EPISODE 08 会話 I
「それで、
会議室に置かれているテーブル、その
俺たちが温水プールを出たのが夜7時過ぎで、そのタイミングで
自分の部屋に荷物を置いてから宴会場近くの廊下で待ち合わせた俺たちは、
少し疲れた感じに見えた
夕食後、
何でもホラーサスペンスな海外作品、
ということで、俺たち2人が食事後に
「聞きたいことがあるの」
と
「温水プールの前でも、
テーブルの上に置いてある缶入りのキャンディ、それが目に入ったので、
「どこかで
俺が
返事を待つ間、そんなことを思っていたのだが。
「
その声で思わず
何か思い詰めているような、それでいて何か悩んでいるような、そんな複雑そうな顔をしながら
「あ、声が大きくなってごめん」
「いいよ、気にしてない。続けて」
突然、大きな声で
「中学の2年ぐらいだったか、
「
こう
俺たちが住む地方の中心都市、『水の
今はその大半が埋められて、そこには大きな道路が通っていたりするのだが、その
その
同人誌の
水の都であるこの大都市でも、80年代の後半辺りから
いつだったか忘れたが、サッカー漫画が流行った時、選手のコスプレをした女の子が建物の廊下でサッカーボールを
とは言うものの。
「何かあったかなぁ……」
季節ごとに1回は開催されていたと思う
高校受験前ということで、絵とかは趣味で描いていても良いが、
何かあったっけ……と思い出しながら、テーブルに無造作に置かれたお菓子類の包装紙とかを眺めてみる。
そんなテーブルの上を見ていると、
「まだ、置いてあるんだ」
「あ、本当だ。置いてあるね」
昨日の夜、不思議な輝きを発した紅色の
俺だけじゃなく、
その白い煙のような霧のようなものが無くなった後、視界に映った景色は、
「ここ、あの
俺が言い出す前に、
その声で視線を動かしてみるのだけど
「
「うん、見えてる」
返事をしてみるが、視界に見えるのは
しかし、俺たちが景色を見ている場所というか位置が、
異世界空間で
すると、俺たちの声に反応したのか、俺たちが歩いたり走ったりということをしないまま、目の前に見えてくる景色がひとりでに動きはじめたのだった。
それこそ、見ている側は移動すること無く、見えている景色の方が勝手に移動している……そう言うのが正しいかもしれない。
動き出した景色は
内側にある扉を抜けロビーに出るとそこから左に曲がって進み、エレベーターを囲むように作られた階段を登っていき、2階を通り過ぎ3階までたどり着くと正面に開かれた扉とその横に受付らしき長机が視界に入ってきた。
「ここ、『
確認するかのように
目の前に見えるスペースは『
中は木目の床に古い欧風っぽい柱(美術の教科書に出てくる、中世の建物にあるような柱)という外見からも想像がつく作りになっていて、普段はピアノの演奏会とかにも使われているとか。
長机には入場券代わりのパンフレット置かれ、腕章を付けた私服の男性2人が受付役を担当している。その隣りには、同じく腕章を付けた女性が受付に来ている参加者さんと、何かやりとりをしている様子も見える。
また、受付の横、この日は使用されていない『特別室』の出入口の扉の前に、作品名とかは忘れたがアニメの
(あ、この時なのか)
俺は立て看板に描かれている
「あ、部屋に入った」
部屋の中は漢字の「目」の文字のように通路が確保され、空いた中間の部分と左右の窓際の壁に出展者用の机が配置されている。
そして、角になる通路の
そして、入口とは反対側の壁にも扉があり、その先にお手洗いや階段、1階と結ぶエレベーターがあるのだが、お手洗い以外は
視界から見える室内の通路は、混雑とはいかないまでも来場している人が行き来したり、机の上に置いてある冊子を読む人、売り子さんと話をする人などが見えて、いかにも
(この時、確かイラスト本とか買ったのだっけ)
記憶に間違いが無ければ、この
「で、
「この時は、出入口からは遠い奥だったかな」
通路に沿って移動している視点は、その
ということは、今見えている
しかし、どんな服装で来ていたのかまでは、残念ながら俺の記憶には残っていなかった。
「あ、あの人混みが集まっている場所、そこだったと思う」
バタン!バサササッ!
