第46話 俺たちの日常
あの日から半年が過ぎ、俺たちはあの時と同じ場所で、穴の下に広がる宝石の街を見下ろしていた。
周囲には4機のドローンが飛び回り、撮影中を知らせる赤いランプが点灯している。
「みんな、準備はOK?」
ピンクのヒラヒラとした制服に身を包んだ宇堂めぐみが、軽く体をほぐしながらそう言葉にする。
繰り返しになるが、周囲を飛び回るドローンたちは撮影中だ。
そのことに気が付いたのか、ふと見上げた顔がこわばっていく。
「え? ウソ!? もう映っちゃってるの!?」
大きく目を開いためぐみさんが、ぎこちない笑みを浮かべて見せた。
「えー……、あー……、オホン。みんな元気ー? みんなのアイドル、めぐみんだよ!」
クルリとスカートを翻して、握りこぶしを頬に当てて、小首をかしげる。
どうやら可愛らしい決めポーズらしい。
(うわぁ、めぐみさんってば、強引に始めたぜ? 今日が初放送なのに、みんなのアイドル、って名乗りは無謀じゃね?)
(まぁ良いさ。彼女の好きにさせておこう)
「はいそこの男2人。後で楽屋裏に集合よ! 異世界で学んだ武術をその身に叩き込んであげようじゃない!!」
インカムでヒソヒソと話す俺たちの方を振り向いためぐみさんが、腰に手を当ててピシリと人差し指を掲げて見せた。
そんな彼女の隣では、愛用のドクロに乗った結花が、不安そうにめぐみさんの暴走とも言える言動を見詰めている。
「あのー、めぐみんさん。今回の趣旨を説明してないのですが、良いんですか?」
「おーっとそうだった! んー、まぁ、ザックリ言うと、私の第2の故郷、宝石の街 ミリアベア を案内しちゃいまーす。って感じ?」
頬に人差し指を当てて、ビシッと言葉にした物の、当初の打ち合わせとは大きく内容が異なっていた。
間違っては居ないが、果たしてどれほどの視聴者に正しく伝わるのだろうか?
「えっと……、そこは台本作りましたよね?」
「うん、もらったー。でも覚えてない、以上!」
「そんな……、せっかく頑張って作ったんですよ……。メインのポジションも変わってあげたのに……」
「あー、ごめんって。泣かないで――あら、やだ。結花ちゃんの涙目、可愛すぎる!! 超萌えちゃう!!」
上がり続けるテンションのまま、めぐみさんがドクロの上に身を乗り出して、結花に抱きついていった。
なんと言うか、本能の赴くままに生きすぎじゃないだろうか?
(なぁ、オッサン。今からでもメイン変えない? 無謀じゃね?)
(言うな。俺もそう思うが、ネネと合流するまではめぐみさんだけが頼りだからな。合流するまでは放置が正しい選択だろう)
「はい、そこの男2人。向こうに到着したら歓迎の宝石飲みの刑が確定しましたー。はい、拍手ー!」
(((パチパチパチパチパチパチ)))
拍手をするような文字が、浮かび上がる画面の中で流れていく。
ちなみに音は鳴っていない。
言動は面倒だが、めぐみさんも結花や榎並さんに負けず劣らずの美少女だ。
早くも視聴者の心を掴んだらしい。
(俺も異世界に連れてって!!)
(僕にもめぐみん武術を仕掛けてください。特に痛いヤツで!!)
(めぐみんの宝石が飲みたい。むしろ、めぐみんを飲みたい)
「うぁー、気持ち悪いのがいっぱいいるー……」
気持ちは分かるが、声に出すのはどうだろう?
(罵られた! もっと、もっとお願いします!)
(元気っ子に見えたのに、中身は毒舌キャラ。嫌いじゃない!!)
「……めぐみんは、何にも、見なかった。うん、大丈夫。見えてない、見えてない」
今度はガタガタと震えながら、榎並さんに抱きついていく。
榎並さんも美少女なのだから、抱きつけば奴らの火に油を注ぐだけだ。
歯止めがきかなく成りそうなコメント欄から目をそらして、小さくため息をはく。
「そろそろ案内してもらえるか? 一応、海外に相当するって確定したらしいけど、パスポートはいらないよな?」
「うん! 多分!! それじゃ、行っくよ――」
そんなかけ声と共にめぐみさんが、穴の中へと飛び込んでいった。
今のは視聴者に対する説明の意味を込めた質問だったのだから、多分とか言って欲しく無かった。
(あれが観光大使って間違えてるよな?)
(言うな。国の決定だ)
はぁ、とため息を吐き出して、盛大に肩をすくめてみせる。
将吾や結花、榎並さんと顔を見合わせて、せーの、で穴の中へと飛び込んだ。
――異世界の開拓者。
――平和の外交官。
――最高の冒険者たち。
既存の政府機関とは切り離した省庁を立ち上げた橘さんと共に、俺たちは今日も楽しく生きていく。
現代日本の冒険者 ~仕事に疲れたオッサンと高校生が紡ぐ英雄譚~ 薄味メロン@実力主義に~3巻発売中 @usuazimeronn
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