第2話

第2章 町と街


1


男と話して、2週間が経っていた

普段通りの生活をしつつ、合間に合間に、ある町について思索をしていった


町とは町全体と指すようだ

街とは町の中にあるものを指すようだ


なんてどうでもいい事も考えつつ、思索を重ねていった


といっても何から何をすればと考えたまま1週間が過ぎ、考えをしぼった方が良いなという考えに至り、まずは商店街の事について考えてみようと思った

その間に男からの連絡は無かったが、何かと先読みする人だったから、こういった事も予想がついてるだろうと思い、そこから考えを絞り込んでいった


そして考えを絞りはじめて1週間経って思いついた商店街のための案を男に伝えてみようと電話を握りしめた

電話の条件は本人同士の確認も含めて、テレビ電話ともなっていたため

テレビ電話の発信をした



ープルル、プルル…


4度ほどコールが鳴ると、男が落ち着いた口調で電話に出た


「はい、こちらハーフワールドカンパニーのオダと申します。

お電話ありがとうございます。


…何か良い案が出ましたか?」


ー期限が過ぎていた事には触れもせず、案が出たことを知っているかのように聞いてきた


「…ええ。やっという感じなんですが、まず商店街から考えてみました。

ホントに思いつきのところもあるので、うまく行政の方のほうにはお伝えして頂ければと思います。」


「おまかせ下さい。思いつきが大事な部分になってきますので、なんなりとおっしゃって下さい。


それから具体的に詰めていって行政にはお伝えしますので…」


「…ありがとうございます。

まずなんですが、商店街のリニューアル化をしていきたいと思います…」


ー商店街のリニューアル化

それはまず、通り自体に特徴を持たせるということ


通りの外装を洋館に変えていき、レトロな雰囲気にしていく


通りを十字と斜め十字の計4通りの商店街として、それぞれの通りに「浪漫通り壱番街」のような名をつける


通り周辺にある様々な店に招致をかけ、商店街に来る店には、特典や内装リフォームの負担などの扶助をして負担がほぼかからないようにする


中でも周辺以外の店であっても、人気店などには暖簾分け優遇措置をして、商店街の目玉になるようにする


飲食店などで使用する食材は、郊外の農村部で製造したものを使用するほど、その店に加算があるようにする


各通りの一本横道には郊外まで伸びるバスをピストン化し、各商店街の終点地にバスを巡回化し、さらに各郊外地の終点地にもバスを巡回させて、各バスに荷物車両を連結出来るようにして、郊外の農村部から食材を運送する時に使用出来るようにする



ー話しをしていくうちに、考えていた事よりも次々とアイディアが湧いてきた。


男はゆっくりとうなずきながら話しを聞き続けていた


その様子がなおさら話しやすい雰囲気を出しているのか、気づけば20分ほど一方的に話していた



「…すいません。なんか一方的に話してしまって。

ホントに思いつきのままに話してしまいましたが…

いかがでしょうか?」


ー男は画面の中でゆっくりと首を横に振ると

「いえいえ、とても思いつきとは思えないくらい、しっかりと具体的に考えていらっしゃるなと感じましたよ。

もちろん予算の事もあるので、その部分に関してはわたくしの方で行政と交渉させて頂くので、さらに付け加えたいことありましたら何なりとおっしゃって下さい。」


ー予算の部分も心配だった

ただ単に思いつきで言っていっても、その町として出来る事には限りがあるだろうと思っていた

ただ、オダはそういった心配は無いともいうような表情で、こちらの言葉を待つように微笑みながら見つめていた


その姿が後押しするように、さらに言葉を出させていった

「…出来れば、駐車場の整備もしたいんです。

そこにも商店街利用者には特典が付くような…」


ー無理を承知で駐車場の案を話していった


各商店街終点地に、地下駐車場をつくり、その駐車場の形は縦長の観覧車のようにして、各300台駐車できるようにする


各商店街の中心地にも駐車場をつくり、合計1500台が駐車でき、駐車時に発行される駐車券をバスのICにタッチすると無料で乗れるようにする



「…といったところなんですが、予算的に厳しくないですか?

