EPISODE 07 春合宿 III
「……ということがありまして」
旅館の会議室から最初に移動してきた異世界、西欧風な室内に戻って来た俺たち4人は、自分たちが経験したことを目の前に座る 『
体感時間では1時間とか2時間は経過していると思うのだが、
「ごめんねぇ、まさか女子2人が巻き込まれるとは思わなかったよ」
少し申し訳なさそうな顔をしながら、
現実世界では夜10時を大きく過ぎた時間、「深夜」と言われている時間帯にまさか誰かと対決をするとは、さすがの
最初にこの異世界に来た時と同様、女子2人はソファーに座り目の前に置かれたテーブル、そこにあるサンドウィッチやクッキーといった「軽食」という
夕食も終えてからバスケットの試合をさせられたのでは、いくら体力には自信がある
ましてや、普段は運動とか
「それで、俺たちがここから教会や学校の体育館に移動し、女子2人がバスケの試合をした時間って、実際はどのぐらいの長さなんですか」
少しお腹を満たした辺りで、俺の隣りに座っている
「現実世界での時間ってこと!?だったら50分ぐらいかな」
「50分……授業1時間分ってこと!?」
「じゃあ、あたしらは体育の授業を受けたっていうことみたいね」
ということは、今は夜の11時半以降、ほぼ真夜中に近い時間となるのか。
教会を見学している時間も5分10分という短さではなかったし、黄色というか金色というか、キラキラとした輝きに包まれた
もしかしたら、俺たちがあちこと飛ばされた先での時間は、元々俺たちが過ごしている世界とは時間の流れ方が違うこともある、そう思わずにはいられなかった。
昔読んだ童話『浦島太郎』だったか、移動した先の竜宮城では数日でも元の現実世界では実は数十年か経過していた(玉手箱を開くことで、浦島太郎自身も実年齢に変化した)、そんな描写があったことをふと思い出したりする。
だとすれば、『
「だけど、」
女子2人に紅茶を渡していた
「夜遅く移動した世界で
「夜に対決ってこと自体珍しいかも。というか、この子たちが今日対決してるとか予想もしなかったわ」
少し考えるような顔をしている
俺たちを送り出した側としても想定外だったということなのだろうか。
「明日……
5月の3日、『
しかし祝日であるこの日、
確かに、予定があって家族と一緒に行動とかなれば、そこから離れて出かけるということも難しいだろうし、今年は明日の火曜から水曜・木曜と3連休となり、6日の金曜日を挟んで7日と8日が土日の休日というカレンダーになっている。
そのため、
「あの子たちにも何かがなければ、今日こうやって対決とかしたくなかったんじゃないのかな」
小声でこぼした俺の言葉に
「姉貴みたいに大学生でもない限り、親と一緒に行動することになるよなぁ」
そうだよなぁ……と思いながら俺は返事を返す。
俺の家に
「とにかく、明日も真面目に原稿を書きなさいね」
よしっ!と区切りを付けるかのように、
「今日はここから離れたらしっかりと眠って、明日の朝、ちゃんと起きなさい」
俺たち4人と
「ん……ここは、俺の部屋!?」
霧が晴れたと思ったら、泊まっている旅館、その自分の部屋にある机の前に立っていた。
それにしても、魔法をこんなに便利に使っていいのか?と、少しだけ考える自分もいるのだが。
そんなことを考えつつ、自分の目の前にある部屋備え付けの机を見ると、ちょうどイイ具合に、自分の視界の中にデジタル時計が目に入ってきた。
昨日の夜にも時間確認に使った机上時計、そこには5月3日午前0時2分という文字が表示されていた。
「2日続けてとなると、身体に
多分、
そして洗面所に行き歯を磨いた後、
朝、卓上時計から
「時間は……午前7時31分?」
俺はいつ起床時間を時計に設定したんだ!?状況から推測すると、俺が設定した時間は7時30分なのだろうが、俺にはベッドで横になってからの記憶が無いので、「いつ設定したんだっけ」と思ったりもする。
でも、今から二度寝するには目は
ということで昨日の汗を流しておこうと思い、1階にある大浴場にいくことにした。それにしても、24時間開いている大浴場というのはありがたいものだ。
着替えとかタオルとかを持って大浴場に向かい、服を脱いでから浴室に入ると、「よっ!
