第14話

「 予定より遅れちゃったけど、なんとかついたね。」

「凄いね…王都。」

 ラビーとプーシャは、キョロキョロと回りを見てはため息をついていた。

 

 マンゴー村を出たのは三日前、途中まで馬車でベアスタが送ってくれた。なるべく小さい馬車で、通れる道ギリギリ行けるとこまで送ってくれるとのことで、ついてくるとごねるベアルをなだめての出発となった。

 最後の山越えは歩きじゃないと無理だったから、ベアスタと再開の約束をして、五人と精霊二人で山入りした。山越えは特に問題なく、主にボクのこと、ボクの世界について話しながら歩いた。

 

 電気、ガス、水道、スマホや電話。当たり前のようにあるけど、どんな物でどうやって作られているのか、全くわからない。車や電車、飛行機なんかも同様だ。

 ボクにしたら、怪我を治せたり、氷の剣を飛ばしたりできるこっちの獸人達のほうが、よっぽど不思議な存在なんだけど、彼らにしたらボクの話しのほうが荒唐無稽だったみたいだ。

 

 一泊野宿して、朝早くには歩きだした。昼過ぎに王都ハネルの北門にたどり着き、今、おのぼりさんのように、都を歩いているというわけだ。

 

 王都はドーナツのような形をしていて、一番外側を高い塀に囲われ、東西南北の四つの門のみから行き来できるようになっている。門の中は店や住居が密集しており、いわゆる平民達の生活の場所になっている。その真ん中に、またもや高い塀がある。こちらは二つの門から出入りできるらしいが、平民が使うのは主に裏門で、表門は王族や貴族、それに準ずる者が使用するらしい。

 その塀の中が王宮というわけだ。

 

 サイラスとライカは何度か都にきたことがあるようだけど、ラビーとプーシャは村を出たのも初めてだったからか、あっちを見て、こっちを見て、何度迷子になりそうになったことか。プーシャなどは、目に入る店の食べ物を端から食べまくっている。

「とにかくさ、王宮に申請に行こうよ!しばらくこっちにいなきゃなんだから、いくらだって見て回れるだろ。」

 ライカが無理やりプーシャを店からひっぺがし、ズルズル引きずってくる。

「やだー、あれも食べるー!」

「あ、と、で!」

 ラビーがプーシャを担ぎ上げ、ボク達は王都の真ん中にある王宮へ早足で歩いた。

 

 王宮と言っても、きらびやかな宮殿が建っているわけではなく、王族の住む皇宮を中心に、その周りに皇宮に使える人達の住まいがあり、さらに周りに役所のような施設が部署ごとに立ち並んでいるらしい。ボク達は、まず裏門に向かった。本当はライカのみ、表門を使用することが可能らしいけど、ライカはボク達と一緒に申請するんだと、あえて裏門使用した。

 

 戸籍の申請をしにきたことを門兵に告げると、開門され第一宮舎に行くように指示された。戸籍申請やそれに伴う適性検査を行う建物になるらしい。

 色々な村から成人した若者達がきているからか、建物の前には列ができていた。

 

 一時間ほど並んだだろうか?建物の中は、あちらの世界でいう区役所のようになっていて、一列に並んだ机に数十人の役人が座り、若者達に対応していた。

「ここで、村長とオババからもらった手紙を出すんだよ。適性検査受ける前に、大まかに属性ごとにわけられるの。」

「ぼくは黄色系、プーシャは緑色系、ウルホフとライカは赤色系になるのかな?」

「ユウは?無色って、何系なの?」

 みな、首をかしげる。

「まあ、それは偉い人が考えるだろ。ほら、ラビー、あそこ空いたよ。あ、プーシャも。」

 ラビーとプーシャが、空いた席に向かう。次にウルホフが行き、ボクとライカは隣りの席になった。「よろしくお願いします。」

 手紙を差し出すと、役人はボクを見ることなく手紙を開いた。しばらく読んでいたが、いきなりガバッと顔を上げ、手紙とボクを交互に見て、何か言いかける。

「ちょ…ちょっと…。」

 役人は、手紙を握りしめ、大きく音をたてて席を立った。

 

 その様子を、隣りのライカはニヤニヤ見ていた。

「何かまずいのかな?」

 思わず不安になる。

「まあ、人間だからじゃない?ほら、生きた人間が流れつくの珍しいから。」

「人間!?」

 ライカの前にいた役人が、驚いたようにボクを見る。なんていうか、あまりにマジマジと見られるものだから、凄く居心地が悪い。視線を合わせるのもなんだし、ついうつむいてしまう。

 

 しばらくすると、さっきの役人が少し年配の役人を連れて戻ってきた。長い髭と巻いた角を持つこの役人は、かなり偉い人なのか、彼が通るとみなお辞儀をしていた。

「あなたは人間ということですけれども、間違いはないでしょうか?」

「はあ…、まあそうです。」

「間違いないよ…です。いきなり、あたし…私達の馬車の前に現れたんだから…です。空気の中から湧いてきた感じ…です。」

「あなたは?」

「あたし…私は、ガオパオ村出身、タイホップの娘、ライカ…です。」

「親衛隊隊長の?」

「親衛隊隊長のタイホップは父ちゃん…じゃなくて、父です。」

 一生懸命丁寧に話そうとしているらしく、シドロモドロだし語尾が怪しい。

「そうですか、隊長のご息女が証人なら、間違いはないでしょう。ちょっと、別室で話しを聞かせていただけますか?ライカさんも一緒にお願いいたします。君、ライカさんの手続きは終わっていますか?」

 ライカの目の前にいた役人は、書類に目を通し、はんこを押した。

「あとは、ここにサインと、この承認札を受け取ってもらえば終わりです。」

 ライカは言われた場所にサインを書き、赤い数字の書いてある札を受け取った。

 

 立ち上がり、役人の後について行こうとすると、心配そうにボク達を見ていたウルホフと目があった。

「ちょっと、友人に話してきていいですか?」

「ご友人?」

「はい、ガオパオ村から一緒にここまで来た友人が、ライカの他に三人いるんです。」

「お名前は?」

「ウルサクの息子ウルホフ、ラズールの息子ラビー、ピグルの娘プーシャです。あたし…私、ちょっと、話してくる…です。」

 ライカは、相変わらず怪しい話し方のまま、ウルホフのところへ走って行った。

「彼らにも話しを聞かせていただきたいので、後程いらしていただきましょう。青木ユウ君とおっしゃいましたよね?人間が生きたままこの国の地を踏むということは、かなり珍しいことでございます。前例はないに等しいかと。」

「そう…ですか。」


 前例はない…そうだとは思っていたが、王都の役人に直に言われると、かなり凹む。

「お待たせ…でした。」

 ライカが戻ってきた。

「では、まいりましょう。」

 

 役人の後について建物を出ると、外には馬車が用意されていた。今まで、荷馬車の荷台には何回か乗ったが、人が乗る馬車は初めてだった。

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