覚醒
意識が戻ったとき、ヒューゴは自分の身体に強い違和感を感じた。
手の指先から爪先、髪の一本一本までがヒューゴのものではない感覚があった。誰か別の人の身体になったかのような、思うように動かせない感覚がある。実際、目を開こうとしているのに開けられないでいる。
『聞け、ヒューゴ』
――皇龍。俺の中に入ったのか……。
士龍と同じように、頭の中で皇龍の声が響く。
『先に謝っておこう。一日程度で我が入れるようお前の身体を強化できると言ったが、二日以上かかってしまった。お前の仲間と妻に負担をかける結果になった。すまぬ』
――そ、それでリナとイルハムは大丈夫なのか!?
リナがイルハムの支援をしたのだろうが、それでも二日間も魔法を使いっぱなしとなれば、二人とも体力と精神を相当削られただろう。ヒューゴは魔法を使えないから、士龍化で疲労したときの状態で想像するしかない。命に別状がなければとヒューゴは焦る。
『それは大丈夫だ。かなり疲労させてしまったが、二人とも心身ともに異常はない。一日も眠れば元気になるだろう』
皇龍の返事を聞いて安心した。
『それに銀龍に手伝わせている。眷属の氷竜がお前の仲間の代わりにここを護衛しているから、お前達はもう安全だ』
――それで僕はいつになったら動けるようになるのでしょうか?
『あと少しだ。それにしても……士龍を宿したにも関わらず、魔法を使おうと訓練もしなかったのだな。精神の耐久性が脆弱でな、おかげで予定より時間がかかってしまった』
――魔法の訓練をすると精神が鍛えられるのですか?
『そうだ。
魔法を使える者達が訓練していたのをヒューゴは思い出す。ヒューゴは使えないからと、武術や体術ばかり訓練していたので、どのような魔法の訓練をしていたのか知らない。
――士龍を宿すと魔法も使えるようになるのですか?
『多少はな。士龍の属性……風系統の魔法ならば使えるようになっただろう』
肉体を強化する際に士龍の力を使っていたが、魔法も使えるとはヒューゴは知らなかった。使おうとも思わなかったから士龍に問うこともしなかった。自分がどれだけ
――魔法はこれからでも使えるようになるのでしょうか?
『もはやその必要はないが、訓練すれば使えるようになる』
――必要がない?
『魔法など我に任せれば良い。我を身体に収められるようお前の心身を調整・強化している間に、記憶からお前の
――あなたが僕の中に入ったあと、士龍はどうなるのですか?
『今と変わらんよ。ただ、我が居る以上、あやつは遠慮するかもしれんな』
――遠慮するとは?
『お前との接触は我に任せ、我の指示で動くようになるということだ。さ、そろそろお前の身体は自由になるぞ。細かいことは後でも良い。先に言っておくが、ヒュドラを倒すまではお前に干渉しているからな』
――干渉?
『真の皇龍になることを避けたお前に、我の力を自由に使わせるわけにはいかぬ。だから、お前の意思とは別に我が力を使う』
――判りました。
『よし、そろそろ身体も自由になる。目覚めよ』
皇龍の声が途切れた。ヒューゴは目を開ける。
身体を起こし周囲を見回すと、イルハムに手を当てて魔法を使っているリナの姿が見えた。
「リナ!」
立ち上がって、背中と手から黄色い輝きを放っているリナに近寄る。
「ヒューゴさん! 目を覚ましたのですね……良かった……」
ヒューゴを目にして表情を一瞬ほころばせたあと、イルハムの身体にリナは折り重なる。
「大丈夫かい!」
リナの背中に手を当てて顔をのぞき込むと眠っている。かなり疲れているのが顔色に現れていた。
「二人ともすまない。そしてありがとう。あとは任せてくれ」
上空を旋回しているロンドを見つけ、ヒューゴは指笛を鳴らす。ロンドはヒューゴの横に急降下してきた。
「二人を連れて行くから、乗せてくれ」
イルハムを左腕でリナを右腕で軽々と抱えて立ち上がり、ヒューゴはロンドの背中へ飛び乗る。
「ここは任せる。魔獣を殲滅してくれ」
まだ多数の魔獣の相手している氷竜に指示してロンドの腹を軽く蹴った。
「ルークさんのところで二人を休ませて貰おう」
バサッと羽を広げたロンドに、フルホト荒野へ飛ぶよう言う。飛び上がったロンドは、輝く太陽を目指して上昇していった。
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