ソーヴ・キ・プ
春風月葉
ソーヴ・キ・プ
一日の終わり。
私は湯槽に浸かっておもちゃの舟を浮かべていた。
なんとなく舟を指で押すと、プカプカと浮いていた舟はくるりと反転して沈んでしまった。
正直、舟は嫌いだ。
船乗りだった私の父は、嵐の中暗い海の底に一人沈んだ。
父以外の船員四人は全員生き延びたらしい。
私がまだ幼い頃のことだが、その所為もあって、私は舟というものに特別な感情を持っていた。
今ではこうして湯槽に浸かっているが、水が怖くて今でも海や川を避けてしまっている。
父の最後の言葉を父の元船員から聞いたことがある。
ソーヴ・キ・プ。
沈没する舟で、最後に船員にかける船長の言葉だそうだ。
意味は、生き延びることができるものは、全力で生き延びよ。
船員に向けたはずのその言葉が、どうしてか私に向けた最後のメッセージに思えてならない。
必死に生きろ!と。
私は沈んだ舟をつまみ上げ、もう一度水の上に浮かせ直した。
ソーヴ・キ・プ 春風月葉 @HarukazeTsukiha
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます