第4話 中間テスト
中間テストの時期に入った。日本史のテストの時間、まだ習っていない問題が出た。明らかにその時代にまで授業が進んでいなかった。テストの時間の担当は、その日本史の先生だった。
テスト中、チトセさんが手を上げた。
「先生、この問題、勉強してません」
先生は言った。
「そこまで授業は進まなかったが、他のクラスはやっている」
するとチトセさんは、「それはずるいです」と言うと、先生の目の色が変わった。
「やってないんだからできない。そういうこと」
「だったら不公平ですから、採点にはいれないでください」
「何だと!?」
先生はチトセさんの所につかつかと歩いて行くと、その頬を張った。
「口ごたえするな! やってないんだから仕方ないだろ」
その状況にクラス中が静まり返る。チトセさんも頬を抑えて黙った。
僕は、先生の言い方がおかしい気がした。僕は手を上げると、
「先生、今のは酷いんじゃないですか。謝るのは先生だと思います」
言うと先生は僕の所にやって来て、上から見下ろすと、僕の頬を引っ叩いた。
テストの合間の休憩時間、僕は友達に励まされた。
「あいつひでぇよな。まじいかれてるぜ」
こうやって、僕は声をかけて貰えているのに、チトセさんは誰からも声をかけて貰えていなかった。
ちらりと見ると、チトセさんと目が合った。チトセさんは口をもごもごしながら首を
放課後、担任の先生に、僕とチトセさんだけが教室に残された。
「二人とも、キシ先生に怒られたそうじゃないか」
僕は先生に言った。
「だって……」
だが最後まで言わせては貰えなかった。
「言い訳はよしなさい。怒られたんだから、確りと反省しなさい。今日は二人には罰として、教室の掃除をして貰います」
僕はチトセさんも援護してくれるだろうと思ってちらりと見たけれど、チトセさんは口を結んだまま開こうとしなかった。
そしてまた、二人だけの罰掃除。テスト期間中は部活もないので、学校の中は静かだった。
そんな中でチトセさんはポツリと言った。
「子供と大人は対等でないの。昔の人は、子供の時代は人間になる前なんだって思ってたそうだよ。だから悪いのはみんな子供。対等に口を利いてはいけないの」
「そんなの変だよ」
僕がそう言うと、チトセさんは僕の顔をまじまじと見た。
「みんな子供が悪いの。だって動物番組で、子供のガゼルがライオンに食べられても、ライオンが悪いなんて誰も言わないでしょ」
僕はチトセさんが何を言っているのかわからず首を
「みんな自然は厳しいって言うよ。力がないのが罪なんだ。生まれた時から全部に打ち勝つ強さを持っていないのがいけないんだ。運がなければ死ぬんだよ」
僕は、唖然として、チトセさんに何も返す事が出来なかった。
家に帰って考えた。チトセさんってなんであんな性格なんだろう、何であんな事を言うんだろう。訳がわからないと。だけれどその一言一言が心に刺さると言うか、とにかく何もかもが不可思議だった。
その日から、僕はチトセさんを、気持ち悪い、臭くて嫌な人間として、見れなくなった。
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