「おはよう。
一足先に
小さい頃から一緒だと行動も似てくるのか、やはり
俺はかけ湯をしてから先に身体を洗うと、ジャグジーから移動してきて湯船の中央辺りに陣取る
ちょうど湯船の中央に龍っぽい動物の石像、その開いた
そして龍っぽい石像だが、よくよく見ると、東南アジア辺りにあるマーライオンとかいう奴にも見えないこともなかった(違うかもしれないが)。
「昨日は、お疲れさん。眠れたか?」
「
元気な声で返事が返ってきたので俺としては一安心だ。
お互いに部屋に戻ってすぐに熟睡した分、程よく心地よい温度のお湯に
「でも、俺たちよりも
実際、動いた量を思うと、
「
ふと漏らした俺の言葉に、
「
「確かに」
「今日ぐらいは、何事も無く、
「そうだよな。こう毎日予測できない何かが起きていては、俺たちだって余分な体力を使うし、身体が持たん」
俺の言葉に、
時間にして20分から30分の間、朝風呂に入っていた俺と
祝日となった今日・3日だったが、昨日の夜から泊まった人も多いのか、座席待ちの人数も心持ち増えているように思えた。
待ち始めてから5分から10分ほど待っていて、あと何組で自分たちの
「2人
目ざとく俺たちを見つけた
ちょうど人の入れ替わるタイミングだったのか、一気に食堂の座席が
「あっちのテーブルにしようぜ」
俺たちの番になると、
「あっちか、いいな」
出入口から遠い場所だけあって、いい感じに空いた席が固まっている。これなら、女性陣3人も同じテーブルに座ることが出来るだろう。
昨日同様に俺たちは、適当にパンやドリンク、サラダ、おかず類を選び終わり、出入口からは離れた位置にある窓際の席に並んで座ったのだが、その頃になって
その姿を
「そっちね、分かった」
「何か腹が物足りなくて」
昨日と同じ分量では未だ満腹感にならなかったので、こう言いながら追加で食事を捕りに行く俺。ハッシュドポテトとかベーコンエッグ、ロールパンといったものを追加で取りに行ったのだが、隣りに座る
席に戻ってきた時に、何気なく視界に入った女性陣の食事を見ると。
気のせいかも知れないが、昨日よりは1つ2つ多く食べ物を乗せた小皿が増えているようにも見える。まあ、俺たち以上に動き回ったというか、夕食後にバスケの試合までこなしたのだから、その分、この朝の食事で食べるのも不思議じゃないとは思う。
そう思うと、
「そういえばさぁ」
食べながら偶然目が合った
「今日、4人が半分ぐらいまで原稿が仕上がっていたら、気分転換に温泉プールに入ってくるといいよ」
腰に付けたポーチを開いて、俺にチケットらしきものを渡してくる
「先輩たちが入ってた温水プールか」
チケットを握った俺の手から1枚を抜き取って、
「そういえば、2年の先輩たちが言っていた休憩スペースもありますね」
手元にあるポーチから
俺たち4人は改めてパンフレットを見終わると、
「で、どうなの、あんたたち。原稿の進み具合は順調かい?」
オレンジジュースを飲み干した
「昨日の時点で、『明日の夜に、原稿を半分仕上げる』がノルマでしたね」
「そうよ、
「……いうことは、
「
「あれっ、
俺と
「今日は朝から昼過ぎまでは美術展、それから美術の先生のところに行くから、
大広間での夕食、ここに泊まるお客さんが増えているみたいだけど、それでも時間とかが初日と同じならば時間としては夜の7時、それなら、路線バスも動いている時間だし、何ならこの旅館が
俺たちの住んでいる
合宿前に、軽く
そして
また、駅前から東に向かうバスに乗ると、
「じゃあ、あたしは先に出かけるから、みんなはしっかり原稿を仕上げて、温水プールでリフレッシュしなさいね」
グラスや皿を綺麗にトレイに乗せた
「なぁ
「いや、俺も知らない。文化会館か、バスに乗っていく」
「『
「え、そうなの!?」
フルーツセットのバナナを食べていたらしい
「というか、
「そ。チラシにそう書いてる」
そう言いながら、
そこには『
「展覧会は朝9時から夜6時までなんだ」
「だから、夕食の時間には
「早く入稿できれば、『
「でも、原稿の方は大丈夫なの?5日の金曜日、その夕方には入稿しないとダメじゃなかったっけ」
「あ、でも」
そんな2人の会話に
「朝のお風呂から出てきた時、
「本当なの?」
予想もしていなかった言葉に、真っ先に
「お風呂に入っていて、
「それで、
「先生の家の都合で、私たちや持ってきた機材を引き上げるために車を出せるのが、土曜日の6日しかダメなんだって。で、私たちの原稿の進み具合とかを考えて、もう1泊して土曜日の夕方まで『
「確かに、会議室のものを動かすのをそうだけど……って、よく会議室が土曜まで
「なんでも、『
確かに今年は5月の1日が日曜日で、そこから次の日曜日、8日まで連続してまるまる1週間休む人もいて当然だけど、会社とかってそういう時期にこの手の部屋を使わないのかな?と、ふとそんなことを思う。
「でもさ」
「目標としては金曜日の入稿を
「そりゃ」
「そうよね」
「今から先輩たちに『甘えている』とは思われたくないよな」
「そこはわたしも同じよ」
俺の返事を聞いた
「じゃあ、頑張りますか」
「確かに、今日は順調に進んでるな」
そう言って、目の前にある小分けされたクッキーの袋、その1つをつまみ上げて包装紙を破り、ほい!とクッキーを口に放り込む
午後3時のおやつ時間、それぞれのブースから出てきた俺たち4人、先輩たちが差し入れてくれたお菓子をつまみながら休憩していた。
女子2人は何をしているかと言えば。
「へ~っ!
