第144話

馬車は二台で二往復し、15・6人の隣組の人々は汽車や自転車で荷物を運んで下さった。倉庫には未だ家具等を残しておいたが、母が折角求めて喜んでいた膳椀は、とくにお世話になった向かいの佐々木さんに差し上げた。

止若駅へ降り工場の社宅へ向かい、丘の上でおにぎりの昼食をした。大勢のお手伝いの方達のお陰で、何とか荷物も収まり六畳三間の部屋にベニヤ板を敷き慰労会と送別会が行われた。


戦時下とはいえ今日ばかりは酒もあり賑やかな宴となった。

お隣の柴田自転車屋さんの、みさおばさんが今も家で使っている包丁で、お刺身を上手に作ってくださった。「此の包丁はいい包丁だ」と言っておられたのを思い出す。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る