星が落ちてくる前に
大臣
★
3日後、世界は滅ぶ——————————
今からちょっと先の未来、人類の、宇宙に向く技術は進歩し、今よりかなり多くの天体への調査が行われるようになったり、宇宙エレベーターによって、宇宙が身近になったりと、たくさんの恩恵をもたらした。
しかし、進歩した技術は、人類に、向き合いたくない真実を告げた。
今、これが書かれている時からみて、前日の早朝、宇宙エレベーター管理局の、宇宙望遠鏡担当班が、あるものを観測した。
それは、地球を滅ぼすレベルのサイズを持つ小惑星だった。
また、その軌道が、地球にぶつかることが、計算によってわかった。
何故そこまでになるまでわからなかったのか知るものはいない。問題は、あと四日で、いかにして生き残るか、だ。
しかし、わずか四日では、避難する手段なんて、用意できるわけがなかった。
そんな真実を、告げるべきか?
そんなわけがない。
だから、政府は、このことを隠し、ただの彗星として発表。4日後、もっとも接近するとだけ、伝えた。
なぜ、僕がこれを知っているのか? それは僕の父が、当該小惑星を発見した職員だったからだ。
父は、この事実を伝えるかどうか悩んだ。事実、父の同僚は、家族にそれを伝えなかった
でも、父は伝えた。後悔ないように、生きてくれ、と言って。
後悔がないようにと言われたって、どうすればいいかなんて、わからない。でも、そう言うしかない事も、今はわかる。
「ほら、 早く!」
そう言って、僕の前を行く幼馴染である彼女に、僕は何も言えない。
☆
後悔のないように生きるのは、難しい。まして、3日後に世界が滅ぶなら。
私の母が勤める、宇宙エレベーター管理局宇宙望遠鏡班は、恐ろしい物を見つけた。
世界を滅ぼす悪魔を。
母は最後まで、伝えるか悩んだようで、1人しかいない母の同僚は、このことを伝えていないようらしい。
でも、母はそれを伝えた。
「後悔なく生きなさい」という言葉と共に。
だから、私は今、後悔なく生きるために、
「そんなに急いでどうするんだよ」
いま、後ろで冷静を気取って肩をすくめる彼に、告白をしようとする。
★
走る彼女を追いかけて、僕は街にある高台にたどり着いた。
そこは、僕らの街にある、海に面した、有名な展望台で、西向きゆえに、日没が綺麗に見えると評判だ。
だからこの時間にも人はいるんだけど、みんなの興味は空にある。
あと10分ほどで、僕らを滅ぼす、美しい光が見えるはずだ。
「こんなところに来て、何がしたいんだ?」
僕は彼女に聞いた。
彼女はニコニコ笑ったまま、何も言わない。
会話がないのも、なんとなく変だから、僕は話した。忠告のように。
「こういうところには、大事な人と来るべきなんじゃないか? 幼馴染程度の付き合いしかない僕じゃなくて」
彼女には、僕より相応しい人がいるはずだ。
でも、彼女はニコニコしたまま黙っていた。
☆
全く、鈍いんだから。
こんな時に、こんな場所に連れて来るなんてそういうこと以外ないでしょ?
「私が好きな人はね、とっても鈍い人なの。親の仕事に影響されたのか、星が大好きで、いっくら誘っても、無愛想に反応を返してくれない。でも、誰よりも私のことを知っていて、誰よりも長く、私の近くにいた。」
彼は、やっと気付いたようだ。全く、自分の気持ちを自覚してから、かなり積極的に動いてきたつもりだけど、ここまで来るのに10年近くかかってしまった。
届いても、届かなくても、あと3日しか一緒にはいられない。
なら、せめて恋に生きたっていいでしょう?
彼は目を見開いてから、顔を伏せた。彼が顔を伏せるのは、照れ隠しだというのは、もう知っている。
顔を上げた彼は、何も言わずに笑って、私に歩み寄った。
「まあ、いいんじゃないか? お前が楽しいなら」
私の思いは、どうやら届いたようだ。
★
全く、バカバカしい。僕は君には相応しくないよ。
でも、昨日、後悔のない生き方って言葉を聞いた時、真っ先にこいつの顔が浮かんだ。
なんでだろうと思ったけど、いまならわかる。父の言葉に、どうやったら応えられるのかを
だから僕は、彼女の思い通りになるように、残る3日間を過ごすんだ。
僕の返答の後、彼女はあろうことか、抱きついて来た。柑橘系の香りがする。
僕は、彼女を抱きかえしながら、空を見た。
僕らを滅ぼす星の光も、今だけは、僕らを祝福していた。
星が落ちてくる前に 大臣 @Ministar
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