第27話
「そっか、あの噂はユウだったんだ。絶対違うって思ってたけど。凄い経験してきたんだね。」
「花梨こそ、盗賊をやっつけたり凄いや。そうだ、精霊達も紹介しないとだね。」
ボク達は、こっちにきてからのお互いのことを話し合っていた。
花梨は盗賊をやっつけたり、伯爵家のお家騒動を解決したり、ザイール王家の皇女誘拐を解決したりと、活躍しまくっていたみたいだ。
「みんな、花梨だ。ボクの大切な人だよ。出て来てくれるかな?」
精霊達は、フワリと空中に現れた。
ウィンディが優雅にお辞儀をした。
『ウィンディでございます。水の精霊ですわ。』
『サラス。火の精霊だよ。』
『シルフィ、風の精霊でございます。以後、よろしくお願いいたします。』
『あとは、大地の精霊の種もあるんだぜ。』
「凄い!精霊って、妖精とは違うの?」
『妖精族は、我らと近い種族ではありますが、根本が違います。獸人よりは、我らの力を感知しやすいので、たまに勘違いする者もいるみたいですが。』
『私達は、ユウ様と共にあります。どうぞ、これからお願いいたします。』
精霊達は思い思いに挨拶すると、また空気に溶けていなくなった。
「水に風に火、土まで。凄いじゃん、四大精霊だね。」
「ほんと、ボクなんかにね。」
「な・ん・か、なんて言わない!ユウだからだよ。このあたしの彼氏なんだから、卑屈にならない。」
「彼氏か…。」
まだ、実感が湧かない。
「なに、嫌なの?」
花梨はボクの鼻をつまみながら、甘えた声を出す。
「そんなわけないだろ。」
ヤバイ、可愛い過ぎるだろ。
久しぶりに会った花梨は、もうなんて言うか、たまらないくらい可愛い!
あっちにいたときは、苛々してばかりいたのは、なんでだったんだろう?今は穏やかな雰囲気で、目付きから違う。
ツンツンした花梨も可愛かったけど、今の花梨は綿菓子のように甘くフンワリしている。
「そろそろいいかな?」
ドギーが食堂の扉をノックして顔を出した。
「はい、大丈夫です。」
ドギーとキャシイが食堂に入ってくると、ボク達の前に座って、言いにくそうに話し出す。
「あのさ、急で悪いんだけど、この国での目的も達成したし、午後にはたとうかと思うんだ。もちろん、花梨さんの都合もあるだろうから、確定ではなく希望なんだけど。どうかな?」
「あたしはかまいませんよ。」
ドギーは、ほっとしたように微笑むと、キャシイに金貨の入った革袋を渡す。
「キャシイ、花梨さんの旅の支度を頼むよ。必要な物を一緒に買ってきて。あと、その前に花梨さんの仲間の方々に知らせないとだね。それはソロに行かせよう。花梨さんの宿屋はどこだい?」
「サラの宿屋です。」
「了解。じゃあ、キャシイ頼むね。」
「ボクもソロと行っていいかな?」
「ユウが?」
ボクはうなずく。
「花梨のこと、お礼言わないとだから。」
「やだ、そんな必要ないよ。あいつらは勝手についてきたんだし。」
「そうもいかないよ。」
「そう?全く必要ないんだけど…。」
花梨は、ブツブツつぶやきながら、ボクに抱きついて頬にキスした。
「じゃ、すぐ戻ってくるから。どこにも行ったら嫌よ。」
ボクはまたもや赤くなる。
花梨は名残惜しそうにしながらも、キャシイと買い物に出かけた。
「落ち着くところに落ち着いたみたいだね。」
ドギーは、ニコニコと笑いながら言った。
「えっと、…まあ。」
「良かったよ。ユウみたいな奥手には、あれくらい積極的な子がいいさ。」
またもや顔が赤くなる。
もう、熱があるんじゃってくらい暑い。
ボクは、食堂から出ると、ソロ達の部屋に向かった。
ソロはウルホフと一緒にいて、三人で花梨の宿屋に向かうことになった。
ソロもウルホフも、鍛えるのが趣味みたいなところがあるから、花梨の連れのホランのことが気になってしょうがないみたいだった。二人くらいになると、手合わせしなくても、相手の強さはある程度わかるみたいで、ホランはかなりの手練れだと話していたらしい。できれば手合わせしてみたいと。
まあ、ド素人のボクが見ても、あのホランって獸人はかなり凄そうだけど。
花梨の宿屋につくと、ホランとポーが旅支度をして宿屋の前に立っていた。
「遅かったな。」
「兄さん、しょうがないよ。久しぶりの再開なんだから。」
「えーと、あの…?」
この二人は、なぜここにいたのか?ボク達を待っていたような口振りだけど。
「行くんだろ?」
「花梨を連れて行くことになったから、その報告とお礼を言いたくて。」
「礼?いらんいらん。どうせ、勝手についてきたから必要ないって言ってたろ?」
「その通りだけど…。」
「だから、これからも俺は勝手についていくぜ。黒い奴か?なんか面白そうな奴倒しに行くんだろ?俺はもっと強くなりてえんだ。」
