第20話 迎撃-Halberd-
「どうしたんだ、コスモス」
「高速で接近する機体反応!? この速度……いけない!」
コスモスがネクサスの外へ、すぐに音声を繋ぐ。
「スペルビアの皆さん、今ここへ機兵が接近しています! 巻き添えになる前に急いで避難を!」
勝利に沸いていたスペルビアの軍勢が水を打ったように静まり返る。皆青ざめ、慌てて砦の中へと逃げ込み始める。
「コスモス、こっちからも行こう!」
「了解しました。ネクサス、迎撃に出ます」
英雄もネクサスを迫る機兵へと走らせる。モニタに表示されたレーダーには、赤い印が高速でこちらへ向かってくるのがわかる。
「何だこれ……こんなスピードの機兵がいるのかよ」
「かつての時代の機兵には多種多様なものがありました。中にはこのように機動性に富んだものもいます」
「空を飛んでいるとか?」
「そういった機兵もいないことはないですが……今回の反応は地上からです」
赤い印が近づいてくる。英雄は視点をネクサスの見る風景に移した。フォボスの機兵を象徴する漆黒の機兵がこちらへと迫ってくるのが肉眼でも確認できた。
「敵機体を確認。機体の照合を開始します」
轟音を響かせ、車輪が回る。その巨大な黒鉄の乗り物は進路の木々をなぎ倒しながら一直線にネクサスの前に姿を現した。
「データ照合完了――これは!? 無人特攻機「ヴィクトリア」です!」
「無人特攻機?」
「あまりにも危険な任務を行う際に、人的被害を抑えるために用いられた自律行動型の機兵です」
「危険な任務……?」
コスモスが息をのむ。そして、躊躇いがちにその言葉を紡ぐ。
「……特攻、自爆任務です」
ヴィクトリアの設計図がモニタに表示される。その内部に仕組まれた高威力の爆弾の位置などが記された。
「時限式の爆弾の動力供給を行うために機関部と連動していますので、機関部を停止させるとその場で爆発します」
「それじゃ、これまでの戦術は使えないってことじゃないか!?」
「はい。なので、この機兵に対しては機動力を奪い、爆発するまで近づかない方法を取るのが最もリスクの少ない戦法だと、マスターに進言させていただきます」
「わかった。でも、あのスピードの機兵をどうやって動けなくするのさ?」
ネクサスの武装は奪ったロクスの腕に装備されていた
「マスター。相手が無人兵器である以上、威力のある武器の使用も構いませんか?」
「……うん。無人兵器をどうにかするのなら」
一直線に砦を目指すヴィクトリア。
《ネクサス内部データを
《ネクサスより半径二百五十メートル以内をサーチ》
《必要とされる質量、材質――全ての存在を確認》
英雄が思いを注ぎ、蒼煌石から魔力がネクサスを満たし、その機体が蒼く染まって行く。
《蒼煌石からの魔力抽出を完了。魔力波、照射します》
ネクサスが右腕を前へとかざす。蒼い波動が放たれ、それを受けた機兵の残骸や土壌、周囲に存在するありとあらゆる元素が光を放ち、反応を示す。
「『
蒼い光がネクサスの右手へと集まり、望む形へと変わっていく。
「構成物質の組成・元素配列を変換。ミスリルを生成。形状を変換――クリア。必要とされる強度・硬度――クリア。魔力リンク――クリア」
そしてその手に、大質量の獲物が握られる。斧と、槍と、騎兵を馬上より引きずりおろす鉤を備えた複合武器。
「――
ヴィクトリアが目前へ迫る。ネクサスはその一直線の動きに合わせるためにハルバードを構える。
「ヴィクトリアは目標に到達するまで一直線に進む機兵です。道中に立ちふさがるものは全てその
「無茶苦茶だな……」
「その進路予測から、目標はゼムの砦の破壊か、フォボスの
「了解!」
戦車の速度を加えたスピアの攻撃を受け止めるため、コスモスが蒼煌の盾を分離させ、空中に展開させる。
英雄はネクサスを操り、ハルバードを右腕で振りかぶる。
「目標、ネクサスの射程まであと七、六、五……」
「ここから先は通さない!」
英雄が大きく息を吸う。ネクサスの後方ではまだ兵士たちが砦に戻り切っていない。砦に近づかせないためにもここで食い止めなければならない。
そして、コスモスのカウントダウンが終わる。
「……二、一、ゼロ!」
攻撃が逸らされ、生じた隙へとネクサスが盾の本体を構えて突っ込む。
「行くぞ、ネクサス!」
ネクサスが押し返したことで
「なっ!?」
「そんな!?」
だが、次の瞬間。ネクサスに乗る二人が共に驚愕する。ハルバードで砕かれるはずだったヴィクトリアが上体を逸らし、その攻撃をかわしたのだ。そしてヴィクトリアは左の腕を繰り出してネクサスの頭部を横殴りにする。
「うわっ!」
ハルバードをかわされた隙を突かれ、ネクサスが体勢を崩す。そしてヴィクトリアの乗る
「行かせるか!」
蒼煌石から手を放さず、英雄はネクサスに命令を出す。コスモスがその体勢を立て直し、ネクサスがハルバードを振り回す勢いで機体を反転させる。ハルバードの鉤爪を
「コスモス!」
「ネクサス、パワー全開!」
「ヴィクトリア、
「よし!」
だが、ヴィクトリアは空中で体勢を立て直す。着地し、すぐさま砦へ向けて走り出す。
「待てよ!」
ネクサスをヴィクトリアに組み付かせる。なお進もうとするのを必死に押し留める。
「ヴィクトリア内部より高魔力反応!」
「まさか、自爆!?」
「いえ、違います。機関部は過熱していますが、自爆の反応ではありません!」
ヴィクトリアの機体の色が紅に染まる。それは、フォボスの機兵が備えた特殊能力を発動する証。
「――っ!? 機体後部より接近する物体!」
「なんだって――うわっ!?」
ネクサスが後方から強い衝撃を受ける。予想外の方向からの一撃に、ヴィクトリアを掴んでいた手が離れる。
「
「そんな、自動攻撃機能!?」
手が離れた瞬間を逃さず、ヴィクトリアが走り出す。ネクサスも立ち上がるがそこへ再び
「邪魔するな!」
ハルバードで
「コスモス!」
「蒼煌の盾、展開します!」
放たれた三つの盾のパーツがヴィクトリア目掛けて飛翔する。足を払い、その機体が再び倒れ込む。
「今だ!」
「マスター、
距離を詰めるネクサス。だが、
「くそっ、しつこいな!」
「違う。この正確性、自動攻撃じゃない……まさか!」
コスモスが解析を始める中、紅の機体が身を起こす。ネクサスが自身の行動の障害になると判断したヴィクトリアはその方向を変え、スピアを構える。
「でやああああ!」
ハルバードとスピアが打ち合う。だが助走が加わっていた分、ネクサスの攻撃が上回り、ヴィクトリアのスピアを大きく弾いてその身をのけぞらせる。
「機関部さえ止めなければ!」
「解析完了――いけない、マスター!」
がら空きの胸元へハルバードの穂先を向ける。機兵の操縦の中枢を司る部分は胸元から頭部にかけて集中している。貫き破壊すれば動きは止められる。
「いけええええ!」
「ヴィクトリアには人が乗っています!」
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