第24話
砂漠を抜けて、ボク達は二班に別れて行動することになった。
ドギー、ソロ、キャシイ、ウルホフ、ボクは第一班。
ボア、ライカ、ラビー、プーシャは第二班。
クローは、定期的に第一班と第二班の間を連絡役として飛ぶことになっている。
ライカは、別れるときまで第一班と行きたいとごねたが、ライカの父親のタイホップの命令であること、情報収集は大事な使命であることをを言い聞かされ、渋々納得した。
「ユウ、頑張ってあんたの仲間の情報仕入れてくるからね!あんたも気をつけて行くんだよ。ウルホフ、ユウをよろしくね。」
ライカは、ボクの手をがっしり握り、名残惜しそうに離さない。「ほらほら、ライカ。ユウが困ってるって。行くよ。ユウ、じゃあまたね。」
プーシャがそんなライカをボクから引き離し、バイバイと手を振りながら、ライカを引っ張って行く。ライカも引きずられながら、ブンブン手を振った。
「全く、騒がしい奴だな。」
そう言うウルホフの表情は、言葉とは逆に柔らかい。
「ウルホフ、ライちゃんには直接的にいかなきゃダメよ。あの子鈍感なんだから。」
「え…えっと?」
赤くなり戸惑うウルホフの胸を、キャシイはニマニマと笑いながら小突く。
「見てればわかるわよ。好きなら好きって言わないと。態度でわかれったって、伝わる相手じゃないからね。もう、純情過ぎて可愛い過ぎるんだから。」
「お節介ババア。」
ソロがボソッとつぶやく。
「あらなにかしら?貧弱狐の分際で。あんたにはお節介やきたくても、枯れっ枯れだから無理だわね。」
「ハン、枯れっ枯れの俺がいいって女の子もいるんだよ。」
「どこの茶飲み友達かしら?腰の曲がったお婆ちゃんだって、あんたみたいに鼻につく奴はお断りだと思うわ。」
「ハイハイ、ストップ。ウルホフが困っているだろう。僕達も出発するよ。今回はタブが手に入らなかったから、ホスーに乗るんだよね。タブより背も高いけど、ユウ乗れる?」
ホスーとは、見た目は馬とそっくりな動物だ。サラブレッドよりは小さめだけど、鞍や鐙やハミなんかはついてない。
裸馬に乗れるかと言われれば、乗れる気がしない。いや、鐙がついていても、無理なんじゃないだろうか?
どうやって乗ろうか考え込んでいるボクを見て、ドギーは笑ってボクの肩に手を置いた。
「無理っぽいね。いいよ、無理しないで。ソロ、ユウと一緒に頼むよ。じゃあ、騎乗。」
ソロに手伝ってもらったが、乗ることができない。キャシイがホスーを押さえ、ソロが手を組んでボクの足を持ち上げてくれるが、なかなかまたげない。
ジタバタしていると、一陣の風が下から持ち上げるように吹き、ボクの身体が宙に浮いた。そのままストンと、ホスーの上に落ちた。
「あれ?…シルフィ?」
『申し訳ありません。お節介をやきました。』
「ありがとう、助かったよ。」
本当、ボク一人じゃなんにもできない。
かなり情けないよな…。
落ち込みそうになったけど、前に花梨が言った言葉を思い出した。
“だって、それがユウだもん。”
あれは小学生のとき、ボクの家族と花梨の家族と旅行に行ったときのことだったかな…。
花梨の父親の趣味で、かなり本格的なアウトドアキャンプをしたんだよね。
花梨は、火のないとこから原始人みたいに火をつけてみたり、生け簀でもない普通の川でジャンジャン魚を釣ったりと、ボクにできないことを、真夏にも関わらず涼しい顔でこなしていった。
ボクは、花梨のできることが一つもできなくて、最終的には川で溺れかけてさ、花梨に助けてもらったんだ。
あのときも、情けなくて恥ずかしくて、かなり落ち込んでいたら、さらっと花梨が言ったんだ。
「だって、それがユウだもん。適材適所よ。ユウは知識で、実行するのはあたし。それにほら、あたしって虫ダメじゃん。ユウがいなきゃ、釣りだってできないよ。餌つけれないんだから。火のつけ方だって、ユウが教えてくれたでしょ。」
「でも花梨ちゃん、ボクはつけれなかったじゃないか。魚も釣れなかったし。」
「だから、適材適所!ユウにはあたしがいるから大丈夫。ユウにできないことはあたしができるし、あたしにできないことは…、ユウに教えてもらってあたしができるようになるから大丈夫なの!」
今考えてみると、ダメダメなボクは相変わらずダメダメで、花梨が凄すぎたんじゃないだろうか?
