作戦開始(救出作戦)


 木の柵で囲まれた目標地点には荷物を積んだ台車が並んでいる。出入り口には、警備兵の姿もある。

 補給所周囲の建物に隠れ遠目で確認したセレリアは、一人つぶやく。


「本来なら、深夜か早朝の……兵の動きが少ない時間に狙うものだろうがな……。さて始めるとするか」


 作戦開始したら、離れた二カ所を移動して襲い、騒ぎを大きくして撤退するまでひと息をつく暇などない。

 背後で火矢を準備する兵達を見てセレリアはひとつ深呼吸をする。

 

「行くぞ! 標的をいちいち確認する必要はない。撃って撃って、撃ちまくれ!」


 魔法で荷物を焼き、敵兵が味方を攻撃するのを防ぐためセレリア自身は敵陣へ突入する。

 セレリアの背が光り、自身に魔法防御と物理防御の魔法をかけ突入準備した。

 上空で火矢が敵陣へ向かうのを見ると、剣を手にしてフッと息を吐き、敵陣めがけて馬を走らせる。


「ヤァアアーー!」


 ――私は生き残り、仲間も死なせない。……ヤーザン、あなたも頑張りなさい。そして……ヒューゴ隊……全員生き残るのよ……。


 セレリアは、反撃の準備する弓を構えた敵兵の中へ馬を向かわせる。



・・・・・

・・・


 手慣れた得物を片手に、革の鎧で身を固めたレーブが日頃は見せないギラギラとした表情を手綱を引きながら見せている。その背後には、レーブと同じように武器と防具を準備したケーディア、フレッドとアンドレ、そしてダニーロが馬上でイルハムの合図を待っていた。


 通りを一つ越えた向こう側を、捕虜を捕えた檻が荷台に載せられて通り過ぎようとしていた。檻の数は二つ。見物の人混みと建物の影から数十人の警備兵に守られ通過する様子が見える。


「レーブはケーディアとダニーロを連れて前側の檻を、私はフレッド達と後ろ側を襲う。ご夫婦を檻から出したら……」

「ああ、今更確認せずとも判っているさ。俺が殿しんがりで追っ手を邪魔するから、王族二組を逃がしてくれ」

「うむ、王族を逃がしたあとは、レーブもその後を追え。ゴーレムを出す」

「任せろ。……俺の……いや、俺達の本気を見せてやるさ」


 ――こう言うときは本当に頼りになる。これで女癖が悪くなければ、ガルージャ王国でもひとかどの将軍を務められただろうに……。


 目の前に塞がる敵を押しつぶしそうな圧力を、細く締まった身体から出しているレーブを、イルハムは頼もしそうに見た。レーブは闘いに飢え、湧き上がる力を持て余し、その力の解放を今か今かと待ち望む闘争心の塊。

 こうなったレーブはイルハムでもまともに相手できない。


「じゃあ、始めるぞ?」


 その言葉を聞いていないかのように敵の姿を追うレーブ。

 イルハムは片手を真っ直ぐ上にあげ、一瞬止めたあと前方へ振り下ろす。


「いくぞぉおお!」


 号令と共に、イルハムを先頭に六名が一斉に駆けだした。そしてイルハムを、右手の棒を頭上に振り上げたレーブが追い抜いていく。その後を剣を構えたケーディアが追い、ダニーロは背をオレンジに光らせいつでも魔法を放てるように視線を敵に送っている。

 フレッドとアンドレはイルハムの後で、きっと弓を構えていることだろう。


「ハァッ!!」


 イルハムは馬の尻を鞘で叩き速度をあげた。


・・・・・

・・・


 目標の檻が見えてきた頃、ラダールと並んで飛ぶマークスの背からパリスがヒューゴに声をかけた。


「ヒューゴ! 檻は私が壊す。あなたは周囲の敵を蹴散らしてちょうだい」

「判った!」


 視認できる敵の数は三十名ほど。檻の周囲に四名、前に十名ほど、後ろに十五名くらいだ。上空から見ても、それ以上の敵は居ない。

 想定より多少少ないように感じるが、考えてみると、一つの檻を運ぶのには十分過ぎる人数だ。

 

 パリスは既に魔法を使う準備を始めている。

 魔法より剣が得意なパリスは、三つ牙の紋章を持っているのに魔法は雷系魔法一種類しか使えない。

 一種類しか使えないが、その代り威力はそこらの三つ牙の魔法とは比べものにならない。広範囲にも使えるし、鉄の武器を溶かすことすらできる。剣に纏わせて攻撃すると、魔法防御されていない防具など即座に溶かし、そのまま敵の身体も焼き切ってしまう。

 もっともそこまでする必要がある敵など、パリスは今まで出会ったこともない。今回は、檻を焼き切るために魔法を使うが、敵兵相手には使う必要などきっとないだろう。

  

 薄い雲が広がる空から、地上の様子を眺めていると、護衛の兵士達など軽く踏み潰せてしまいそうだ。だが、油断してはいけない。ヒューゴとパリスだけなら簡単に敵を倒せるだろうが、無紋ノン・クレスト三名を傷つけないように、そしてラダールとマークスに乗せるとなると慎重に動かなければならない。

 パリスは気を引き締めて、ヒューゴに伝える。


「じゃあ、行くわよ。油断しないでね」

「パリスもね」


 ヒューゴを乗せたラダールが急降下していく。その風を切る音の中、パリスもまたマークスとともに地上を目指した。

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