ヨゾラとひとつの空ゆけば

 突然ですが、文字数の体感って小説でまったく異なるんですね。面白かったり読みやすいものは十万字もあっという間に感じるし、冗長なものや複雑すぎるものは一万字でもお腹いっぱいになる。

「読んでもらえれば魅力が伝わる!」というご意見もうかがいますが、その際の「読んでもらえれば」が果たして開始何文字なのか?個人的に気になります。ちなみに私は開始一万字~二万字で何かしら変化がないとちょっと、しんどいかもです。


 閑話休題。帆多 丁さま著「ヨゾラとひとつの空ゆけば」が四十三冊目の書評となります。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054885031700


【あらすじ】

 この世界は魔法を使える人間と、そうじゃない人間と、目に見えたり見えなかったりする「不思議なもの」で溢れている。魔法は使えるけれど「不思議なもの」は見えない青年アルルはそんな世界を歩いていく。喋る猫の姿をした「不思議なもの」、ヨゾラとともに。


【魅力】

 いい。

 いやよくないですちゃんと補足します。何がいいかと言うと、読者に想像を委ねている部分があること、それが絶妙な塩梅であることです。この小説では世界観や用語を必ずしもすべて懇切丁寧に説明してくれるわけではありません。魔法使いにはマジコとフィジコがいるけれど、その違いは明言されない。でも本文を読んでいくと「こういう違いがあるのかな?」と読み取れる。その絶妙な「推察」がストレスなく楽しめます。どこか異国の発音に感じられる街や人の、聞きなじみのない名前も世界観を表現しているようで素敵です。


【改善点】

 改善点……改善点。半分くらい読み進めましたが、それらしい課題というものは見つけられません。異国情緒あふれる世界観、そこをいい意味で中途半端な知識で歩いていく。読者として楽しみながら読めますので情報量にも問題を感じません。文体も読みやすい。視点変化も気にならない。

 ということで、本編で気になったことだけ失礼します。本当はもっとこう、有意義な指摘をすべきなのですが。変に粗探しを無理矢理するのは本末転倒に思われましたので。

 ドゥトーと出会ったとき、ヨゾラのことを「お嬢ちゃん」と看破していましたが、ヨゾラがメス猫(の身体)であるとすぐに見切ったのでしょうか。人間ならまだしも猫の性別をすぐに判断できるとは思えなかったので。魔力だとか、口調だとかというなら話は別です。猫の姿である以上、たとえ一人称が「あたし」でも私はメスだとは思わず読んでいたせいかもしれませんが。


【その他】

 ファンタジー世界を旅していく物語、好きです。異世界の紀行文と言いましょうか。今作はもしかしたらちょっと違うかもしれませんが、必ずしもファンタジー=闘いではないと思います。ハイファンタジーにも表現できる世界はたくさんあるし、描けるものは無限大。ジャンルにおける流行りや人気はありますが、多様性も小説の魅力だと思います。

 最後になりましたが、このたびは書評させて頂きましてありがとうございました。魅惑の世界観でございました。

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