ケーディアを探して(第一次フルホト荒野迎撃戦)
村を包囲していたギャリッグサーペント九体に槍を突き刺し、ウルム村の獣紋所持者が氷系魔法を放っている様子を確認する。
魔獣の動きが目に見えて鈍くなっていくのが判る。この分なら、そう時間もかからないうちにギャリッグサーペントを倒せるだろう。
ヒューゴはそう確信して、ラダールを呼びケーディアの捜索に移る。
フレッドから聞いた、ケーディアが追いかけていった方角に向けてラダールを飛ばす。
ギャリッグサーペントの大きな身体ならば、多少背の高い木の合間からでも確認できるだろうと、ヒューゴは灰色の身体を森上空から探す。だが、ギャリッグサーペントらしきものは全く見当たらない。森から出たのかもしれないと、森の外側まで捜索範囲を広げた。
木の頭ギリギリの低空を旋回しながらしばらく捜索していると、大きな……ギャリッグサーペントでも入れそうな洞穴があり、その入り口付近に村人らしき人の姿があった。
ヒューゴはラダールを降ろし、その村人に近づき訊く。
「どうかしましたか?」
「あ、ヒューゴさんですね? 以前お見かけしたことがあります」
「ケーディアは一緒じゃないんですか?」
「ギャリッグサーペントを追って、洞穴の中へ入っていったきり出てこないんです」
判りましたと答え、ラダールに向けて、村人を襲うような魔獣が出てきたら倒すよう指示する。そして、地面に落ちていた木の先に布を巻き付け、火石で火を灯しヒューゴもまた洞穴へ入っていった。
油を染みこませて居ないから、この火は松明のように長くは保たない。短時間でケーディアを連れ戻すと決め、ヒューゴは奥へ駆けていく。
洞穴の土壁は削られたあとがまだ新しく、ギャリッグサーペントによって作られたのではとヒューゴは考えていた。もしそうだとすると、この穴がどこまで続くのか見当もつかない。
ケーディアが深追いしていなければいいがと懸念が浮かんでいた。
奥で動くものがヒューゴが持つ木からの淡い光の中にある。
足を止め、空いた手で剣を握りヒューゴは近づく。
「あ、ヒューゴさん」
ヒューゴからはまだ顔は確認できないがケーディアの声。
剣を腰に収めて、ケーディアに近寄る。
「怪我を……」
片足を引きづっているケーディアを灯りで確認する。
「……しくじってしまいました」
「判った。今は話さなくて良いよ。……とにかく村へ急いで戻ろう」
怪我の治療が先と、いつ消えるか判らない火が灯る木をケーディアに持たせ、ヒューゴは彼を背負う。
来た方角へヒューゴは駆け出した。
洞穴を出ると、村人がしゃがんで休んでいた。無事を確認すると、上空を旋回しているラダールを指笛でヒューゴは呼ぶ。
「三人を乗せるのは重いだろうけど、今はお前を気遣ってやれる余裕はないんだ。すまないが僕ら全員を乗せてウルム村まで運んでくれ」
グゥウウウ……と静かに鳴き、地面に身体を伏せたラダールに乗るよう、しゃがんでいる村人に言う。
恐る恐ると村人が乗ったのを確認したあと、ケーディアを背負ったヒューゴも乗った。
・・・・・
・・・
・
ウルム村で治療魔法が得意な鳥紋所持者にケーディアを診て貰うと、大腿骨と肋骨が折れているのと、全身数カ所に打撲があり、体内へのダメージもかなりだという。命に別状はないがかなりの重傷らしく、戦闘可能な状態には一月以上かかるという。
ベッドに横たわるケーディアの意識ははっきりしている。
ヒューゴは治療の邪魔にならないよう気をつけてケーディアと話す。
「とにかく命に別状はないというのだから一安心だ。身体はじっくり治してくれればいいよ」
「すみません。洞穴に逃げられて……追いかけたところを襲われて……」
悔しさを青い瞳に浮かべてケーディアは答えた。
ヒューゴが通った穴は、ギャリッグサーペントが通れるほどの広さはあったが、身体を捻っての攻撃などできる空間は無かった。その疑問をヒューゴは口にする。
「え? あんな場所で……攻撃してきたのかい?」
「いえ、ヒューゴさんと会ったところより奥にもう少し広い空洞があるんです」
「どの程度の広さだい?」
「ギャリッグサーペントが五体くらいなら寝そべられるほどです」
そのくらいの広さがあれば、確かに身をくねらせて攻撃することも可能だろう。
それにしても、一体だけ何故ウルム村への攻撃を止めたのか?
ヒューゴは嫌な感じがしていた。
「明日、僕がその場所を確認してくる。何か嫌な感じがする」
攻撃し手傷を負わせたケーディアが逃げても追いかけて来た様子はない。追いかけていれば倒せたはずなのに、そうしなかった理由があるはず。その理由を確かめ、そして残ったギャリックサーペントも倒しておかなければ、ウルム村の安全は確保されたとは言えない。
あとでパリス達も戻ってくるだろう。
ルビア王国軍の別働隊の状況を聞いて、洞穴調査と別動隊対応について考える必要がある。
落ち着かない気持ちを抑え、パリス達の帰りを待ちながら、村の状況を確かめるためにパブロ村長のもとへヒューゴは向かった。
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