人混みから何かが倒れたり散らばったりする音が室内に響いた。それと共に悲鳴というか女性の叫び声だったり、「すみません!」と
この
その長机が床に倒れていて、机の近くに居る何人かが散らばった冊子やらを一位集めている。
売り子さんが居る内側のスペースを見ると、中央で座っていたらしき女性が倒れていて、そのあおりで左側の男性も姿勢を崩したのか、床に尻餅をついた格好をしている。一方、倒れた女性の右側にいた女の子は、励ますように女性に話しかけていた。
また、「係員さん、早く来て」だとか「救護室に連れて行ってあげて」という声が、倒れた机近くに集まってきた人たちから聞こえてくる。
倒れ込んだ女性は意識を取り戻したのか、やってきた運営の腕章を付けた人たちに両脇からかかえられながら、エレベーターのある方向に連れられていく。
その姿を見送りつつ、何人かの手で倒れた机が起こされ、床に散らかった冊子や小物、小銭類をその場に居る皆が手分けして集めている。
その人たちの姿を注意しながら見ていると、
「そ、これが私みたいね」
「えっ、この子が
先ほどまで倒れた女性を励まし、今は拾ってもらった冊子などを机の上に置き直している女の子が
そして、机を起こしたり落ちた冊子とかを拾ったりしていたその中の1人が俺であり、女性に巻き添えを食らい床に座り込んでいた男性、脚か何かを怪我したのか痛そうな表情をしていた彼に付き添いを申し出たのが
「そういえば、なんか思い出してきた。あれっ、もしかして
「やっと気づいてくれた。私の本を買う男の子って珍しかったから、何か記憶に残っていたんだ」
目の前に見える映像を見ながら、そんな言葉を交わしていたりする。
自分としても珍しいことだが、イラストが中心の冊子を買うことは普段ほとんど無かったし、あったとしても絵柄とか何か自分の作品作りの参考にするために買っていて、
俺自身が見えている
で、抜け落ちていたといえば。
「しかし
本当にこれは俺も気づいていなかった。
この頃には
「私も『顔を見かけたことがある子がいるなぁ』という感じだったなぁ」
「
4月の最初の頃、休み時間にクラス単位で教室を移動する時だったか、その時に
「そう、顔は知ってたけど話をしたこととか無かったので、
なにげに
気がつけば、
「で、ね、
改まったようにテーブルの
「ずっと『お礼』というか、『ありがとう』という気持ちを伝えたかったの」
「『お礼』って……えっ!?」
この言葉を聞いて、素直に驚いたし戸惑った。
少なくとも、俺自身の中では杏美《あずみん》に何かをした記憶は無いし、
「……俺、何かしたっけ!?」
あれこれ考えていても仕方が無いので、そういう時は
「
そう切り出してから
何か言葉を選ぶような時もあるが、話の最初から最後まで言葉を発している間、
こんなに真っ直ぐに
その
自分も同人誌というものを作る側になって、読者の反応というか「読んでくれた人が、どう読み終わった時に思ったり感じたりくれるのだろうか」ということが気になり始めて、自分でも
俺が書いた感想、その相手の1人が
しかも、思ったままを言葉にした俺の
そして感想を受け取ってから1年以上の間、
しかし、そういうことなら、俺の方も
むしろ影響を受けたというか心に
だから、
だから、
「『お礼』というのなら、俺の方も
面と向かってその気持ちを伝えてくれた
俺は
どれぐらい話をしたのか、正直、話をした時間の長さとか覚えていなかったし、意識をすることもなかった。
ただ、
「……ありがとう、
「俺の方こそ、
最後まで話し終えた後、俺と
「でも、今日、こうして話が出来るなんて……」
顔を上げた
考えてみれば、
それだけに、自分が
……これという根拠とかは無いが俺の直感はそう感じていた。
「また、こうして話せるといいな」
「そうね。また話とかしましょ」
何気ない俺の言葉に返事を返してくれた
その後、時が過ぎて夜の9時前頃だったか、一息入れようと休憩スペースに出てきた俺は、心から満足そうな顔をした
「今日は良い
「
果汁100%のジュースを飲んでいた俺に、2人はそんな言葉を投げかけてくる。俺がホラー映画を見ないことについて
