対面
巨大な身体を持つ統龍達とヒュドラのぶつかり合いで辺りの空気には土埃が混じり、ヌディア回廊出口上空を舞うヒューゴは息苦しさを感じた。
ヌディア回廊西側からは金龍が、東側からは紅龍と銀龍が、そして上空からは士龍がそれぞれ交互にヒュドラへブレスを吐き攻撃している。三体の統龍と士龍の攻撃を受け続けも、ヒュドラの持つ高速回復によって反撃し続けていた。
「あれは確かに脅威だな。ダメージを負った次の瞬間にはケロッとしている。ヒュドラの能力を知らずにいたら戦う気力を失ってしまう」
統龍達と士龍は、皇龍が来ればこの状況を打開できると信じているから攻撃を続けられるのだろう。ヒューゴにはそうとしか思えなかった。
東側の紅龍から少し離れたところに人影を見つける。ヒューゴはそこへラダールを降ろした。
「ライカッツさん!」
幼い頃、龍神の祠へ毎日一緒に通い、今はアイナの夫であるライカッツを見つけヒューゴは駆け寄る。
「おお、ヒューゴ、来たか」
見慣れた野性的な黒い瞳をキラッと輝かせヒューゴに微笑み返事した。
「ここで何をしているんですか!」
紅龍の隣でヒュドラの隙を見てはブレスを吐く銀龍を指さし、ライカッツはため息をつきそうな口調で答える。
「あの銀龍のさ。統龍紋所持者が俺とアイナの息子なんだ」
「……生まれた子が?」
「そうなんだ。それでよ。いくら統龍紋所持者でも赤子じゃどうすることもできないだろ?」
「それはそうですが……」
「銀龍がさ、言うんだ。主が成長するまでは守ってくれってよ。そりゃ守るよな? 俺達の大事な子だ。同時に、銀龍だって大事だ。息子……スペランツァの龍だからな」
「まさか、それでここまで?」
「おうよ。統龍同士の戦いで俺にできることはない。そんなことは判ってる。だがな? 息子の龍が戦ってるんだ。その戦い様くらいきっちり見届けてやらなきゃよ。スペランツァが大きくなったとき話してやれないだろ?」
「でも、ここじゃ危ないですよ? もう少し離れたところからでも……」
「それじゃダメだ。成長したらスペランツァは銀龍のそばに居ることになる。将来、
本来のライカッツの口数は多い方じゃない。なのにこうも話すのは、壮絶な戦いを目にして興奮しているのか、それとも銀龍紋所持者の親の誇りで高揚しているのか、きっと両方だろうとヒューゴには思えた。
ライカッツ以外の人間には無意味な行動かもしれない。でも、ライカッツが覚悟を決めてこの場に居ると伝わってくる。幼い頃から長い時間を共にしたライカッツの性格をよく知っている。止めてもダメだと理解しヒューゴは言う。
「判りました。これから僕も参戦します。ライカッツさん。アイナと息子さん達のところへ必ず戻ってくださいね?」
「任せろよ。忘れたか? 俺は盗賊団首領の息子だ。危ないところから逃げるのは得意なんだよ」
ニヤリと笑うライカッツにヒューゴは苦笑する。
「じゃあ、戦いを終えたら、また」
ヒューゴは微笑み右拳を胸の前に突き出す。その右拳に同じく右拳を当ててライカッツは真顔に表情を変えて言う。
「お前もリナちゃんのところへ必ず戻るんだぞ」
「はい」と答えたヒューゴも真剣な光を瞳に宿してライカッツを見つめる。そして「では」と一言口に出し、統龍達の方へ歩き出した。
紅龍と銀龍に近づくと、二頭はヒューゴに譲るように間を開く。
『では、我の出番だな』
ヒューゴの中で何かが存在感を増し、自分を他人が見ているような感覚が訪れた。目の前に迫るヒュドラを誰か他の人の目で見ているようで、身体も操られているようで気持ち悪い。
――僕の身体は……。
ヒューゴの疑問に皇龍が即座に答える。
『そうだ。今は我の身体として動いている。案ずることは何もない。ヒュドラの能力を封じたら戻す』
意識を失ったら士龍がヒューゴと入れ替わると言っていたが、その経験をせずにここまできた。自分を乗っ取られるという経験は初めてで、これからどうなるのか少し不安だった。だが、ヒュドラを抑えるために必要なことだと冷静に状況を見守ることとする。
ヒューゴの身体全体から紫色の光が統龍達とヒュドラを覆い、更に広い範囲まで急速に広がっていった。
光の広がりがどこかで止まっているのかも判らないほど広がっている。その光に触れた統龍達の身体から傷が消えていく。
統龍達は頭を垂れて後に下がり、士龍だけが
ヒューゴがヒュドラに近づく様子を見ていたライカッツは、光に触れた途端身体が軽くなり、これから何が起きるのかと緊張していた気持ちが落ち着いていくのを感じていた。
そのライカッツの後ろからパトリツィアが歩いてきて横に並ぶと、
「ここから先をよく見ておくのだ。もっとも、何が起きたか私にも判らぬかもしれんが、それでもな」
ライカッツはパトリツィアの表情に固さがあるように感じ、その理由を訊きたく感じたが、その気持ちを抑えて再び
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