でも、あのときボクは、気持ちが凄く楽になったんだ。
ボクはボクのままでいいって。
それに、少しだけど花梨の役にもたてたしね。
釣り針に虫がつけれなくてキャーキャー言っていた花梨、可愛かったよな…。
「ユウ、ホスーはかなり乗り心地がいいけど、寝ていたらさすがに落ちるぞ。」
ボクがずっと黙っていたからか、後ろに乗っていたソロに声をかけられた。
「ああ、寝てたわけじゃないんだよ。ちょっと考え事してただけ。」
「寝るときは言えよ。支えてやるから。」
完璧子供扱いだな…。
しょうがないけどさ。
あまり考えても、落ち込むだけだからやめよう。
「ねぇ、大地の精霊がいるとこと、そんなに遠くないんだよね?」
「ああ、そのはずだな。山がメインの俺らの国と違って、ザイール国は平地が多い。まあ、ザイール国とその隣国のアインジャ国の国境には高い山があるけどな。こっち側は平地ばかりで、一番大きい森がすぐそこにあるんだ。大地の精霊は、その森の真ん中らへんにいるみたいだな。」
「じゃあ、ボク達のほうが、ライカ達よりも早く終わるかな?」
「たぶんな。ウィンディ達がいるから、話しは早いだろうし、よっぽどのことがなければ。だから、集合はザイール国の都にしてるしな。」
「こっちでは、妖魔とかはでてないのかな?」
「とりあえず、オワム村で集めた情報の中にはなかったな。」
ドギーが話しに入る。
道幅が広いから、二頭横並びになっても、まだ荷車が通れるくらい余裕がある。
「全くいないわけじゃないだろうが、うちの国みたいにウジャウジャ発生してはいないみたいだな。」
「じゃあ、黒いローブの者が狙ってるのは、ライオネル国だけなのかな?」
「もしかしたら、手始めに!ってことかもしれないわよ。うちの国を足掛かりにして、世界征服とか?」
キャシイも横に並んでくる。
「なんでライオネル国なんだろう?」
もし、ここが地球くらい大きい世界なら、きっと国は沢山あるんだろう。その中でライオネル国が狙われる理由は?
というか、いったいどれくらいの国があるんだ?国交がある国ばかりじゃないだろうから、もしかしたら誰も把握していないかもしれないな。
「あのさ、こっちの世界には、どのくらいの国があるの?百とか千とか?」
「えっ?そんなにあるわけないじゃないか。七つだよ。」
ウルホフが呆れたように答える。「たった七つ?」
ライオネル国だって、そんなに広いわけじゃない。ライオネル国の外れのガオパオ村から都に旅をし、さらに隣国までこれた。
車も新幹線も飛行機も使わずに。
それくらいの広さということだ。
「ライオネル国は小さいほう?」
「バッカなこと言わないでよ。大国よ。」
「大国は、この大陸にあるライオネルとザイール、アインジャ国の三国。あとの四国は、ヤパネ、アメリア、ロジャ、チャンだな。この四国は、島国で、あまり国交はないな。」
もしかして、全部合わせても日本くらいの大きさしかないんじゃないか?!
「未開の地とかあったりして…。」
「ないない。だって、果ては奈落の滝だもん。」
話しを聞くと、世界の真ん中に三大国のある大陸があり、その四方に島国が点在し、その先は全部滝になっていて、落ちたら帰ってこれないらしい。
うーん、地球が丸いって信じられていなかったとき、そんな説もあったみたいだな。
「この世界は球体ではないの?」
「えっ?ユウのいたとこは球体なのか?上側だけで暮らしているのか?」
「いや、重力があるから。上も横も下も、全部住めるよ。」
「重力か、凄い魔法だな。」
「魔法じゃなくて…。」
重力の説明をしても、きっと理解してもらえないだろう。
「まあ、いいや。多分、元から違う世界なんだろうね。じゃあ、七つの国の中で、ライオネル国だけ特別なことってあるかな?」
みな首を傾げる。
「そうだな、人間が流れてくることがあまりないな。伝説の勇者にいたのかもしれないが、生きた人間が現れたのはユウが初めてだ。」
「そうね。他の国は、少ないとはいえ、話しには聞くものね。」
「まあ、四国はわからないけど。」
黒いローブの者は人間が苦手?
