ウルム村との協力(第一次フルホト荒野迎撃戦)

 ウルム村周辺のギャリックサーペントの遺体をその場で焼いていた。パブロ村長はその一つを見守っていて、ヒューゴが声をかけると村長の家で話すことになる。道すがら今回の被害についてヒューゴに説明する村長は、昨日からの騒動が終わったことに安心の色を見せていた。

 だが、その安心した表情も、今回出没した魔獣ギャリックサーペントはルビア王国が送り込んだ可能性が高いとヒューゴが説明すると消えた。


 村長宅へ到着すると、ヒューゴは現時点で判っていることと予想されることの説明を始める。


 ギャリックサーペントはセリヌディア大陸南西の砂漠地帯の魔獣で、グレートヌディア山脈には生息しないこと。ルビア王国軍が帝国侵攻の際、軍の編成に魔獣集団を組み込んでいたこと。また、ルビア王国軍の動きが真剣に帝国侵攻を試みているとは思われないものだったこと。

 それらを総合して考えると、ルビア王国は魔獣を戦線に投入する実験を行っていると見られ、ウルム村占領にも利用しているとヒューゴは意見を述べた。


「ヒューゴさんの言う通りだとすると、これまで見たこともない魔獣と戦う機会が増えるかもしれないということですね」

「はい。でも、見たこともないと言ってもセリヌディア大陸に生息する魔獣……それも西部の魔獣ですので、情報を集めておけば対処法を用意しておくことはできます」

「なるほど、ではこの村に出入りしている大陸西部に詳しい商人等から魔獣の情報を集めましょう。それで、この件にも関係あることなのですが……」

「何でしょうか?」

「ベネト村とウルム村の協力体制を強化するべきではないかと、村人からの声が増えています。ギャリッグサーペントの対処法をヒューゴさん達が伝えて下さったことで、そう考える者が増えているのです」

「協力体制と言いますと、具体的には?」

「情報の共有体制の整備は必要だと考えてます。その他はこれから考えようかと」

「そうですね。パブロ村長とダビド村長で話し合って頂ければと思います。僕は賛成ですよ」


 パブロは、ベネト村とのこととは別に、ヒューゴ等傭兵隊との協力をウルム村の意思として決めた。ベネト村との間でも設ける予定の……伝書ハヤブサによるウルム村とヒューゴ等の本拠地の間で連絡網を作る。その為には、場所を伝書ハヤブサに覚えさせなければならないので多少時間を必要とする。だができあがれば、ベネト村やヒューゴ達の本拠地との連絡も一日でお互いの状況を把握できるようになる。


 またパブロは、ヒューゴ達傭兵隊への支援を申し出た。当面は金銭での支援……月に金貨二枚になるが、いずれはもっと多くの隊員を送りたいとのこと。賊の退治はウルム村でも必要。だが、ウルム村だけでは捜索と討伐範囲が狭くなる。そこでヒューゴ達に協力して貰いたいという。


 パブロの話しを聞き、情報連絡網についてはすぐに賛成し、伝書ハヤブサの訓練には協力すると約束した。金銭面の支援も、賊退治や麓周辺警備の報酬と考えればよいと考え、ヒューゴは申し出に感謝した。


 最後に、洞穴に逃げ込んだギャリッグサーペントの件を伝え、今夜は村の外へ誰も出ないようにヒューゴはパブロに伝えた。ヒューゴの予測では、今日明日中にギャリッグサーペントが洞窟から出てくることはない。だが、万が一を考えている。


「明日、僕等が退治に行くので、壁の外には出ないようにと村人には伝えてください」


 ケーディアの世話も頼んだあとパブロと別れたヒューゴは、フレッドとアンドレが待つ宿へ向かった。パリスとダニーロを見かけたら、その宿へ来るようにと門の守衛には伝えてある。治療を終えたケーディアもそこで休んでいるはずだ。

 皆と合流しルビア王国の別働隊と明日の件をヒューゴは相談するつもりでいる。


 宿では、パリスとダニーロはまだ到着していないとフレッドから聞いた。だが、陽も落ちている以上もうじきやってくるはずと、パリス達が来てから夕食を取ることにする。フレッド達には夕食をとるお店を探しておいてくれと依頼し、動けるようになるまではケーディアがお世話になるので、宿の主人と相談しヒューゴは必要なお金を渡した。

 その後、ヒューゴ達に与えられた部屋へ行き、ベッドに身体を横たえる。


 ――ルビア王国や大陸の西側のことをもっと知らなければならないなぁ。誰か人を送れればいいのだけれど……。


 これからどんな魔獣が送られてくるか判らない。やはり魔獣の情報をこちらから積極的に集めた方が良い。誰かをルビア王国へ送り情報収集すべきなのだろう。マレッドならば、ルビア王国のこともいろいろと知っているから……と考えたが、王国軍に顔を知られているから動きづらいことに気付く。


 ヒューゴとラダール、パリスとマークスなら何が起きても逃げられる。だが、ヒューゴやパリスは、隊の中心に居なければならない。ヒューゴは隊員へ指示もしなければならないし、パリスには今回のような遊撃隊のような役割を果たしてもらいたい。


 ――うちは戦い向きの人ばかりだ。……やっぱり人が足りないなぁ。イルハム達と合流したら相談してみよう。


 ヒューゴが天井を眺めながら考えていると、部屋の扉を叩く音がした。続いてアンドレの声がする。


「ヒューゴさん。パリスさん達が戻ってきました」


 返事を返し、ベッドから身体を起こし、部屋の外へとヒューゴは向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る