救出作戦案

 一日半の移動後、セレリアと合流したヒューゴ達は、セレリア小隊のテントで早速今後の対応について話し合う。昼食の時間にかかっていたので、パンをかじりながらの打ち合わせとなった。打ち合わせには、セレリアとヤーザン、ヒューゴとイルハムの四名が参加した。


「王族と無紋ノン・クレストの救出は別々の部隊で行う予定です」


 ヒューゴが出した案は、ルビア王国の方針から見て警戒が濃いだろう無紋ノン・クレスト側をヒューゴとパリスの二人で、王族側をイルハムが指揮した六名で行うというもの。


「王族側の警戒は薄いという根拠は? 立場を考えたら逆のように思えるの。今の話だけだとどうも不安だわ。それに、ヒューゴとパリスちゃんの二人でという点も正直危険すぎないかしら?」


 セレリアはヒューゴの案への疑問をあげた。


「セレリアさんのお話はもっともだと思います。ただ、ルビア王国は無紋ノン・クレストを排除することに執着しているのは明らかです。既に占領された北方のライアウル王国でも、無紋ノン・クレストは処刑しましたが、王族は服従を誓わせ、税を多少徴収するだけです。無紋ノン・クレストの排除こそが、ルビア王国が周辺国侵攻する最大の目的だと僕は判断します」


 だから警備も無紋ノン・クレスト側に多く配備しているに違いないとヒューゴは断言した。個人的な事情を知らない者には判らない、怒りの熱い空気がヒューゴの言葉にはある。しかし、感情的な判断ではなく、状況を冷静に見つめて出した結論であった。


「僕とパリスさんの二人で警戒が厚いだろう無紋ノン・クレスト側を攻めるのは、ラダールとマークスで無紋ノン・クレスト三名を避難させます。指示さえしておけば、僕とパリスさんが乗っていなくても避難場所まで運ぶでしょう。そしてラダール達が戻ってきて僕等を探し出してくれるまで、包囲してくる敵とその場から逃げながら戦うことになるでしょう。安全なところまで逃げ切れたら、そこでラダールを呼ぶかもしれません。ですが、敵の囲みを突破できそうになければ……」

「できなければ?」

「士龍の力を全力で使うことになります」

「どうなるの?」

「数年前、パリスさんと狩りに行った時に、試しに全力に近い力を出したことがあります。その時の僕はとても好戦的になってしまい、必要以上に獣を殺していました。見かねたパリスさんが、僕に近づき平手打ちして止めてくれたんです」

「状況を冷静に判断できなくなる……」

「はい。僕の中の士龍は、精神が成長し強くなればそんなことはなくなると言っていました。ですが、今の僕がどの程度まで成長しているのか判りません。ですから、万が一の時にはパリスさんに止めて貰うつもりです」

「ヒューゴを止められるのはパリスちゃんだけなの?」


 残念な表情をしてヒューゴは横に首を振る。


「判りません。でも、命の恩人でもあり、家族同然にずっと過ごしてきたパリスさんには攻撃しなかった。判っているのはそれだけです」

「ヒューゴが全力で士龍の力を使うとき、パリスちゃんが居なければ凄惨な状況が生まれるかもしれないということね。判ったわ。あなた達を信じることにする」

「ありがとうございます」


 無紋ノン・クレスト救出の件についてはこれで止め、王族の救出について作戦を練る。

 こちらは、セレリア小隊も参加することとなった。


 イルハム達の動きを悟られないよう、王都方面北側に配置されている補給部隊へセレリア達は攻撃する。統龍同士が、自らの破壊力を恐れたまま対峙し動けない状況を帝国軍が打開するために、ルビア王国軍の兵站へいたんを混乱させようとしていると思わせれば良い。ガルージャ王国でのカノール基地攻略の際と異なり、成功しなくてもいいから、目立つ動きをして敵の関心を集めれば良い作戦だ。


 セレリア達へ敵が対応している間に、南側からイルハム達が侵入し王族を救出する。こちらはイルハムのゴーレムがあれば、追っ手を防ぐことができるので、包囲さえされなければ逃げ切れるだろうと、ヒューゴとセレリアの意見は一致した。


 ちなみに、セレナは駐屯所で待機だ。


 敵味方の本隊、セレリア達の陽動部隊、ヒューゴ達の無紋ノン・クレスト救出隊、イルハムの王族救出隊の四隊が、それぞれ同時期に動けば敵は戦力を集中できないはず。

 本隊以外は各個に包囲されないよう注意すれば、十分成功の確率は高い。

 ヒューゴとセレリアはそう考えている。


「パトリツィア閣下にも、この作戦は報告しておく。本隊から部隊を借りるわけじゃないし、本国からの指示に沿った作戦案だから許可しやすいでしょう」

「許可が下りなくても、僕たちは動きますよ」

「判ってる。でも大丈夫よ。本格的にルビア王国占領を目論んでいるなら別だけど、牽制作戦が失敗した以上撤退を考えていたパトリツィア閣下は、本国の指示を達成して早く本国へ戻りたいはずだからね」

「判りました。僕たちは明日にでも作戦開始できるよう準備を始めます。救出目標が、王都へ到着するまでそんなに時間の余裕はないですからね」

「ええ、そうして頂戴。ではこれから、ヌディア回廊を急いで抜けて、ルビア王国側のパトリツィア閣下のもとへ向かいましょう」


 ヒューゴ、イルハム、ヤーザンの三名は頷き、ヤーザンを除く二名はテントを出る。


「イルハムさん。他の隊員達に作戦内容を周知させておいてください」


 そう伝えたヒューゴの視線の先には、檻に囚われ運ばれている無紋ノン・クレストの姿が既にあった。

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