まさかね。
「まあ、それも大地の精霊に会ったらわかるかもしれないよ。ほら、森が見えた。」
ドギーが指差す先に、こんもりとした森が見えてきた。
砂漠からそんなに遠くないところに、こんなに豊かな森があるなんて不思議だ。なんか、空気の色も違って見える。
いや、なんか実際違うぞ?
薄紫にモヤってて、中心ほど濃くなっている。
『あれは、大地の精霊の結界ですわ。普通ならあそこにはたどり着けません。私、話しをつけてまいりますわね。』
ボクの目がおかしくなったのかと思った。目をごしごしこすっていると、ウィンディが現れて、またすぐに消えてしまった。
『ユウ殿には、精霊の結界は効かないようですね。』
「精霊の結界?そんなのあるの?」
「あの紫のモヤ、見えない?」
キャシイは、目を細めてボクの指差した先を見たが、肩をすくめた。
「全く見えないわ。」
これが見えるのは、精霊と契約(?)したからなんだろうか?
そんなに待つことなく、ウィンディは戻ってきた。
『ユウ様、ご案内できますのでどうぞいらしてください。あと、少しだけお急ぎを。もうあまり時間が残されていないようですから。』
時間?
それは大地の精霊ノーマの時間だということを理解する。ウィンディは説明することなく、ボク達の前に飛んで案内し始めた。
森はうっそうとしていたが、空気は澄み、木々の間からもれる日の光が心地よかった。ここだけ、時間の流れがゆっくりしているような、そんなのどかな空気が漂っている。
大地の精霊の結界の深部、より紫色のモヤが濃い部分に足を踏み入れたとき、 一瞬ピリッと静電気のようなものが走った。
「イタッ!」
「どうした?」
ソロがホスーをとめて聞いた。
「なんでもない、静電気みたい。」
『これがオイラ達の結界さ。普通なら辿り着かないし、万が一辿り着いたとしても、弾き飛ばされちまう。今は、ノーマのじっちゃんがオイラ達を招いてくれてるから入れるけどな。』
目の前にサラスがフワリと浮かんだ。
どうだ、凄いだろ!と言わんばかりに、顎を突き上げ、自分のことのように誇らしげに言う。
「凄いね。みんなできるの?」
『あったりまえじゃん。…まあ、オイラはこんなに広い範囲はまだ無理だけどな。』
「すぐできるようになるさ。君は正直だね。」
『精霊は、嘘はつけないんだぞ。』
「そうなの?」
『あえて言わないことはありますけれどね。』
シルフィもでてきた。
いつもは、あまりでてこない二人が姿を見せるのは、ここが精霊の結界の中だからだろうか?二人ともよりくっきり見える。
『ほら、あれがノーマのじっちゃんが休んでる木だよ!』
正面に大きな木があった。
ハワイのオアフ島にあるモンキーポッドみたいに、横に広く枝をのばしている木が、サワサワと風に揺れていた。
思わず、この~木なんの木…と歌いたくなる。
ホスーから下りて、木に近づいた。
「立派な木…。」
みな、神妙な面持ちで木を見上げた。 自然と口数が少なくなり、穏やかな空気が流れる。
なんだろう?
この木を見たのは初めてなのに、妙に懐かしい、切ないような気分にすらなる。
『久しいのう、人間の子よ。』
木が喋った!
いや、ほぼ木と同化したノーマが喋ったのだ。
「あの、初めまして。青木ユウです。」
『ユウ…?そうかあ、彼が生きているわけはないなあ。そうだ、そうだ。人間の寿命は、瞬きをするくらい短いものだった。』
彼?彼とは誰のことだろう?
人間と言っていたけど…。
「あの…、彼って?」
『我が友の一人だ。ユウととてもよく似たオーラを持つ、心優しい人間だった。』
懐かしむような、少しだけ寂しさが混じった口調だった。
「ライオネル国のドギーと申します。博識でご高名なノーマ様にに伺いたいことがございます。」
『ああ、なんでも答えよう。』
「ありがとうございます。我が国建国の際の出来事についてなのですが、我が国の五人の勇者と悪しき者との戦いについて、ご存知でしょうか?」
『むろん。私も戦いに参戦いたしたのでな。』
「では、五人の獸人以外の存在は?悪しき者と戦ったのは、五人だけだったんでしょうか?」
『いや、他に二人の人間がおった。我が友もその一人だ。』
やっぱり!!
「どうやって勝ったんですか?それと人間達はどうなりましたか?」
ボクは、食いつくように尋ねた。
『勝った…か。確かに、悪しき者はこの世界から消えたのだから、勝ったと言えるのかもしれないな。』
ノーマは、ポツリポツリと話し出した。
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