ひとまず、今回お伝えしたい事はここまでになりますが…。」


ーオダは変わらず微笑みを浮かべ、ゆっくりとうなずき

「とても良いではないですか。

予算も大丈夫なように交渉してみます。


今回はここまで案がまとまってあったので、直接会って打ち合わせしなくても大丈夫かと思います。

しばらく交渉に入りますので、その後の経過はこちらからご連絡させて頂きます。


ほかにご質問や、お伝えしていない事などございますか?」


ー予算も大丈夫なようにって…


そんな不安をかき消すかのように

オダの瞳は必ず出来るような確信に満ちた光を放っていた


そして、その瞳に返事を導き出され

「…とくにありません。

うまくいきますよう、どうか、よろしくお願いします。」


ーはたしてどこまで具現化出来るのだろうか


期待と疑いが胸の中を交錯していた



2



オダに町の事を伝えて1週間ほど経った


無理を承知でのこと、いろいろ交渉してくれているのだろうか


それとも、ここまでなら出来ますとオレに上手く話す事も考えながら協議してるのだろうか


…そもそも協議自体がまだかもしれないな



いろいろと考えていると

ーピピッピピッピピッ…

オダからだ


なんだかんだで、期待をしつつ、携帯の通話を押した


「オダでございます。

決定した事がございますので、お伝えさせて頂きます…」



珍しく、会社名を名乗らずに名前だけを名乗り、足早に話しを伝えようとしていた


その事を言うと、決定した事が嬉しく、早く伝えたかったのと、これから何度もやり取りをするのに、簡潔にしたかったそうだ


「…それでは早速、商店街のリニューアルの件からですが、商店街の住民一致で採択されました。

明日より工事に入りまして、約1ヶ月後には商店街がレトロに一層されます…」


「ちょ、ちょっと待ってください。

なんか、全てが早くないですか。」


オダの言葉をさえぎるように、思った事を言った


「…そうでしたね。

この事もみなさんはじめは驚かれるんですが、ここの町の規則がありまして、決まった事に関しては、即刻開始出来るという事になってまして、決まった事に関しては一気に進んでいくようになってます。」


「…はぁ。」


少し納得出来ない感もあったが、ひとまずその町にその事で問題が無いのであれば良いのかと思い、特にそれ以上はつっこまなかった



「…よろしいですか。


続きの方を話させて頂きます。

商店街のアーケードに関しても、元々の通りを活かしつつ、十字とナナメ十字の4つの通りになるように整備していく事が決定しましたので、こちらも約1ヶ月程で整備される予定です。


