休暇の終わり
ヒューゴとセレナは、パリス、カディナ、サーラをベネト村に残し、休暇終了一月前に本拠地建設予定地へ先に戻ってきた。予定通り、訓練施設やラダール達の小屋など……宿舎二棟を残して他の設備はできあがっていた。宿舎の方も、予定よりは多少早く完成しそうと工匠からの報告を受ける。
一度セレリアに状況を報告し、その後再びベネト村へ戻ろうということになり、二人はラダールに乗って酔いどれ通りへ飛んだ。
酔いどれ通りでセレナと別れ、ヒューゴは南西基地へ歩いて向かう。
基地の入り口の護衛兵にセレリアかヤーザンを呼び出して貰う間、本拠地で使用する道具などは
やがていつも落ち着いているヤーザンには珍しく息を切らせて駆けて来た。
「ヒューゴさん、ちょっとこちらへ!」
ヒューゴの手を掴むと、基地の壁に沿って護衛兵から離れる。
「ど、どうしたんですか?」
胸に手を当てて息を整え、ヤーザンは語り出した。
「ふうぅ……すみません。実は、ルビア王国軍がヌディア回廊を進んでいると、軍が送っている斥候からの報告があり、ヒューゴさんと連絡を取らなければと隊長と話していたところなんです」
「え? 侵攻ですか?」
「多分。この基地も急ぎ兵を送り敵軍の動きを牽制し、本隊の到着を待つということになっています」
「……」
「今のままですと、予定では五日後にはヌディア回廊のこちら側に出てきます。すぐに出発してもギリギリでしょう。そこで、我が隊のような足の速い軍……騎馬主体の隊を先行させることになり、……これから出発するところです」
「統龍……パトリツィア閣下は?」
「紅龍は帝都の守りに置かれ動かせないので、火竜を連れて南部方面から直接向かってもらうことになっています。回廊出口への到着は早くても七日後でしょう」
イルハムとレーブが戻ってくるのはまだ一月近く後。ウルム村へ戻っている隊員達とパリスを連れて六名で向かうしかない。ゴーレムを使えるイルハムが居ないのは痛いが仕方ない。
ラダールを飛ばしみんなのところを回れば、パリスはマークスで飛べば一日以内で、他の隊員達はウルム村から馬を飛ばして貰って五日後には回廊出口に到着できるだろう。
「そうですか……、判りました。では、僕らも回廊出口に向かいます」
「お願いします。多分、側面からの支援をお願いすると思いますので」
礼儀正しく一礼し、ヤーザンは基地内へ戻っていくのを見送りながら、酔いどれ通りへヒューゴも急ぎ向かった。
セレナを宿泊する宿の外へ連れだし、ヒューゴは状況を話した。
「……ということなので、セレナはイルハム達が戻るまでここに居てくれ」
「では、ウルム村へ向かってからベネト村へ、その後回廊へ向かうということですね?」
「そうだよ。イルハム達が戻るにはまだまだかかるだろう。僕らが戻る前にイルハム達が戻ったら、
「……判りました、ご無事で」
うんと頷き、ヒューゴは酔いどれ通りの外へ向かう。
通りから少し離れたところで、上空を旋回しているラダールを指笛で呼ぶ。
・・・・・
・・・
・
夕方、ウルム村に到着すると、ケーディア達四人を捜し出す時間が惜しいとパブロ村長のところへ行き、彼らに急ぎ回廊出口へ向かって欲しいと伝える。お願いし終えて、ベネト村へ向かおうとすると、パブロ村長が何か言いたそうにしていたのだが、ヒューゴは気が急いでいたせいでそれに気付かずにラダールでウルム村を離れた。
そして深夜遅く、ベネト村に到着した。
「ラダール。今日は僕を乗せてたくさん移動させちゃったね。ごめん、疲れただろう? 今夜はもうゆっくり休んでね?」
ラダールから下りて声をかける。そして急ぎダビド家へ向かった。
ダビド家は既に就寝しているはずだが、パリスに急ぎ連絡しないわけにもいかない。申し訳ないとおもいつつ玄関の扉を開き、「深夜にすみません」とヒューゴは声をかけた。
少しの間のあと、ダビドが寝間着姿で姿を現わしたので、パリスへの伝言を頼んだ。
「そうか。戦争がまた始まるのか」
「そうなりそうです。ベネト村へも何か仕掛けてくるかもしれません。ダビドさんも注意してください」
「ヒューゴ。無事でな?」
はいと返事し、ダビド家を出る。
雲一つない空には丸い月が、綺麗に浮かんでいた。
風もなく深夜にもかかわらず、さほど寒くもない。
三ヶ月ほどの休暇が終わる。その最後の日がこんなに静かで落ち着いた日とは皮肉かなとヒューゴは感じていた。
明日からまた、血なまぐさく慌ただしい日々が始まるのだ。
――いや、そうじゃない。毎日をこんな風に過ごせるよう頑張れと誰かが激励しているんだ……そう思うことにしよう。そう考えた方が気分がいいよね。
リナの待つ家まで、空を眺めながらヒューゴは歩いた。
◇ 第六章 完 ◇
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