亡国のプリンツェッサ

 さて二回目。今回書評させて頂くのはこちら。鬼灯朔さま著「亡国のプリンツェッサ」です。

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054883452124

 超大作です。

 私が書評イベントをたてるにあたって、何人かの方の書評や感想を拝見していました。そのお一人です。亡国のプリンツェッサも実は序盤だけ読んでいて、お師匠とのシーンから構成の巧さを感じていたのですが。

 それはそれとして、誠心誠意書評、努めます。


【あらすじ】

 国のため、国を守る剣になる。師匠の代わりにその使命を引き継ごうとしている男・悠雅はしかし真実の力には到達できずにいた。周囲が着実に成長していくなか、役目をまっとうできず焦りと悔しさに支配されていく悠雅。そんな未完成な彼の環境は、童女の上官からの辞令で一変する。


【魅力】

 体言止めなどを駆使した緊張感溢れる戦闘描写、それによって描き出される熱血バトルドラマ。豊富な語彙もあいまって特に戦闘シーンに秀でた小説に映りました。「祈る」ことが鍵となるバトルで、その祈りをねじ斬っていくシーンが力押しな彼の性格がでていて好きです。

 さらに、アンナの登場によって場面に躍動感が生まれます。どこか自分のなかでうまくいかないジレンマを抱えて抑圧していた悠雅も、アンナに振り回されることで余計なことを考えず戦いに専念している。ふっきれたぶん動きに迷いがなくなったというか、戦闘以外の会話でも彼の人間らしい感情も引き出してくれるので非常に面白かったです。キャラクターが個性的、というのは性格にクセがあることではなくて、人間らしく感情が乗って動き回っていることなんだ、と読んでいて思いました。


【改善点】

 戦闘描写も燃え尽きるほどヒートな感じがしてとにかく熱い。そこに水を差すのは野暮というものです。かといって終始熱いと今度は読者がそのテンションを維持できず置いてきぼりになる。難しい塩梅ですよね。

 どちらかというと、戦闘よりは一緒にいるキャラクターが気になりました。悠雅が誰と一緒にいるかで彼の躍動感が変わってくる。これは欠点ではなくてうまく使える関係性かな?と思うのですが。

 私が読んでて一番楽しくてスカッとしたのはアンナと悠雅のコンビ。いいたいこと言えるしバトルはタガが外れてるし。そういった相性もいいですねこの二人。逆に、序章での友人たちといる彼は借りてきた猫というか、没個性というよりはただそこにいるだけ、という印象を受けました。別に戦闘をしているわけじゃないから燃える展開は不要なのですが、旧知の仲なのにどこか「美しすぎる」会話で、後からでてくるアンナの方が距離近いし楽しそうな会話を繰り広げる。それがなんか、彼の友達付き合いから考えると違和感かな?と。彼にとってはアンナよりも旧知の友人たちと砕けた会話をしているはずでは?と思いました。それとも、彼らとは一線を画した「戦友」として描くのなら、よそよそしい距離感を会話で引き出してあげるとアンナとの対比になるかと。


【その他】

 作者様の「アツイ小説が書きたい!」というコンセプトがあり、それが明確に伝わってきました。個人的には「ぶっ斬れろ」は決め台詞のような感覚で読んでいました。かっこいいですよね、叫ぶ主人公。必殺技とか叫ぶのを小説でやるの、なかなか白けたりするので使いどころが難しいんですけど、この小説ではアクセントになっていたなと感じました。

 最後に、この度は書評させて頂きありがとうございました。微力ではありますが何かしらの参考になればこれ以上の喜びはありません。

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