バスに関しましては、郊外からそれぞれのアーケードにバスをピストンのように、まずはやってみる事になりました。

その後の乗車率などを見ながらどうしていくか決めていくとの事です。


地下駐車場に関しましては、既存の駐車場とも連携しつつ、足りない部分を新たに駐車場を設置していく事になりました。

バスとの連携に関しては、まずは一律200円

からで、ICカードに関しては駐車場の整備に合わせて開始出来るようにしていくとの事でした。


飲食店に関しては、招致が上手くいって、各アーケードに目玉となるような店が5店舗ずつ出るようになりました。

食材も郊外の農作物を使用すると、その分そのお店にも加算が支給されるようにしていくとの事でした。


既存のものを活かしつつにもなるので、全て1ヶ月程で出来るとの事ですよ。


…何かここまでで足りない部分とかございますか?」


オダは一気に話し終えると、画面の向こうでゆっくりと水を一飲みし、こちらの応えを待つように、両手を顎の下に組んでニコニコしていた



ーしかしまあ、ほぼほぼ具現化してくれたと言ってよいだろう


既存のものを活かすのも、予算とか考えると当然の事だろうし


何より、こんなにもとんとん拍子にいくと思わなかったな


でも、ダメなら採択されなかっただろうし、決まったって事は納得の上ですすめてるんだろうから、まあ大丈夫なんだろ



「…とくには。

うまくお伝えして頂き、実現化して頂き、ありがとうございます。

正直、とんとん進んでびっくりしていますが、それ以上に良くなっていく事への期待もあって、今後の発展を聞くのが楽しみです。


率直にそう伝えると、オダは嬉しそうな表情で


「そうですか。

それでは、ひとまず町の整備がひと段落してから再び連絡させて頂きますので、その間に思いついた事や、何か疑問質問などありましたら、いつでもご連絡頂いて結構ですので。


では、またご連絡お待ち下さいませ。」


そう告げると、オダは一礼してテレビ通話を切った。



ーなんにせよ早いな

まあまた経過を聞いて今後の事をまた考えていけば良いかな

でもなんだか今までにないくらい楽しい



いろいろ整備が済んだら、その町に行ってみたいな




3


オダの電話から1ヶ月程経った頃

自分自身の日々は何事もなかったように

いつもの日々をいつも通り過ごしていた



ーピピッピピッピピッ…

オダからの電話だ


少し弾むような気持ちで通話に出ると


「オダでございます。


予想はおつきかと思いますが、無事に予定していた整備がほぼ完了したとの事です。


これからバス等の経過をみて、以前言われていた事もすすめていけるようにするとの事でしたので、期待してお待ち下さい。」


オダがそこまで述べたところで


「…あのっ。

その町なんですが…」


そこまで言うとオダと言葉が被さり

「…行ってみたいです

「…行ってみますか


「…ハハッ。

では早速行く段取りを組みましょう。

ご都合の良い日をいくつかピックアップして、メールでお送り下さい。

わたくしの予定とも照らし合わせて予定つくりますので。


そうしましたら、百聞は一見にしかずですから、その行った時に同時にお話ししましょう。」


そう言うと、オダは一礼し通話を切った


早速、予定を確認し…

とは言っても、何も予定という予定も仕事以外にはないのだが

空いている日にちをメールにしてオダに送った


数分後、オダから返信があり

日にちと時間が書いてあり、集合場所はオダと直接はじめて話した民家だった



数日経ち、約束通りあの民家に着いた


インターホンを押し、中に入ると、いつもよりラフな格好をしたオダが立っていた


あまりにかしこまった格好してると、その町の住民に怪しい目で見られるという



早速、外にとめてあった車に2人で乗り込むと

はじめの条件の通りに、アイマスクとヘッドホンをつけて、目的地へと向かっていった



ーどれぐらいの時間がたったのか

なんせ何も見えなく何も聞こえなく


はじめのうちはドキドキ感もあったのだが、


だんだんと眠気にも襲われ


気づけば眠りについていた




「…着きましたよ。


早速行きましょうか。」



オダの呼ぶ声に目を覚まし、寝ぼけまなこで車を降りた

アイマスクとヘッドホンは、起きる前にオダが取っていたようだ



周りを見渡すと、辺りは山々に囲まれ、農家風の家がポツポツと点在していた


少し遠くにはビルらしき建物がうっすら見え、おそらくその辺りが中心街であろうことが分かった


オダが以前に話していた通りの周辺の状況だった


本当に実在する場所なんだな…

と実際に見ると、疑いの気持ちが無くなっていった


農家風の民家の周りには田んぼが広がっていて、頭から頭巾をかぶった年配者が農作業に勤しんでいた


しばらく田んぼの間の農道を歩いていくと、バス停が見えてきた


バス停の看板には、「中心街ピストン」と表記されており、1時間おきのバスの時間となっていた


バス停の近くには野菜等を販売している直売所があり、オダの話しによると、各方面の郊外のバス停近くにもあるとのことだった



バスにオダと一緒に乗り込むと、バス内の表示に一律200円とあり、出口ドアの近くにお金を入れるボックスが置かれていた


バスの中には農作業をしていた人と同じような格好をした年配者も乗っており、野菜をバス内の運搬用ボックスの中に積み込んでいた


ーオレが提案したアイディアが活かされているのかな


そう考えていると

「バスに繋いでの運搬は難しかったのですが、専用ボックスを設けることで、活用する農家が増えてきたようですよ」

と、オダが自分にだけ聞こえるような小声で伝えてきた


オダが近くに乗っていた農夫にふいに話しかけ、バスの利用状況を訪ねた


農夫は、中心街に買い物等が行きやすくなり、生産しているものも何かと活かせるので、助かってる旨の返事をし、穏やかな笑みをみせた


オダが会話を続けていくと、これからの町の要望の話しになっていった


農夫は、これからの農家の人材が欲しい要望と、郊外にあるアトラクションを活かしていえないか等の要望だった


ーまだまだ良くなる要素はあるな

と、ワクワクする気持ちが湧いてくるのを話しを聞きながら感じた



30分程すると、中心街にバスが着き、農夫に別れを告げ、オダとバスを降りると、目の前のビルが町の中心部と伝えられた


ー郊外から見えたビルがこのビルかな

他はマンションとかだろうか

思ってたより高い建物は少ないな


そんな印象を思っていると

「元々は全体的に農家が盛んな地域で、中心部に店や会社が増えていったんですが、今ひとつ発展しきれないところもあって、今回の法律の町のひとつに選ばれたというのもあるんですよ」


