したような顔で吐き捨て、ヴィクトリアからヴィトスの手を離し、ブースターをふかして後退を始めた。その方向に英雄の乗る一号機がいることを伊織とセリアも気づき、すぐにヴィクトリアとレーヴもヴィトスを追い始める。
「ユーリ。セリア王女殺害は失敗だ。そっちへ合流する」
「はあ? おい、何があった。守護の巨人の確保もどうなった」
エルヴィンが通信回線を開くとユーリはすぐに応じた。エルヴィンの失敗を知り、彼も眉を顰める。
「その守護の巨人がセリア王女と異世界の少女の手によって全て起動した。いかにヴィトスでもさすがに二機相手は分が悪い」
「ちっ……また守護の巨人か。やっぱりそいつをぶっ潰さない限りフォボスの勝利はないようだな」
「私も同意見だ。故に今ここで決戦を仕掛ける。構わんな?」
「……ああ。持ってきた全ての機兵を起動させる。逐次投入なんて生温いこと言ってる場合じゃねえ。魔石はもったいねえが、一斉に投入して潰しにかかるぞ」
「ああ」
「やれやれ、こんなに損失出したら勝っても陛下に怒られそうだ」
エルヴィンはモニターとレーダーで自分の後方で二機のネクサスがヴィトスを追っているのを認める。
本来、フォボスの圧倒的優勢だったこの戦争は、ネクサスと英雄によって幾度も覆された。そして此度もまた、二人の少女が起動させたネクサスが状況を一気に覆した。いい加減、認めなければならなかった。ネクサスこそ世界を得るための最大の脅威であり、それを駆る三人の子供たちこそ、侮ってはならない存在であったことを。
「仕方あるまい。それだけの損失を被ってでも倒さねばならない敵だと言うことだ」
例え機兵の大半が破壊されても。戦力に甚大な損害が発生しても倒さねばならぬ相手。つまらない戦になるかと思われた中で出会えた強敵にエルヴィンは口元に思わず笑みを浮かべるのだった。
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