#6

あ゛ぁ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛────


 呼応するかのように、がんがんと鈍器で壁を殴るような音が不規則に鼓膜を劈く。

 気付けば扉側の壁に亀裂が横断し、ミシミシと悲鳴を上げていた。

 

ぅ ぉお゛て゛ぇ゛い゛ち゛ゃ ぁ゛ぁ゛あ゛ぁ゛ん゛こ゛ろ゛じで ぇ゛────


──え?

 鼓膜が張り裂けそうな阿鼻叫喚の中、夏海は何かを聴き取った気がした。

 唸りだした壁の側面はもう耐久値も僅かと思われた。

 ハッと我に返った夏海は必死の形相で立ち上がると、転けそうになりながらも思い切り地面を蹴った。

「う゛っ!」

 しかし、残り火のように消えかけていた脚の痛みが夏海を襲った。

 なんとか片手でフィルターに掴み掛かると、何かが壊れたような衝撃が腕に伝わった。見上げると、片方の金具が外れかけていた。

「痛ッ! あぁああぁ!」

 掴みかかった衝撃で分からなかったが、どうやら人差し指の爪が剥がれたようだ。目視できないが、尋常ではない痛みと感覚でそうではないかと思われた。

 やばい! すぐに登らないと!

 考える猶予も無く、金具はゆっくりと崩壊しようとしていた。

 すべての体重を支えている片腕が鈍い音を立てて痛みを伴う。

 転瞬──ズドンと壁が脆く絶えた事が、その衝撃の大きさで周囲にビリビリと伝播した。

 バギッと悲鳴を上げて外れる螺子。身体をくねらせギリギリのところで通気口に捕まると、持てる力をフルに活用して自身の身体を持ち上げた。上半身が内側へ入ると、這うようにして下半身も中へと入れた。


う゛ぉ゛ぉ゛お゛お゛ぉ゛お゛お゛お゛──

 

 夏海は依然として空間を支配する唸り声から逃げるようにして、目の前に真っ直ぐ伸びている通気口を匍匐状態で前進を始めた。

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ガルダニズム 三隈 令 @mi_mi_mi

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