メリナ迎撃準備

 旧ズルム連合王国があった地域、セリヌディア大陸南西部へ入ったメリナは、金龍を北部からの攻撃に備える位置に待機させる。勝てないまでも負けないためには、ヒュドラには金龍と屠龍達で対抗するしかない。


「勝つ必要はない。とにかく敵軍の南方方面への侵攻を遅らせてくれればいいから」


 金龍にそう伝えて、直属の兵百名を連れて南下する。

 メリナは飛竜に向けてメッセージを送った。

 飛竜は、グレートヌディア山脈近くで待機もしくは周回しているだろう。だが正確な位置は判らない。それに金龍の眷属である屠龍に対してと同じように通じるかも判らない。だが、通じてくれるよう願いながら、「士龍と連絡をとりたい」と意識を放つ。


 同時に、参謀役のエルーシュ・モンティアスに命じて、ルビア王国軍の駐屯所に向けて伝令を走らせる。「駐屯所正面にヒューゴ殿と連絡をつけたい。メリナ・ニアルコス」と、デカデカと描いておくようにと指示書を渡して。

 ヒューゴの関係者はルビア王国の駐屯所へ攻撃をしかけているから、攻撃の際目に付くようにしておく。


 当面打てる手を打ち、メリナは見晴らしの良い丘の一つを選んでテントを張る。


◇ ◇ ◇


 『ヒューゴ、金龍の統龍紋所持者メリナ・ニアルコスが我らと連絡をとりたがっている』


 セレリアに状況を説明し終え、帝国軍がいつでも出撃できるよう準備を頼み、皇宮を離れようとしていたヒューゴに士龍が伝える。


 ――判った。だが、どうする? 帝都からベネト村まで飛竜で急いでも五日はかかる。ルビア王国までとなると更に二日は必要だ。


 鎧を着込み、自室から出たヒューゴは士龍に思念で問う。


『我と金龍ならば、どこに居ようと連絡はつく』


 ――そうか。では、状況を一通り聞いておいてくれ。僕はパトリツィア閣下とダヴィデ閣下と相談しなくてはならない。


 情報の確認を士龍に任せ、ごく親しい人以外は声をかけられない形相で、帝都にあるダヴィデの官舎へヒューゴは向かう。


◇ ◇ ◇


『士龍と連絡がとれた。こちらの状況を教えろと言ってきている』


 テントの中で、エルーシュと周囲の地理を確認していたメリナへ金龍から報告が届く。


 ――そうか。全てありのままに伝えていい。そして助力を頼むと願ってくれ。


『判った』


 士龍と連絡がとれたと少しホッとしたメリナは、再びエルーシュと打ち合わせを続ける。


「ディオシスは、メリナ様と金龍をこの旧ズルム連合王国地域へ封じ込めておこうとすると思います」


 青い目の参謀は地図を指さして、


「現在金龍達が待機している場所、ここは北からの進撃を防ぐには広すぎます。ですので、もう少しこちら側の山間へ移動させた方が宜しいかと思います」


 金龍達は山を背にして平野を見渡せるところで待っている。それを山間部へ移動させた方が防衛しやすいとエルーシュは言う。


「それではダメだ。今度の相手は魔獣が主力だ。隠れられる場所が多いと、小回りのきく敵に有利になる」


 エルーシュの案は、人間主体の軍相手ならもっともだ。だが、魔獣が相手ならば話は別。森林を燃やして良いならばいいが、住民の生活に影響が出る可能性がある以上それはできない。

 迎撃する際に目視しづらくなる状況のままでの戦闘は、身体が大きい金龍や屠龍には不利だ。


「わかりました。では、住民の避難はどうしましょう?」

「とにかく南へ急がせろ。侵攻軍を組織してくるにはまだ時間がかかるだろうが、敵は人間ではないのだ。今までの経験はさほど役に立たない。通常なら最低でも五日かかるが……三日以内には攻めてくるだろう」


 魔獣の移動速度を考えれば、三日以内でも長めに見積もっているかもしれないとメリナは考えている。しかし、プレッシャーを感じさせすぎては、エルーシュはともかく一般兵は焦って仕事が遅くなるかもしれない。

 金龍達との接触が三日後として、それまでに近場の村々への伝達は済ませておきたい。そして住民達が避難する時間を作らなければならない。


「エルーシュ。状況次第では私も迎撃に向かう。住民の避難はお前に任せる。頼んだぞ」


 「ハッ」と背筋を伸ばすエルーシュを置いて、メリナはテントの外へ出る。

 周囲は静かな状況だが、これから起きるだろうことを思うと言い知れない不安を感じさせた。

 こちらに金龍と屠龍が居ても、敵の数は数万は居るのだから、住民への被害をどこまで抑えられるのか判らない。


 ――士龍達と協力し挟撃できるようにならねば……。


『メリナの指揮下で動いてくれる飛竜を十頭送ってくれることになった』


 金龍からの連絡にメリナは反応する。


「それはありがたい。で、いつだ?」


 士龍の素早い対応に感謝しつつ、金龍に確認する。


『ここへは二日以内には到着するそうだ』


「判った。では、そちらは頼んだぞ?」


『大丈夫だ。心配するな。一頭もここを通さん』


 金龍との連絡を終える。

 

 ――二日、二日ならば……。


 金龍達が戦闘状態に入っていても、飛竜による支援があれば、戦闘も住民の避難もだいぶ楽になる。


 ――こちらを封じ込めようとするなら、深く南下してこないだろう。そうでないなら、こちらは防衛ラインを徐々に下げて、士龍や紅竜の侵攻を待つ。時間だ、時間を稼ぐ。……いや、何か忘れている……。それは何だ?


「あ! 海からか!!」


 水棲魔獣を使って陸上型の魔獣をガルージャ王国へ送っていたことをメリナは思い出す。

 

「まずい! ただ南下させるだけではいかん!」


 メリナは再びテントへ入り、住民の避難場所の変更をエルーシュと相談する。

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