何か2人に言い返そうとも思ったが今更言っても仕方が無いと思い、飲みかけのジュースを一気に
「今日はよく頑張ったなぁ」
夜10時半まで4人それぞれが原稿に向かっていたが、取り組む集中力の方がガス欠気味になってきたので、今日はここまでで終わり!とその時間で切り上げそれぞれの部屋に戻ってきたところだ。
俺は部屋の机にあるノートパソコンの電源を入れると、このところ気に入ったので聴いているアニメ作品の主題歌、その音源を再生させながらベッドの上に仰向けになる。
「しかし、
夕食後の会議室での出来事を自然と思い返してみる。
よくよく考えると、真剣に自分の描く作品とか他の人が描いた作品の感想とか、
深いところの話はしていないのだが、どうして
確かに
そこで俺は、
『やっと気づいてくれた』
その前に、煙の中で見た
だからこそ『やっと』という言葉が
ここで俺は、ある1つの疑問に行き着いた。
「
この4月以来、部室で初めて
これらのこと全てが俺にどう関係してくるのか、そしてなぜ俺の記憶に
次から次へと俺自身が分からないことが積み上がっていく中で、1つもそれを解決できるものが見つかっていないもどかしい感情が大きくなっていくのだが、いつかはこれらのもどかしさが全て解決される日が来るのだろうか。
これからの
しばらくそのままベッドの上で
祝日ということもあるのか、深夜11時を過ぎていうのに大浴場はそこそこ人が居て混んでいる様子だったので、素早く身体を洗った後、露天風呂に行くことにする。
大浴場の中を通り抜けた先にある出入口から露天風呂に出てみたのだが、山の中にあるこの温泉、空気とかはひんやりしていたのだが露天風呂自体はイイ感じというか、湯気が夜の外気に冷やされたのか白く立ち上っているのが見えたりする。
そして露天風呂の一角、浴槽を形作っている岩が椅子みたいになっている場所があったので、その岩を背もたれにしてしばらく
その状態で夜空の星を見つめていると、いつだったか林間学校みたいなところで天体観測をしたことを思い出す。
紙で出来た星座盤を渡されて、夜空を見ながら何の星とか何の星座だとか調べつつ、どこかの学校だったかグループだったか、自分たちも含めて2つ3つの集団が1つの天体望遠鏡、家庭用だとしても結構な大きさのものだったような記憶があるのだが、その望遠鏡のレンズを通して星座盤で調べた星や星座を探して見る、そんなことをしたような記憶を思い出したりしていた。
露天風呂で身体をしっかり温めた後、大浴場から出て服装を着替えた俺は、大浴場近くにある軽食コーナーに立ち寄ると、いくつかある自動販売機の中から温泉の定番と言える
スーパー銭湯とかにある食べ物系の自販機、それこそジャンクフードっぽいものからうどんや
姉貴を見ていると深夜0時を過ぎて食べる
部屋にある机、そこにコーヒー牛乳の
普段の生活では大抵のことがメッセージソフトで片付くので、メールで何か送られてくると言えば、受けている通信講座の連絡とかマンガ・アニメ専門店からの商品紹介みたいなDMが大半なので、最初はそれが来ているのか?とも思ったのだが。
「送り主は……
その表示を見て、全てが黄色や金色っぽい感じで輝いていた
あの時、何か俺が誤解するから
「ん?メール本体じゃ無く
俺は勝手にメールの送信文の本文に
どうやら
「メール本文ではなく、わざわざ文書ファイルにして送ってくるとは」
まだ温かいたい焼きを
送ってきたメール本文に伝えたい内容を書かないということを考えると、俺以外の人間、少なくとも
それ以上に、あの異空間からの去り際に
と同時に、
「印刷して紙で読みたいな」
これは俺の習慣というか
これならパソコンが使えない場所とか、ちょっとした
そう思った俺は明日一番に会議室で印刷してすることにし、自分の手持ちのメモリースティックに
「……寝るか」
気がつけば机の上に置かれている時計が深夜0時を超えていることを示していて、今夜ぐらいは素直に眠りたいという気持ちになっていた俺は、ノートパソコンから流れていた音楽を
普通に部活を楽しみたい あずみ るう @azumiruu
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