第8話

「手紙、書いてね。」

「ミイルに会ったら、たまには帰省しろって伝えてくれ。」

「無事で!」

 沢山の人が集まり、口々に旅の無事を願ってくれた。

 

 毛布がわりになる薄手のマントを羽織り、衣服の裏側には金貨を数枚縫い付けてある。いつもは裸足なんだけど、さすがに長旅に備えて革の編み上げの靴を履いた。腰には水袋を下げ、食料の入ったリュックを背負う。食料のほとんどが、保存のきく干し肉だが、今日の分はサイカがお弁当を作ってくれた。

 もちろん、みんなからもらった頭飾りや腰飾り、丸薬の入った袋、ウィンディの住みかになっているペンダントも身につけている。「本当に、お世話になりました。」

 ボクは深々と頭を下げる。

「ユウ、おまえのこちらでの故郷はこのガオパオ村だ。わしの家は、いつでもおまえのために扉を開けておくからな。」

 ザイホップは、そんなボクの肩をがっしりと掴み、力強く言った。

「はい…。」

 思わず、涙がでそうになる。

「男が泣くな!笑って行け!」

 ザイホップが、ボクの背中をバシンと叩く。

「はい!行ってきます!」

 

 それぞれが別れを惜しみ、再会を約束した。

 

 ボクとライカは、他のみんなと約束した村外れに向かった。後ろから、みなゾロゾロとついてくる。

 すでにウルホフ、プーシャ、ラビーは村外れで待っていた。


「おまたせー!」

 ライカがブンブンと手を振る。 「それじゃ行くか!」

 ウルホフの声を合図に、ボクらは改めて、見送りにでてきてくれた人達に頭を下げた。


「行ってきます!」

 

 頭を上げ、ライカを先頭に、プーシャ、ボク、ラビー、ウルホフと歩きだそうとしたとき、村のほうから誰か叫びながら走ってきた。

 ハリーだった。

「…待って、待ってー!」

 ハリーは、なんとかボク達に追い付くと、肩で息をしつつ、よろけながらも、ボクに短剣を差し出した。

「こ…これ、なんとか間に合ったよ。気を付けて!」

「ありがとう、ハリー。」

 ハリーは、地面にばったりと倒れ大の字になった。そのまま、ヒラヒラと手を振る。

 ボクは、腰紐に短剣をさし、再度頭を下げた。


「ほら、ユウ!行くよ。」

「うん!」

 天気は快晴、出発するには最適だ。


 たった一ヶ月、でも濃度の濃い一ヶ月だった。もとの世界の一年分、いや十年分くらいに匹敵する。それくらい、後ろ髪を引かれる出発だった。

 あっちでは、ぼんやりと学校へ行って、特に友達も作らず、本ばかり読んでいた。運動会も、文化祭も、主役というよりはいつも傍観者で、当たり障りなく過ごしてきた。花梨を好きな男子から、たまに嫌がらせをされることもあったけど、イジメに発展することはなく(花梨が倍返ししていたから)、平々凡々な日常だったと思う。

 本当言うと、そんなに元の世界に執着はない。母親には悪いかなとは思うけど、出来のいい兄貴がいるし…。

 

 ただ一つ、ボクのたった一つの執着。

 

 花梨。

 

 彼女がいなければ、ボクは積極的にこっちで生活する道を捜していたかもしれない。もう一度、彼女に会いたい。その思いが、日に日に大きくなっていた。

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