第16話


『ユウ様。』


「ウィンディ、どうしたの?」

 ウィンディがホワッと正面に現れた。


『さきほどのお話しなんですが…。』


「さっきの話し?」


『何者かが、妖魔を操っているという話しですわ。』


「ああ、うん。」


『あの者じゃないかと…。』


「知ってるの!?」

 ボクは、荷物を片付ける手を止め、ウィンディを見上げた。


『確証はありませんし、顔を見たわけではありませんので、もし違っていたら申し訳ないのですが…。』


「いいよ、誰なの?」


『私が檻に閉じ込められていたとき覗きに来た、黒いローブの者ですわ。』


「あっ!そういえば、そんなこと言ってたね。」

 そうだ、ウィンディから聞いていたのに、すっかり忘れていた。


『名前も素性もわかりませんが、あの者のオーラなら見ればわかります。あと、だいたいですが、いる方角もわかります。姿隠しの魔法を使っているようなので、漠然とした方角になりますが。そうですわね、北の方角…だと。それに、マンゴー村の炎の杖を盗んだのも、黒ずくめの旅人と言っていましたわね。関係あるのではないでしょうか?』

 

 本当だ。

 マンゴー村での話しを聞いたとき、もっと考えなきゃいけなかった。妖魔が獸人に化けれないなら、だれが炎の杖を盗んだのか、そいつと妖魔のつながりはなんなのか?

 とにかく、この情報はみんなに知らせたほうがいい。そう思ったボクは、ウルホフの部屋と続いている扉をノックした。


「ウルホフ、いいかな?」

「ああ、どうぞ。」

 扉を開けると、ウルホフは上半身裸で、剣の素振りをしていた。

「どうした?」

 ボクは、ウィンディの見た者のことを話した。もしかしたら、マンゴー村の炎の杖を盗んだ旅人とも、関係があるかもしれないということも。

 

 剣をベッドに置いて座り、黙って話しを聞いていたウルホフは、聞き終わると、上着を着て立ち上がった。

「絶対そいつだ。王様に話したほうがいいと思う。」

 揃って部屋を出ようとした時、部屋がノックされて、巻いた角を持つヤコブが部屋の前に立っていた。

「五人の勇者に関する文献がご用意できましたので、国王がお呼びでございます。」

「もうですか?早いですね。」

「王宮図書館には、莫大な量の書物がございますが、全て史書長が管理分類しておりますので。」

「あの、ウルホフも一緒でもいいですか?ボクは、こっちの言語が読めないんです。」


 どんな仕組みになっているかはわからないけど、お互いの母国語を話しているにも関わらず、ボク達は会話が成立している。お互いに、自国語で聞こえているんだ。けれど、視覚は変換されないから、読み書きは全く無理だった。


「わかりました。確認いたしますので、とりあえずご一緒にいらしてください。」

 さきほどラインバル王がいた部屋は王の執務室らしく、また同じ部屋の前まで案内された。

「しばらくお待ち下さい。」

 ヤコブはドアをノックしてから中に入り、一分も待たずに戻ってきた。


「どうぞ、お二人でお入りください。」

 ボク達が中に入ると、さっきお茶したテーブルに黄ばんだ数冊の本がのっており、ラインバル王がパラパラと目を通していた。

「ごめんね、ゆっくり休めてないのに呼び出して。早いほうがいいと思ったから。」

「とんでもございません。」

「ユウ君は読めないんだってね。ウルホフ君、そんなにないから、ちょっと読んであげて。僕も少し見たんだけど、確かに五人ではなかったようだね。文章としては五人と書いてあるけど、所々それ以外の存在を感じるから。」

「では、失礼いたします。」

 ウルホフは椅子に座り、一語一句間違わないように文献を読み始めた。それはなんだか歴史書というよりは、冒険物語のようだった。



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