「まさか、絵のタッチがこんなに繊細とは思わなかった」
「そっ、このデカブツでこんな少女マンガ風の繊細な絵を
クッキーをもう1枚口にくわえながら、
「そりゃどーも」
ちょうど身体の近くにあった椅子に座ると、袋を大きく開いたポテトチップスを俺は数枚
マンガを描く俺と
昼ご飯も軽めに済ませて原稿に集中したためか、夕方には半分を少し超えた辺りまで描き終わる感じで進んでいる。俺だけで無く、残りの3人も同じというのだから、夕食前に温水プールでリフレッシュが出来るのも夢物語じゃないペースだ。
女子2人がノートパソコンから離れて、それぞれ何かお目当てのお菓子を探している間に、今度は俺と
「やっぱ、
「だよなぁ。生き生きした動きを感じるよな」
マンガを
そして、今度は
「……自分の体験を
「でも、主人公の女の子の感情の揺れを、丁寧に優しく描写している」
夏休みを過ごす女の子の1日を書いている小説なのだが、公園で他の女の子とのバスケットボールを遊んでいる描写は、異世界での対決をモチーフにしたようにも思えた。俺だけじゃない、
一方、
「あと少ししたら、休憩終わりにするよ」
ミニサイズなインスタントのうどん、それを美味しそうな顔をしながら食べている
「じゃあ、3時半から開始で、5時45分から6時の間で一度区切りましょう」
食べている途中のうどん容器を机の上に置くと、ノートパソコンを開いて手慣れた感じで
休憩後、俺たち4人は予定の半分より少し多めなところまで原稿を進め、夜6時を迎えた時点では
「しかし、ずっと座りっぱなしだと、なんか腰が痛いような」
「
「でも、腰に負担が来るのは本当だから、気をつけないと」
俺の言葉に反応して、素早くツッコミを入れてくる
書き上げた原稿を、ローカルとサーバー、その両方に保存する作業は
「あ、一度水着を取りに部屋に戻らないと」
「そうだなぁ、でも夕食前に荷物を置きに部屋に戻れるか?」
「でも、エレベーターとか
「コインロッカーとか無かったっけ、大浴場にあるような奴。あればそこにしまえば
「コインロッカー……あったかな!?」
「保存、終わったよ。温水プールにはロッカーあるって、パンフレットに写真が
保存作業を終えた
「あ、
「じゃあ、温水プール前で」
そう言って会議室を出た俺たちは一旦自分の部屋に戻ると、水着を持って温水プール受付前で待ち合わせることにした。
……のだが。
「お!
温水プールの受付で、プールから出てきた
「この
「そうだけど、
しっかりと泳いだのだろう。
「こんばんは……」
「
俺たち4人、ある意味「意外」と思える組み合わせの2人に驚いている中、気持ちを建て直して俺が声を掛ける。
水着の入った
「じゃっ、休み明けに学校で!」
「あ、待って……またね」
一足先に歩き始める
俺たちは何もリアクションが出来ないまま、小さくなっていく2人の背中を見送るだけだった。
「……
「あの2人って……そういう関係なの??」
水着に着替えて、
温水の
「俺も知らん。あの2人が一緒にここに居ること自体に驚いた」
まさかという人物が想定もしない相手と一緒に登場する。そんなことが起こっていることに、まだどこか俺自身も対応出来ないままでいる。
「
「そうだけど、それがどうかしたの?」
「なんだか……」
そう俺に話をしようとしていた時。
「ギャ!」
叫び声をあげた
「よっ!?元気か」
「こんばんは。
誰かと思えば、水着姿の
その
「……な、なんでいるんだ!?」
偶然と言うには出来すぎていると思った俺は、そんな声を2人に掛けていた。
「
市役所駅の近くにある全国展開のドーナツ屋、そこで
「でも、予備校時代から教室とか同じで顔見知りだったし、
「それじゃ、休み明けに」
「予備校って、
「そうだけど、授業を受けるクラスが違うから一緒にはならなかったな」
思い出しながら
「
「そうねぇ……
中学の頃から予備校に通っていた2人だったが、その頃の記憶、しかも予備校のこととなると思い出せないのも無理はないか。
空想世界のような
偶然にしても出来すぎのような出来事だったが、時間も限られているのでそれについて考えることを止めて、俺たちは少しの間だけ温水プールで思い思いに泳いだりしたのだった……。
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