第28話

 花梨とホランが仲間に入り、ボク達は超特急でライオネル国へ向かった。


 途中、カイをピックアップし、砂漠越えも順調だったし、タイラスに預けていたタブに乗り換えた後も、快調に進むことができた。タイラスが、タブの世話をしっかりしておいてくれたおかげだ。

 この時点で、クローが王都マヤマに報告するために先に飛んで帰国したので、クローのタブにホランが乗り、花梨とライカが相乗りすることになった。

 さすがに、クロー一人で飛んで帰れる距離ではなかったけれど、シルフィが手助けすると、風の娘を一人貸してくれた。クローは、ほぼ翼を動かすことなく、風に乗って、凄い速さで見えなくなり、その後を追うように、ボク達はタブを走らせた。


 途中、王の命令で乗り換えようのタブが配置されていたので、昼間は休むことなく走り続けることができた。さすがに夜は休んだが、その少しの休憩の時間に、ホランや花梨の話しを聞いたり、剣の手合わせしたりして過ごした。

 

 剣術が一番強かったのは、予想外に花梨だった。

 

 体術はホラン、総合ではドギーだった。

 

 この結果に、真剣に悔しがったのはライカで、暇をみては花梨に剣道を習っていた。

 花梨の剣道は独特で、合気道のいなしや呼吸法も混ざりあい、ライカの剣術と似ていたため、ライカもグングン吸収し、三本に一本は勝てるくらいに上達した。

 

 焚き火を挟んで向こう側で、花梨とライカは打ち合っていたが、その動きはまるで剣舞のようで、凄く美しかった。


「花梨ちゃんって、魅力的な女の子ね。」

 キャシイが、ボクの隣りへやってきて言った。

 確かに、花梨はあれだけ可愛くても、男子女子双方に人気があった。普通、男子に好かれてると、女子から陰口叩かれるものだけど、女子からの人気も絶大だったな。

「けっこうズバズバ言うのに、嫌味がないし、男より男らしいかもしれない。」

「そう?確かにたよりにはなるけど、ボクの前では可愛い女の子だよ?」

「それなのよね。花梨ちゃんのそういうとこ、見習わないとなんだわ…。」

 キャシイは思うところがあるのか、ため息をつきながら、花梨達を眺めていた。

「何を見習うって?」

 いつの間にか、背後にソロが立っていた。

「あんた、いつからいたのよ?!」

「へっ?今だけど。なんだよ、また俺の悪口か?」

 キャシイは顔を赤らめ、何か言い返そうとしてやめた。

「…そんなんじゃないわよ。」

 キャシイがいつもみたいに突っかかってこないので、ソロは調子が崩れたのか、頭をかいて隣りへ座った。

「ボク、ちょっと…。」

 邪魔したらいけないかと思い、飲み物を片手に焚き火の前から離れた。

 

 振り返って見ると、二人の距離が少しだけだけど、近いような気もする。

 いつの間にか花梨とライカの打ち合いは終わっていて、今度はホランがボアと組み合っていた。

 

 ボクは花梨を探す。

 

 すぐそこの川に汗でも流しに行ったんだろうか?

 

 キョロキョロしていると、ウルホフの後ろ姿が見えた。花梨の居場所を知らないか声をかけようとしたとき、後ろから口を塞がれる。

「ダメよ、邪魔したら。」

 探していた花梨だった。

 ウルホフの前にはライカがいて、なにやら赤い顔をしてウルホフを見上げながら話している。

「いったい?」

「いいから、あっち行こう。」

 花梨は小さな声で言うと、ボクを引っ張って行く。

「ライカね、理想の男性はお父さんなんだって。」

「え?ああ、そうなの?まあ、タイホップさんは、強いしかっこいいもんね。」


 ライカの理想の男性像を聞くくらい、二人は仲良くなっていたのか。

 

 日中は二人は相乗りしているし、この二人ならタグを走らせながら会話するのも、苦じゃないかもしれない。

「でね、ウルホフのオーラの形だかなんだかが、お父さんに似てるんだって?オーラってのがよくわからないけど。」

「そうらしいね。」

「で、ウルホフが自分よりも強いって知ってから、ウルホフのことばかり目で追うようになったんだって。昨日、そのことで相談受けてさ、なんでだかわからないって言うから、あたしがユウを思う気持ちと同じだと思うよって言ったの。」

「同じ気持ちって、…エェッ?!」

 花梨は、ニコニコ笑ってうなずいた。

「ライカってば、恋愛についてはさっぱりなのね。自分の気持ちにさえ気がつかないんだから。でも、気付いたら行動は速いみたいよ。」

 

 ということは、さっきのあれは…。


「ウフフ、なんかみんなあたし達に触発されてるみたいね。」

 花梨は、ボクの手に手をからませる。

「ライカがねえ…。」

 ボクも花梨の手を握り返す。


 今晩は、もしかしたら二組のカップルの記念日になるかもしれないな。

 

 ボクは、花梨と月を眺め、一つのコップでお茶を飲みながら思った。




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