準備
ギャリッグサーペントを討伐したあと、ヒューゴはヴィトリーノと共に新たな槍の製造に取りかかっていた。
槍の矛先に炎を纏わせて突き刺すにしても、固い鱗を突き通すだけの力が必要になる。士龍の力で身体能力をあげたヒューゴほどの筋力を持つ者はベネト村には居ない。ならば、一人ではなく二人以上で使う槍で突き刺せばいいと、複数人数で使用する槍を作ることとなった。
貫通力があり、でも、さほど重くならないような槍をと試行錯誤を繰り返していた。
矛先は細く鋭く頑丈でなければならない。
槍全体は長く、そして適度な重さでなければならない。
この二つの条件を満たす槍を作らねばならないのだが、槍自体の問題は解決したものの、矛先の問題は解決できずにいた。鉄製の細い矛先だと、ギャリッグサーペント並みの堅いモノに当てたとき、しばしば潰れるか曲がってしまった。
「うーん、鉄より固いものが必要だなぁ……」
「あるにはあるのだが……」
ヴィトリーノがつぶやいた鉄より固いものとは、竜の爪と牙だという。だが、死んだ竜から採取するしか採れず、とてつもなく高額で手に入れられないのだとのこと。子供の手のひら程度の大きさのもので金貨三十枚はするという。
「それは手を出しづらいですねぇ」
「そうなんだよ。皇族が使用する武器には使われているらしいがな」
「うーん、統龍紋所持者でも手に入らないかなぁ」
「どうだろうな。持っていたとしても譲ってはくれないんじゃないか? 買えと言われたらお手上げだ」
パトリツィアに頼めば何とかなりそうかもとヒューゴは思う。だが、とても高額な希少品を譲って貰ったら、大きな借りになる。もちろん村の安全を考えると、是非手に入れたい。だがしかし……と、ヒューゴは悩み、葛藤していた。
「まぁ、深くは刺さらないが、浅く刺さる程度でも氷系魔法を体内へ放てるのだから、当面は我慢するしかないだろう」
ヴィトリーノの意見に従って、ギャリッグサーペント対策用の槍……ヴィエルランスを十本用意しようとなった。
ヴィエルランスは、鉄製の矛先は細く鋭く、木製の柄の部分には、突き刺すときに力を込めやすく滑らないようにと取っ手が左右二カ所ずつ全部で四カ所についている。長さは、平均的な大人の身長の二倍はあり、少しでも距離をとって攻撃できるような作りになっていた。
ヴィエルランスの他の特徴は、矛先だけを交換しやすいようにも工夫した点。潰れたり曲がったりしても、敵を倒した後は矛先だけを敵の身体に残して柄を持ち帰ることができる。交換しやすくしたのは、柄に使われている木材も強度が高く、よくしなり、比較的軽い材質の希少な木材を使用しているからで、鉄製の矛先より、柄の方がかなり高価であり、入手できる数量も限られているからだ。
ヴィトリーノとヒューゴは、
ギャリッグサーペント用の訓練も、討伐に行った者達が中心となって行われるようになり、再び現れたとしても対応できる体制がベネト村に出来上がりつつある。
やっと一息つける状況となり、今後のイーグル・フラッグスについてヒューゴはセレナと相談を始める。
「……仕事が仕事ですので、安定収入というのは難しいです。そこで、賊や魔獣退治関連は、軍を仲介しない仕事でも受けましょう。隊全員で対処しなくても可能な力が我が隊にはあります。二隊に分けてもブロベルグの件程度ならば十分対処できます。ブロベルグの件のような割の良い仕事は少ないでしょうけれど、数を請け負って、日頃から経済的余裕を持っておきましょう」
もちろん軍からの仕事を優先して受けますがとセレナは付け加えた。
「うん、それでいいよ。軍以外からの仕事の調整はセレナにお願いしたいけどいいかな?」
「はい、そのつもりです。あと、仕事の割り振りですが……」
武術訓練担当はレーブ、魔法訓練担当はイルハム、帝国軍関係はヒューゴ、経理担当はセレナ、買い出し担当はパリス、家事はカディナ、サーラ、フレッド、アンドレ、ケーディア、ダニーロが行うこととする。今後増えた隊員は随時担当を決める。家事は毎日のことだが、訓練は一日もしくは二日おきで良いだろうとセレナは言い、ヒューゴも個人でも訓練するだろうからと同意した。
「……それとですね。集団戦闘の訓練もした方が良いと思います。これはヒューゴさまが担当すべきです」
「そうなんだけど、今のところ隊員の数は少ないから、集団戦闘訓練といってもやれることがないよ?」
ゴルディアが残した本や帳面には、戦術に関しての記述が幾つかある。例えば、攻撃に関しては応急攻撃、陣地攻撃、追撃時や、昼間や夜間の違いで注意する点などがあり、それらを身につけている集団は戦いで有利になりやすい。防御や撤退時でも有利な手段はある。
だから、集団戦闘訓練の必要はヒューゴも十分判っている。
だが、現在のように十名程度の集団ならば、集団訓練するよりも個人の訓練を優先した方が良い。現在の隊員達なら、作戦時の注意は戦時にするだけで十分だからだ。
「ええ、判っています。ですので、隊員数が増えたらということになります。一応、その時を頭に入れておいていただければと」
「了解したよ。……他に、気をつけておくこととか、気付いたことはあるかい?」
「カディナとサーラのことなんですが……」
「二人がどうかした?」
「アイナさんとナリサさんに紋章が発現したことで、カディナ達は多少ショックを受けているようなんです」
「どういうことかな?」
「彼女達は、
その気持ちはヒューゴには判る。
ずっと
ならば、自分達がこれまで受けてきた酷い対応は何だったのだろうと悩んでも不思議はない。
ただ、ゴルディアがそうだったように、
もしかしたら、
自分自身とアイナ達に起きたことを思うと、ヒューゴはその可能性は大きいと考えている。
だが、今のところ確証はない。下手に期待を持たせては可哀想な結果になるかもしれない。
「しばらくはカディナ達自身で考えて貰おう。そして、少しずつでいいから、武術や治療などを教えていこうと思っている。もしかしたらカディナ達にも何かしらの紋章が発現するかもしれないからね。でも確実じゃないから、無責任なことは言わないようにしようと思う。それより、紋章を持っていようと、
そうですねとセレナは頷く。
「さぁ、休暇も残り
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