ー出来上がった町だと口出ししようもないんだろな



周りを見渡すと、昼間ということもあってスーツを着た会社員風の人々が往来していた


中心部からは各商店街が4方向に広がり、提案したとおりのレトロな雰囲気となっていた


一つの商店街の通りを進んでいくと、商店街の雰囲気に合わせたレトロな音楽が流れており、各店舗の店構えもあえて色あせた壁色となっており、外見上は築何十年も経ったように見えた


目玉とした店舗も商店街の中間あたりに出店されていた

オダとその店でお昼ご飯を食べる事にし、店の中に入ると、カウンター席が5席程と4人掛けのテーブル席が10席ほどの席があり、お昼時ということもあって店内は混み合っており、2人はカウンター席に案内された


中華料理店ということもあり、店内は中華風な雰囲気となっていたが、商店街の雰囲気と合わせるように、少し年季の入ったテーブルやイスを使用していた


注文が終わり、食事を待つ間に、オダの隣で同じく食事を待つ会社員風の男にオダは話しかけはじめた


バスの農夫と話したように、商店街の利用状況などを聞いていった


男は、雰囲気の変わった商店街を気に入っており、目玉の店以外にも商店街内を以前よりも訪れるようになったとの事だった


休みの日には、野菜等を家族と郊外に買いに行ったり、普段と違う環境にリフレッシュするのにもバスを利用する事が増えたとも話していた



オダは会話をすすめていくと、要望を引き出すように会話を展開していった


男は、郊外のアトラクションに魅力が足りない事を話し、他には今のところ満足している旨を話していた


話しをしているうちに注文がそれぞれに届き、それぞれ食べはじまった事で会話は終わった


ー思ってたより、満足してくれてるみたいだな

話しを聞いてるとアトラクションの事を変えて方が良さそうな…


やっぱ、実際の声を聞いてみると見えてくるんだな



その後もオダと商店街の中を歩きながら通行人などに、オダの会話術で話しを聞き出していった


聞く聞く人、暮らしが良くなったような感の話しをしていた


中心部から郊外に戻ると、農道で時折出会う人々にも話しを聞いていった


聞く人が柔らかい表情で、オダの会話に答えていった


ーなんか良いかも

そんな自信のような、ウキウキした気持ちが人々の話し、表情をみる度に湧いてくるのを感じていった



オダの車に戻り、アイマスクとヘッドフォンを用意するオダに、町を歩く中での一つの疑問を聞いてみた


「…あの、町の人たちの事で聞きたい事があるんですけど…」

そこまで言うと、質問があるのが分かっていたかのように、オダはすぐに反応し


「…ミサンガの事ですか?」


オダの声のトーンがいつになく低いように感じ

返事に少し間が空けたあとに

「…はい、町の人たち皆さん着けてましたよね。

なんか気になっちゃって。」


オダはフッといつものように穏やかな表情を浮かべ

「ここの地域の風習なんですよ。

生まれた時に皆さん着けるんですよ。

ここにしか生えない特殊な植物を使って作ってるようで、腕や足の成長に合わせてヒモが伸びるようになっているようです。

なおかつ、この地域に引っ越してきた人にも着けるようにしてるみたいです。

まあ、変わった風習ですよね。」


オダはそこまで話すと、それ以上は話すことはないかのように、出発の準備を再びはじめた



ヘッドフォンとアイマスクを着けて、車が出発すると

もう一つの疑問を思い出していた


ただ、オダの一瞬みせた雰囲気からそれ以上は聞いていけないような気がして、その疑問は自分の中にしまい込んだ


ただ、行きと同じように眠気が襲うまではその疑問が頭の中をループしていた



ーミサンガに記されていた数字

あれは何の意味があるんだろう…

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