「あ、ついていくのは兄だけですから。キンダーベルンにも戻れるようになりましたし、僕は故郷に戻ります。兄をよろしくお願いいたします。」
ポーは頭をペコンと下げた。
「えーと、ソロ、どうしよう?」 「とりあえず、ドギーに話してみないと。」
「そうだよね。」
ボク達が相談している間、兄弟は勝手に別れの挨拶すませ、ポーは手を振りながら旅立ってしまった。
「ほら、行くぞ。」
ホランが荷物をかついでボクの目の前に立った。
本当に、壁のように大きい。彼の手助けがあれば、かなり助かるかもしれない。
ボク達は、ホランを連れてまた宿屋まで戻った。
その途中、どんな相手を相手にすることになるのか、とにかくわかっていることを全てホランに話した。ホランは、聞けば聞くほど目を輝かせ、遠足前の子供のように、楽しくてウズウズと落ち着かない素振りになった。
「やっぱ、花梨についてきて正解だったな!こんな面白そうな話し、なかなかお目にかかれやしねえ。」
「面白そう…。」
ソロは、少しムッとしたように言う。
「悪い!あんたらの国の大事だもんな。失言だった。」
ホランは、素直に頭を下げる。
「いや、そこまで気にしてないし。頭を上げてくれないか。」
「あなたは貴族なのでしょう?勝手に国を出て大丈夫ですか?」
ウルホフが聞く。
「俺は、だいぶ前に家は出てるし、表向きには死んだことになってるから、何も問題ないな。それに、ここに残れない問題もあってよ…。」
残れない?
盗賊の頭領やってたくらいだから、犯罪関係だろうか?
ソロもウルホフも、犯罪関係を創造したのか、顔付きが険しくなる。
「勘違いしてるだろ?まあ、そりゃ清廉潔白っちゃ言わんがよ、あんたらの創造は外れだ。」
「なら、残れない理由は?」
ソロが厳しい表情のまま問いただす。
「…女だよ。結婚迫られてて、このままじゃ、せっかく家から自由になったのに、また縛りつけられちまう。」
「断れないのかな?」
「手をだしたんじゃないのか?」
ボクとウルホフが話していると、ホランはそんなボク達のことを後ろから羽交い締めにした。
「手なんかだすかよ!俺はツルンペタンなガキには興味ないの。どうせなら、ほれ、あのくらいボンキュッボンじゃないとね。」
ホランが指差した先には、花梨と買い物していたキャシイがいた。
「あんな色ボケ猫!魅力なんかゼロだぞ。口はうるさいし、可愛いげはないし。」
ソロが慌てたように言う。
ホランは、なにか察したのか、ニマニマ笑ってソロの肩にてを置いた。
「俺は他人の物にも興味ないから、安心しな!」
「他人のって…いや、俺は関係ないし。」
ソロはモゴモゴ言い訳し、ホランは笑いながらソロの肩を叩く。
「あれ、もう仲良くなったの?」
花梨とキャシイが、ボク達に気がついて、走ってきた。
「まあな。」
「ポーは?」
「キンダーベルンに帰った。」
「まじで?」
「ああ、どうせ、全部終わったらキンダーベルンに一度は帰るんだろ?タイも待ってるしな。だから、別れは言わないってよ。」
タイって、さっき花梨の話しにでてきた、盗賊のところにいた捨て子のことだろうか?花梨達が引き取って、キンダーベルンの養子にしたとかいう。
「そうね。戻りたいとは思ってるわ。で、なんであんたは一緒に帰らなかったの?」
「俺はまだおまえに勝ってないしな。それに、この国にいたらちょっと…。まあ、武者修行だよ。おまえについて行ったら、何かと面白そうだからよ。」
「バッカみたい。そんな簡単な相手じゃないみたいよ。」
買い物をしつつ、花梨もキャシイから悪しき黒き者について話しを聞いていたらしい。
「だからだよ。俺がどこまで通用するか、試すいいチャンスじゃねえか。」
「どうなっても知らないわよ。勝手にしなさいな。さて、買い物も終わったし、戻りましょうか。ホラン、あたしの荷物も持ってきてくれたんでしょうね?」
「一応な。」
花梨は、自然にボクの腕をとると、歩き出した。
この距離で歩くのは、小学生ぶりだ。なんか、照れくさい。
「凄いのよ、花梨ちゃん。ほとんどのお店の人と仲良くて、ただでくれるか、かなり安く売ってくれるかだったわ。」
キャシイが、感心したように言った。
「花梨は、この市場の用心棒みたいなもんだったからな。」
「やめてよ。ただ、ちょこっと悪い奴を捕まえたりしただけ。たいしたことしてないのよ。」
花梨が可愛らしくボクを見上げて言う。
「うん、花梨は可愛いから、みんなあげたくなっちゃうんだね。」
花梨の頭をポンポンする。
「うん!」
花梨がピトッとくっついてくる。
後ろでソロとウルホフが、恋愛って怖いとつぶやいていた。
だって、しょうがないよね。
花梨はこんなに可愛いし、可愛いし、可愛いんだから!
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