第45話 反撃の狼煙

  先ほどまで感じていた無数の呼吸音がパタリとやんで、周囲に気味の悪い静けさが訪れる。


 化物たちはまばたきすら忘れ、翼竜たちも重力に導かれて、地面へと叩きつけられている。


 どうみても、異常な光景だった。


「きさまら、なにをーー」


「燃えてください!!」 


 そんな化物たちの向こうから聞こえてきた声にかぶせるように、結花が魔法を発動させる。


 一瞬の判断で狙いを変えたのか、俺と柳が居るであろう場所をつなげるように、炎が燃え盛った。


 炎に包まれた化物はピクリと動くことも無く、小さなビー玉へと戻っていく。


 大人しくなる炎の向こうに、目を見張る柳の姿が見えてくる。

 驚いている表情を見る限り、柳が何かした訳ではないのだろう。


 そんな彼に銃口を向けながら、俺は背後へと声を飛ばした。


「将吾か?」


 俺や榎並さん、結花でもない。


 消去法で選んだ問いかけだったが、どうやら将吾でも無いらしい。


「いや、じいさんだと思うぜ?」


「……なるほど」


 直前に渡したデータが役だったのだろうか?


 それとも、生放送・・・の結果だろうか。


「そろそろ種明かしの時間だな」


 拳銃を片手で構えなおして、空いた指先をパチンと鳴らした。



 地面から生えていた宝石の陰や、盛り上がった土の側。

 この部屋の至る所から、合計12機のドローンが一斉に飛び立った。


「これは……」


 周囲を飛び回るドローンを見つめる柳を後目に、結花が手を挙げてその中の1機を捕まえる。


「みなさん今日は。1年2組の水谷 結花みずたに ゆかです。政府が秘匿する場所からの生放送、楽しんでくれていますか?」


 普段の放送と同じように、結花が弾けんばかりの笑みを浮かべていた。


(最高! 政府機関に抗議の電話かけまくってるよ! 結花ちゃんマジ天使!)


(防衛省の回線惰弱すぎ。つながらねぇよ)


(上層部の連中、ぬっころしに行こうぜ! で、そいつらどこに居んの?)


 腕に身につけた時計にそんな文字が流れていく。


「マスコミも重たい腰をあげたっぽいぜ?」


 ほれ、と将吾が掲げて見せた画面には、俺たちの生配信を背景に映すアナウンサーの姿があった。


『“力でこの世界を支配する”。“愚民の命を救えたところでなんになる”。などと、不穏な発言が目立ちます』


『速報です。たった今入りました情報によりますと、防衛省の前に調査官を乗せた車が到着した模様です。現場と中継がつながっております。現場の鳥山さん?』


 段ボールをもった男たちが一斉に建物の中に入っていく。


 チャンネルを次々切り替えるものの、どの局も、俺たちの姿を映していた。


「この状況で化物を止めれるヤツが居るなら、止めるわな」


「……」


 呆然とした様子で画面を見つめていた柳のポケットから、呼び出しを告げる音が鳴る。


「……はい、柳です」


 小さな声を絞り出した柳の顔が、より一層青白さを増していった。


 一言、二言つぶやいて、柳が右手を掲げる。


 周囲で動きを止めていた化物たちが、その身を光らせて、ビー玉へと戻っていった。


 スマホを額に押し当てながら、柳が高級スーツに身を包んだ膝を地面に付ける。


 力の抜け落ちた瞳で、ぽんやりと地面を見続けていた。


「それで、どうするのかしら? あなたが撃たないのなら、私が殺すのだけど?」


「いや、いいさ。アイツの相手なんてしている暇は無いんじゃないかな?」


 ふと振り向いた先に見えたのは、宝石の街から浮かび上がる3つの光。


「めぐみ……?」


「ただいま――!! って、キョウちゃん! ちょっと成長しすぎてない!? なんか、不公平を感じるんだけど!?」


「ふふっ、そうね。めぐみはちっとも成長して無いわね」


「あー、ひどーい。これでも大きくなったんだからね!? ……たぶん」


 ピシリと抱きしめ合った2人を宇堂先生とネネが、優しい瞳で見詰めていた。

 


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