第一章 懐かしき人達との再会
セレリアのもとへ
セリヌディア大陸の中央からやや西にある、大陸を南北に分けるグレートヌディア山脈。
その中央やや南寄りにヌディア回廊がある。
幾つかの村は山脈内にあるが、越えて東西の移動は現実的に不可能であったため、ヌディア回廊はセリヌディア大陸の東西を結ぶ唯一の通路である。
ヌディア回廊を東側……ガン・シュタイン帝国側へ抜けると、フルホト荒野が広がっている。
ルビア王国とガン・シュタイン帝国とで、過去数百年の間に幾度となく行われた戦争、統龍を前面に出した戦争の結果、フルホト荒野には草木はまばらで、黄色い大地が広がっていた。
そのフルホト荒野南部を、馬で二日か三日東に移動すると、ガン・シュタイン帝国軍、南西方面前線基地がある。
ドラグニ・イーグルという、ドラグニ山にしか生息しない鷲の背に乗って、ヒューゴは前線基地近くに降り立った。基地の入り口から、銀の胸当てなどの防具を身につけた、ブラウンの長い髪を風に揺らす女性がヒューゴに近づいてくる。
「セレリアさん、お世話になります」
「いらっしゃい。先日ベネト村で会った時も思ったんだけど、背が高くなったわね。昔会った時は、私の肩くらいだったのに……。今じゃ逆ね」
精悍さの中に柔らかさを見せるセレリアの笑顔は、懐かしい思い出の中にあるセレリアそのままだとヒューゴは感じた。
「あれから十年ですからね。そりゃあ大きくもなりますよ」
「そうよね。それで……基地内に部屋を用意することもできるけれど、どうする?」
「いえ、僕は帝国軍に入るわけではありません。ですから、基地の外で暮らすつもりです」
「そうね。他の目もあるから、その方がいいわね」
「近くに、軍人を相手に商売している集落はありませんか?」
「集落というほどのものではないけれど……
――
ドラグニ・イーグルのラダールは人間の大人より二回り以上大きい。鋭い爪は子供の腕ほどの太さがあるし、クチバシも大人の顔ほどもある。十歳くらいだが、これからまだ大きくなるだろう。
ヒューゴの命令には必ず従うから、敵じゃなければ安全なのだが、知らない人は恐ろしく感じる。
だから人が多く集まる場所で、休ませるのは避けたい。
「判りました。えーと、場所を教えて貰えますか?」
「案内するわよ。これから私の影の右腕になってもらうのだし、それくらいはするわ。あ、ちゃんと給金も出すわよ? これでも一応貴族ですからね。あと生活費の心配はいらないわ。軍の協力者ということで、そこそこだけど手当も出るから」
「お金は、そんなにいりませんから……。ただ、情報集めなどで必要な時に経費を助けていただけたらそれでいいんです」
「ダメよ! それじゃ、私が頼めないじゃない」
「それもあるんです。僕は、セレリアさんと共にルビア王国を倒したい。でも、以前言ってましたよね? 軍の偉い人からの命令には、それがどんなに嫌なことでも従わなければならないって。僕はそうなりたくないんです」
「なるほどね。私の希望じゃなくても、あなたの目的に合わない指示を、私に対して上官が命令してくるかもしれない。その時は断ろうと思っているのね?」
「申し訳ありませんが……」
幼き頃、剣の基本を教えてくれたセレリア。
ヒューゴとパリスにとって、剣の最初の師匠とも考えている。だからできることなら、セレリアの頼みには応えたい。しかし、話が戦争である以上、気の進まないことには関わりたくない。
ヒューゴは、ベネト村を出るときから、相手がセレリアであろうと、この気持ちに従うと決めている。
「うーん、困ったわ。実はね。ルビア王国は今、ズルム連合王国と戦争状態に入っているの」
「それでどうしてセレリアさんが困るんですか?」
「だから、ルビア王国がこれから帝国へ侵攻してくる可能性はほとんど無いの」
「当分は暇だってことですか?」
――村を出るタイミング、悪かったのかもしれない。
いざとなれば戻って、リナには怒られ、みんなからは笑われればいいだけのことだな。
「ううん、そうじゃない。この機に、帝国は帝国南部のガルージャ王国との戦争……ここ三年続いてるんだけど、そっちに力を注ごうという方針なの。私の小隊はそちらの支援に向かうと、さっき命令があって……」
「そうですか。では、僕は一旦、ベネト村に戻った方がいいですね」
「あはは、できればなんだけどね? 手伝って貰えないかな?」
「でも……」
「私が受けた命令で、ちょっと困っているの」
「うーん、他ならぬセレリアさんが困っているなら、とりあえず話は聞かせてもらいます。お話の内容次第でお手伝いするか決めたいです」
「それでいいわ。では、あなたの宿を決めに行きましょう。話は昼食と一緒にね」
セレリアが歩き出し、ヒューゴはその後をついていく。
ヒューゴが動き出したとたん、ラダールは羽を大きく広げ上空へと舞い上がった。
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