第7話
ユラユラ、ユラユラ…。
心地よい振動。
ボクは、ウルホフの背中にオンブされていた。
「…、昔さ、あんたに助けてもらったじゃん。」
「そんなこともあったかな。」
「ウルホフに敵わないのは、あの時からわかってたんだ。」
ライカとウルホフが、静かに会話していた。ボクは、邪魔しないよう寝たふりをした。
「ウルホフ、手合わせのとき、本気で打ち込んできてないよな?あたしが怪我するからか?」
「そうじゃないさ。…、確かに力だけなら、ライカよりはあるかもしれない。…でも、剣技ってそれだけじゃないだろう?おまえは、タイホップさん直伝の滑らかな剣技があるし、天性のしなやかな体が、さらにその技に輝きを与えている。」
ウルホフは、ゆっくり言葉を選びつつ喋る。ライカを傷つけないよう、細心の注意を払っているようだ。
「まあ、あたしとあんたは、タイプは違うよね。あんたは直線的ってのかな?打ち負かす感じかな。あたしは曲線的。受け流す剣だから。」
ウルホフは、ゆっくりと頷いた。
「俺は、おまえの技を盗みたかったんだよ。だから、力は封印して、なるべく長くおまえと打ち合いたかったんだ。ただ、体の固さがどうにも…な。おまえみたいに、優雅に動けない。」
「アハハ…、確かに!あんたの体の固さはおりがみつきだね。」
ライカは、可笑しそうに笑う。ウルホフもつられて笑った。
ああ、良かった。いつもの二人だ。
ボクは、心底安堵した。
「ところで、俺の背中で楽してるやつ、そろそろ自分で歩いたらどうだ?」
ウルホフが、クックッと笑いながら、ボクの太ももをつねった。
「痛い、痛いよ。あれ、ばれてた?」
ボクは、ウルホフの背中から下りた。
「ところで、ボクたちはあの水に飛び込んだ後、いったいどこにでたの?」
「あ、そうそう!すっごいんだよ!あの大岩の窪地、あたしとウルホフが剣の手合わせしようとしてたとこ、あそこが湖に戻ってたんだ!」
「戻ってたって、前は湖だったの?」
「そうだよ。うちの村から海までは遠いから、子供のときはよくここに泳ぎにきてたんだ。」
「そうそう。プーシャは魚を手づかみで捕まえたりしてな。生で食べようとして、大人に止められてたっけ。」
二人はケラケラ笑う。
「その湖の真ん中、ちょうど大岩の上辺りにでたんだ。」
「いつから水がなくなったの?」
二人共首をかしげる。
「最近きてなかったからな。このところ、乾季でもないのに雨が降らないから、干上がったんだ…くらいにしか思ってなかった。」
「ウィンディが解放されたから、水が戻ったってことかな?」
「そうかもしれないな。」
「すっごい、綺麗な湖に戻ってたよ。昔から透明感半端なかったけど。」
「ウィンディも、凄く綺麗な女の子だったよ。その湖、ウィンディがボクについてきてしまって、大丈夫なのかな?また枯れないかな?」
そんなに綺麗な湖なら、枯らしてしまうのはもったいない。
『大丈夫ですよ。私の一部は置いてきましたし。この世界の至るところに水はありますから、私はどこにいても、こことつながれます。』
「大丈夫だって。」
ウィンディの声を二人に伝える。
「あたしもウィンディに会ってみたい!お話ししたい!」
ライカは、ボクのペンダントに語りかけた。
『ウフフ、いずれ、時がきましたら。』
「時がきたら、だって。」
「えーっ、ズルイ!ユウばっかズルイ。」
ライカはバタバタと足をならす。
子供か!
村に戻ると、ボク達関係なくみんな大盛り上がりだった。たぶん、いなかったのも気づいていないかもしれない。
「ユウ、こんなとこにいた!捜してたんだ。ウルホフにライカも。」
鍛冶屋のハリーが、ハリネズミのようにツンツンした髪の毛を振り乱しながら、走ってやってきた。
「君にプレゼントがあるんだよ。店にきてくれ。ウルホフとライカも、頼まれてた剣、メンテナンス終わったから。」
ボクらは、ゾロゾロとハリーについていった。ハリーは、小さな鍛冶工房を営んでおり、剣や槍はもちろん、包丁や鍋など村人が使う鉄製品は、全て彼の手によるものだった。彼の作る鉄製品は、火の精霊の加護が付与されていた。また、新品の制作だけじゃなく、打ち直しや修理も行っているから、予約が三年先まで埋まっているという話しだ。
「ごめんね、掃除してる時間がないもんだから、ごちゃごちゃしてるけど。ここ、ここに座って待ってて。」
店に入ると、ハリーは荷物をドサッと下ろして椅子を引っ張りだした。
「なんだろね?ハリーのプレゼントって。」
ライカは、店の中にある物を勝手にいじりながら歩き回る。
しばらくすると、ハリーは剣を持って戻ってきた、
「ウルホフ、君の大剣。両刃になってるから、もちかえる必要ないからね。ライカのはサーベル。強度をあげといたよ。そして、ユウ。これが君へのプレゼントだ。」
ハリーはショートソードを取り出した。
「王都までの旅は危険だからな。君のためにうった剣じゃなくて悪いんだけど、護身用に必要だろ。」
「ユウ、持ってみろよ。」
ハリーからショートソードを受け取ったが、初めて持つ剣は思ったよりも重く、よろけてしまった。
「アハハ、両手持ちでよろけてちゃダメでしょ。」
「実戦的じゃないな。持って歩くだけでへばりそうだな。」
ボクは、ハリーにショートソードを返した。
「ハリー、ありがとう。でも、ボクには無理みたいだ。」
「ユウ、武器を持たずに旅をするのは、かなり無謀だよ。王都までの道には、獣も盗賊も、もしかしたら妖魔もでるかもしれない。いくらウルホフ達と一緒でも、せめて自分の身を守れないと。」
「ハリーの言うことも一理あるな。はっきり言って、戦力になるのはライカと俺くらいだ。ラビーもプーシャも、自分の身を守れる程度だ。」
「確かにね。ほら、これならユウも持てるんじゃない?」
店をウロウロしていたライカが、短剣を投げてよこした。
「ウワッ!」
ボクの代わりにウルホフが受けとる。
「うん、これなら。持ち手も細いし、ユウの手にも合うだろう。」
ボクは短剣を握ってみる。確かにしっくりくる。
「うん、これなら。」
「そんなんでいいのか?じゃあ、それを持っていけばいい。でも明日、明日の出発までに少し改良させてくれ。絶対間に合うようにするから。よし、じゃあさっそく!」
ハリーは腕まくりをして、短剣を持って奥の工房へ引っ込んでしまった。
「いいのかな?」
「いいんじゃないか?ハリーは都で腕を磨いた鍛冶士だ。彼のは業物だよ。都でだって、彼のうつ剣より上物は、なかなかお目にかかれないくらいさ。いい貰い物したな。」
本当に、ここの村の獸人は、みな人が良すぎる。まだ会って一ヶ月しかたっていないのに、みな本当によくしてくれる。この村で生まれ育ったんじゃないか?って思ってしまうくらい。
ハリーの店を出て、四つ角まで並んで歩く。
「じゃあ、俺こっちだから。」
「ああ、また明日。」
「明日!」
明日、ボクらは五人で王都へ向かう。なにごともなければ、一週間くらいでつくらしい。一週間歩き通し…って、想像できない。ボクは、ライカ達についていくことができるんだろうか?
かなり不安になりつつも、ボクはまだ普通の旅行くらいに思っていた。
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