作戦開始前(救出作戦)
四つの部隊が同時期に別の場所を攻撃し、王族と
前戦を大きく迂回し、深夜の森をセレリア小隊は目標の補給基地まで馬をひた走らせる。翌日の昼、作戦開始予定。それまでに目標地点まで到達していなければならない。王族と
「みんな、帝国軍の作戦が成功するかどうかは、敵が私達をどれだけ危険視するかにかかっている。敵を無理に倒す必要はない。物資を派手に焼いて撤退し、次の目標に移動します。今日中に二カ所狙うから……大変だけど頑張って」
敵の本隊は、味方の本隊が目の前に控えているために動けない。だが、それは味方にも同じ事が言える。パトリツィアは、敵本隊の背後に別働隊を動かし、セレリア隊、ヒューゴ隊、イルハム隊へ増援を送れないようにすると言っていた。
だが、王国首都方面からの増援には対処できない。セレリア隊も、短時間で複数箇所の補給基地を襲い、敵に損害を与えなければならない。そこでセレリアは隊を分けて二十名超の隊を二つ作り、一方をセレリアが指揮し、もう一方をヤーザンが指揮して広範囲での破壊活動することにした。
セレリアが二カ所、ヤーザンが二カ所襲い、王国首都からの増援が集中しないように動けるかが重要。
目標を攻撃したあとは、戦闘は極力避け敵軍に包囲されないよう撤退する予定だ。
味方の被害を小さくするためには、短時間の集中攻撃と機動力を生かした撤退のタイミングを誤らない指揮官の判断が必要になる。
作戦の重要ポイントを確認し、ヤーザン隊の成功を祈りつつ、森を分けて続く道をセレリアは馬を走らせていた。
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ガルージャ王国国王サマド・アル=アリーフの実弟ハリド・アル=アリーフが、ルビア王国に攫われ囚われていることをイルハム・ジャノフは知っている。そのことを踏まえても、国力の差が大きい故に勝機はなく、帝国との戦争は回避すべきと、サマドに最後まで訴えたのはイルハムだからだ。
ルビア王国王都ゲルムゼンは目と鼻の先、馬を二日も走らせたらハリドを救出できるかもしれないところにイルハムは居る。同じ王族でも、本来助けたいハリドではなく、アスダン国王夫妻とケンガム国王夫妻の救出に向かっている。
イルハムは心の中でサマドとハリドへ謝罪しながら、馬を走らせていた。
イルハム隊は、全員固まって移動していない。
王都南方に合流地点を決め、そこまでは各自別の道を使って移動している。
イルハムの作戦は、全員で王族を救出し、イルハムがゴーレムで敵の追撃を防ぎ、その間に他の隊員がそれぞれ王族一人ずつ馬に乗せて退避するというもの。
想定通りの警備体制であれば、十分に成功するとイルハムは考えている。
これまでの訓練とブロベルグでの魔獣討伐で、隊員達の力は十分に信用できるものと確信していた。
レーブはもちろん、ケーディア等の武力も一般兵程度ならそうそう痛手を負うようなことはないだろう。比較的剣が苦手なダニーロは、近距離ではイルハムがサポートすれば良い。彼が居れば、中長距離では有利に戦いを進められるだろう。
救出作戦開始後の戦いを想定し、イルハムはハリドのことを忘れようと努めていた。
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「よいか? 別働隊の頭数は少なくてもいい。敵本隊の背後を騒がしくできれば良いのだ。危険を犯してまで敵を倒す必要もない。弓を打ち込み、反撃してきたら移動せよ。本隊は紅龍を前に出し、火竜を並べて敵本隊に向けて進む。こちらも敵が反撃してくるようなら下がり、攻撃が止んだら再び前に出る。各隊は火竜の背後から弓を撃て。敵の数を減らそうとか考えるな。敵陣に打ち込めればそれでいい。以上だ。作戦開始は明日の昼。それまでに弓の準備を整えておくように」
パトリツィアのテントに集まった各指揮官は一礼して外へ出て行く。残った幕僚の一人が作戦の目的を確認した。椅子に座ったパトリツィアは、意味ありげな笑みを浮かべて答える
「明日になれば判る。結果は別にして、敵に疲労と困惑を与えることはできるだろう。こちらの思惑がわかった時に、メリナ・ニアルコスがどう思うか……それが楽しみだ」
ルビア王国の統龍、金龍を使役するメリナ・ニアルコスが、王族と
もし安堵するようならば、ロマーク家に縛られている
そうではなく悔しいと思うようならば、極力避けたいが、ルビア王国領土を紅龍のブレスで荒野に変える日がくることも覚悟しなくてはならない。大陸の覇権に動くルビア王国との衝突が避けられない以上、帝国の統龍紋所持者としてはこれに勝たねばならない。
――まぁ、士龍を持つヒューゴがどうにかするかもしれないがな。
士龍の意思はともかく、ヒューゴの意思が統龍同士の戦いを避けるものであるなら、紅龍も金龍もその意思に従わねばならない。
「この時代に生まれて良かったのかもしれぬ。もしやすると……だがな」
周囲には判らないほど小さな声でパトリツィアはつぶやき、明日の作戦の行方に思いを馳せていた。
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